第13話カストロ公爵再び④
「結局、どういうことですか?」
スプーンで薄いスープを口に運んでいると、フォークでサラダを突いていたメメが不意に聞いて来た。
「ん〜? ん? ……分かってたんじゃないの?」
「いいえ?」
あ、そうなの?
メメからのご褒美という楽しい一夜が明けて、宿にて2人で遅い昼食を取っていた。
「え? それなら、なんで?」
ご褒美くれたの?
「何か考えがあって、あの場所になさったのでしょう?
ウラハラ国の土地などご主人様にはなんの興味もない、そうでしょう?」
俺の動揺を気にもせず、しれっとメメは話を続ける。
いや、そういうことじゃなくて、成果も分かってないのにどうしてご褒美くれたのかって意味なんだけど……。
S級美女との1夜って、そんな簡単じゃないよ?
「あー……、まあいいか。
なら帝国にセントラル川へ港を、早急に設置するよう伝えて。
ほら、この間『ちょっとした』不幸で森が燃えちゃっただろ?
だから直線距離で帝都から海に出る道がコレで繋がったからさぁ。
色々、便利になるでしょ?
後、燃えた森が栄養になるから、そこを農園にして売ると商業連合国との良い商売になるかと思って。
あ、後、これで先に港さえ作っておけば、いつでも『商業連合国の首都』へ行き来出来るだろ?
楽じゃね?」
それを聞いていたメメは俺を見て、口を半開きにしたままポトリと持っていたフォークを落とした。
それからメメは片手で自らの顔を抑える。
「慣れるのよ、メリッサ……。この男はきっと、こんな奴なんだから……」
な、なんか呟いてる〜?
「あ、あの、メメ、ちゃん?」
「……ご主人様、報酬は如何致します?」
片手で顔を押さえたままの姿でメメが聞いてくる。
「報酬?」
「はい」
「もう貰ったけど?」
返せと言われても返せるものじゃないけど?
「へ? アレですか?」
メメはキョトンとした顔でこちらを見る。
そりゃそうだけど?
そのために、あんな怖いオッサンと張り合ったんだし?
「ふふふ……ふふ……、それで、いいんだぁ……。ご主人様は変な人ですね」
何故かとても嬉しそうに笑われてしまった。
俺が戸惑っている間メメは可笑しそうに笑っていたが、ふとこちらを見て。
「改めて追加報酬何か渡せますけど、何が良いですか?」
俺はよく分からないがラッキーと頷く。
「それはもちろん……」
昨夜と同じ一夜をと伝えると何故かメメは、またキョトンとした顔をする。
その顔、可愛ええなぁ。
「……ご主人様は、ほんと変な人ですねぇ」
そう笑った。
そうか?
それから僅か数ヶ月後、商業連合国の代表ベルファレスはその地位を去ることになった。
そうなった経緯をベルファレスは茫然と思い出す。
一時は帝国から予想を大きく超える土地を奪った。
カストロ公爵アレスを名乗る人物との交渉。
彼はノスタルジーを理由に帝国の不利益を気にもせず、かつての自国の領土の一部であったセントラル川周辺の土地を対価として要求した。
若造からまんまと大量の帝国領を商業連合国のものにしたベルファレスは、暫し商業連合国最高の代表として讃えられた。
セントラル川に港が、あっという間に出来上がるまでは。
そこからは転落の一途だった。
丁度折り悪く帝都とセントラル川の間を大きく塞いでいた大森林が何者かに焼き払われた。
その事でセントラル川の重要性は一気に高まった。
商業連合国からすれば最重要地と呼んでいい程に。
コレにより商業連合国は帝国に喉元を押さえつけられたに等しかった。
事実、セントラル川に出来た港から商業連合国の首都へはひと飛び。
帝都から軍を派遣すれば一瞬で陥落する事だろう。
川の流れ上、その反対に帝国首都に攻め入るのは困難なことは当然の事。
ベルファレスは完全にしてやられたのだ。
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