第4話メリッサとゴンザレス②

「この間、この緊急事態に対し、世界全体で対応するためエストニア国に行ったわ。

 そこでNo.8に会った……」


 私は口を挟む事が出来ずに、ソーニャ様の言葉を聞く。


 ソーニャ様はそうすることで、自分を落ち着かせようとして必死に見えた。


 それはそうだろう。

 このままでは自分も死ぬ。

 いくら強くとも関係なく殺されているのだ。


 私と同じ歳ぐらいなのに誰にも頼れず、その恐怖に耐えるしかないのだ。


「No.8は焦る様子もなく、むしろ余裕すら漂う表情でこう言ったわ。

『問題ないわ。あるじ様が導いて下さるもの』と」

 No.8のあるじと呼ばれる人物。

 あの男が……No.0。


「……今、生きているナンバーズは5人。

 カレン姫様を除く4人とも……No.0と思われるあの男に接触した事があり、死んだ5人は、No.0と会った情報は聞いたこともない……」


 ソーニャ様を押し退けてNo.9になった女、ツバメと言ったか。

 確かに情報では、彼女もまたNo.0と疑われる人物と会っている。


 ならば、本当に?


 その後、ソーニャ様はカレン姫様救援のため第一部隊と合流する事になった。


 その瞳が誰も分からないぐらい僅かではあるが、恐怖の色が滲んでいることを私は気付いた。


 だから、私はあの男に賭けるしかなかった。


 もうそれ以外カレン姫様を救える可能性は、本当に唯の一つも選択肢が無かったから。




 あの男は簡単に見つかった。


 見つかるも何もない。

 だって、あの男は毎日街娘姿の私に会いに来るかのように、酒場に来ていた。


 その日も居た。


 私は城でカレン姫様の報告を聞いて、変装一つせずそのままの姿で走って此処まで来た。

 だから、いつもの街娘姿ではなく素の姿だ。


 密偵にあるまじきことだがそれでも構わなかった。


 私は男を見つけるや否やその場で土下座して頼んだ。


 そして、カレン姫が森の中で行方不明になっている事を告げると。


 彼は一言、『故意か』と。


 今回、カレン姫様が魔獣が居るであろう森に出たのは偶然ではない。

 狙われているなら、とカレン姫様自ら故意に出陣したのだ。


 だから、数万の魔獣を撃退する事が出来た。罠を張っていたのだから。


 だが、彼の言った意味を私は瞬時に悟ってしまった。


 故意に囮になるなど、なんと愚かだ、と。


 今起こっていることは、そんなに甘いことじゃないと。


 絶望に震えた私に、彼は優しく微笑んだ。


 もっと詳しく話を聞こうと。


 今の状況を説明し彼が告げた一言は、私を更に絶望に叩き落とした。

「無理だ」


 目の前が真っ暗になりそうになった、その時。


 彼は寂しそうに。

 帝国、と。


 帝国? 帝国に居られなくなるが、それでも良いか、と?


 恐らく、それだけとんでもないことをしなければならないのだろう。


 だが、逆に言えば……。


 私は覚悟を決めた。

 帝国に居られなくなろうと、この男のしもべとなろうともカレン姫様を救い出す、と。


 男は、いいえ、ご主人様は立ち上がった。

 それからご主人様と共に2階の宿へ。


 まずは休め、と言われながら。


 あれほど眠れなかったのに、私は眠る事が出来た。


 この日、私は初めて温かい男の人の腕の中で眠った。

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