第8話ゴンザレスとグレーターデーモン③
メリッサがカレン姫を背負い森を抜けた時、背後の森は既に激しく燃え盛り更に拡大を続けていた。
そこから少し移動すると、森の入り口を境に数十万の魔獣と戦っていた第一、第二の部隊が、無事に撤退を済ませ休憩していた。
そこにはNo.10ソーニャ・タイロンも無事で居た。
メリッサはカレン姫の治療を頼み、第一、第二の隊長とソーニャに起きたことを可能な限り報告した。
彼がカレン姫を救出する際に森の中で起きた不可思議な現象、ただの一匹も魔獣に遭遇せずに目的地に辿り着いたこと。
共に行動していたメリッサよりも、遥かに早くカレン姫を見つけ出す驚異的な察知力。
カレン姫を救出して必死に真っ直ぐに逃げるしか出来なかった自分を、的確な指示を飛ばしてカレン姫共々命を救って見せた。
そしてもっとも恐ろしいのが、世界ランクNo.2カレン姫ですらただ防戦する一方だったグレーターデーモンを、ただ一撃。
毒の沼地で罠に引っ掛けたとは言え、ただの一撃で討伐して見せた。
とどめに森を焼き払い数十万の魔獣を殲滅し第一、第二部隊のみならず、帝国そのものを救い、その功を誇るでもなくそのまま姿を消した。
仮にだ。
コレが全て偶然の産物だとして、何処の誰がそんなことが可能だというのか?
はっきり言おう。
不可能だ。
かくして伝説は真実となる。
第一、第二の隊長、そしてソーニャの3人ともあまりの凄まじい結果に言葉が出なかった。
戦慄と共に実感する。
No.0、伝説に偽りなし、と。
だが、とメリッサだけは思う。
彼はよもや自分をNo.0だと気付いていないのではないか?
もしそうだとしたら……。
メリッサは心の中で歓喜の感情が沸き起こることを感じる。
それが自分のご主人様であることを。
偽りかも知れぬがそれでも伝説を作り上げてしまう存在。
そして、恐らく世界で唯一、自分だけがそれに気付いてしまったことを。
その歓喜の中でメリッサが思い出したのは、他のどの顔でもなくアレスが一瞬だけ見せた困り顔。
普段から冷静沈着を心掛けて、実際にそうである自分の中の心の動揺に気付いた時、メリッサは自覚せざるを得なかった。
そしてメリッサは思う。
あ〜……私って、ほんと男の趣味最悪……。
出来うれば、こんな趣味の悪い相手は今回限りで願いたい。
メリッサはただそう願うのみである。
「帝国……ね」
ふとメリッサは彼が言った一言を思い出す。
帝国に居られなくなる。
このような大火だ。
確かに犯人は帝国に居られまい。
『普通』なら。
だがその結果、カレン姫様は救出され、残っていた魔獣……数十万もの魔獣が森ごと焼き払うことで殲滅され帝国は救われた。
多数の被害と森の大火による被害は巨額にはなるだろうが、それでも帝国は生き延びられた。
帝国に数十万もの魔獣を押し留めることなど不可能なのだから。
だが、きっと彼は気付いてはいまい。
自身が救国の英雄などと。
そう考えメリッサはクスリと笑った。
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