第12話カストロ公爵再び③

 あ、ども、アレスっす。

 ゴンザレスではないっす。


 詐欺師と名乗って良いかどうか分からないっすけど、詐欺師っす。


 現在、商業連合国代表とのお話し合いです。


 やってやる?


 無理無理無理。


 すげぇ威圧感なのよ、オッサン。


「ようこそ、カストロ公爵」

 そのオッサンが目は笑わずに、口だけ笑いながら握手を求める。


「会えて光栄です」

 心にも思ってない社交辞令を言いつつ。

 そういやこのオッサン、名前何?


 メメを見る。


「ベルファレス代表。こちら、帝国よりのお手紙です。

 委細は全てカストロ公爵アレス様にお任せすると」


「ほう?」

 とベルファレスのオッサン。


 イヤイヤイヤ!

 何言ってんの? 何言っちゃってんの、メメちゃん!


 俺いったい何交渉すんの!?

 何も聞いてないんだけど!?


 ソファーに促され座りメメは黙ってその後ろに立つ。

 なんだか偉くなった気分。


 なんでまた俺カストロ公爵をかたって、商業連合国代表と相対してんだろ?


 遠い目になりそうなのをグッと堪える。


 目標はただ一つ、とにかく無事に部屋を出る。


 ちょっと遠い目をしかけていると、向こうから話し出した。


「さて、エース高原の領地の件だが、此方はユーフラテス山脈の麓までを想定しているが如何であろうか?」


 あ〜、俺の頭に地形が浮かび上がる。

 無駄にふらふらしているから地形はよく分かる。


 領地そのものでいけば、がっつり帝国を侵食するなぁ。結構、オッサン欲張って来たなぁ。

 多めに言って譲歩を引き出す、例のアレかなぁ?


 通常の者なら相手の威圧と国を背負っている重圧で、相手の土俵に乗ってあっさり負けるだろうな。


 まあ、俺は気楽なもんだけど。


 それで良いよ? そう言っても良さそうだけど……。

 チラッとメメを見る。


 澄まし顔で特に反応なし。


 ちょっと欲が出た。

 俺は口を開く。


「良いだろう。代わりにセントラル川は此方で構わないな?」


「何? ……いや、失敬。

セントラル川……? ふ〜む……」


 此方の意図が読めなかったらしい。

 セントラル川は、この街への港にも繋がるアマガケ海に続く河川だ。


 中型の船舶などは河川は通れるが、有名な航路ではない。そもそもセントラル川周辺には目立った街はない。


 つまり受け取ったとしても開発の手間がかかるし、現状、何も無い土地だ。

 商業連合国からしても、帝国からしてもドがつく田舎に過ぎない。


 だからこそ意図が分からない。


「……くくく。分かりませんか?」

 俺は愉快そうに笑う。


 オッサンの動揺する様子が可笑しくて、俺は調子に乗ってしまう。

 俺はメメを見る。


「ああ……なるほど、コレは失礼した。

 帝国ランクNo.1が私の後ろに居るので、私が『帝国中心に』物事を考えると誤解を与えたようだ」


 俺は調子に乗った。

 とことん調子に乗った。


 後で後悔しそうだが良いじゃん!!

 こんな調子に乗れる機会なかなかないんだから、調子に乗っても!!


「メメ。此方に」

 手を伸ばしメメの手を引き俺の膝に座らせた。


 少しは躊躇ためらうかと思ったが、一切躊躇わず俺に手を引かれるままに俺の膝の上に座るので、逆に俺が困った顔をしてしまった。


 メメが膝に乗る際に、何故か少し嬉しそうに微笑したので余計に困惑した。


 オッサンには顔を見られない角度だったのが幸いだった。


「コレは私の愛人ですよ? ベルファレス殿?」


 オッサンは困惑の色を深め、その様子は俺でなくとも読み取れる。

 詐欺師は常に相手の顔色を見なければならない!


 俺は更に言葉による追撃をする。


 わざとらしく、ふふふと笑う。


「私は、『カストロ公爵』なのですよ? ベルファレスさん?」

 より親密に、相手に寄り添うように。


 そして答えはあくまで『相手が』導き出す。


「……成る程、大変失礼を。そうでしたな。

 元ウラハラ国筆頭公爵様」


 セントラル川周辺、そこはかつてウラハラ国の領土の一つであった。

 帝国の領地になる際に商業連合国が掠め取った土地でもある。


 俺は遠い目をする。

「ふふふ、良いのです。ベルファレスさん。

 つまりただのノスタルジーというやつですよ」


 そうして、俺と商業連合国代表との会談は終わった。

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