第5話メリッサとゴンザレス③

 そんな訳で熱い夜を過ごし、一夜明け冷静になった私。

 メリッサです。


 ちょっと早まったかなぁ〜、と思わずにはいられなかった。

 まるで詐欺にでもあったみたい。


 ご主人様と共に森を移動している間に、事あるごとに逃げようとするのだ。


 今ではやっぱりこいつNo.0じゃないよね? と思ってたりする。


「ご主人様〜、どうするんですか? 森の中、着いちゃいましたよ?」

 ちょっと口調まで素になって、ご主人様となった彼に呼びかける。


 じーっと見るとわかりやすいほど動揺している。

 ちょっと面白い。


 それでも、ま、しょうがないか、とも思えるのは、なんだかんだ言って温もりの中で眠ってスッキリ目覚めたからでもある。


「とりあえず、こっちだ。」

 とりあえずね、はいはい。


 言ったところで他に手が無いのも何も変わらない。


 だけど、彼がNo.0には見えないけれど、もしかしたらカレン姫様を救えるナニカがあるかもしれない、そう思う。


 何故なら驚くべきほどに魔獣に遭遇しないのだ。


 今も森の入り口付近では援軍に来た第一部隊と第二部隊が戦闘を繰り広げ、はぐれた魔獣がいつなん時襲ってくるか分からない筈なのに。


 ちょっと迂回しただけで、アッサリと森に入れてしまったのだ。


 彼と接触したナンバーズは魔獣に襲われる事なく生きている。


 まるで彼が魔獣を寄せ付けないかのように。

 そうなると、当然、自身にもそれをしない訳がない。


 しばらく2人で森の中を歩く。

 不思議なことに、彼の歩みには迷いがない。


 やはり本物?

 どう見てもそう見えないけれど。


「んじー」

 あえて口に出して言ってみる。


 ビクッ、と分かりやすく反応してくれる。

 あまりに分かりやすくて、クスッと笑ってしまう。

 ちょっと可愛いとすら思ってしまう。


 そうしていると大きな沼に出る。

「黒い……毒の沼ですね」


 私がそう言うと、彼は木を沼に突っ込み刺した先端を嗅ぐ。

 彼はウッと顔をしかめる。


「ご主人様大丈夫ですか? 何やってるんですか? 馬鹿ですか?」

 とりあえず思った事を言ってみる。


 怒らずに困った顔をする。

 ちょっとその顔は好きかもしれない。


 彼は何かを少し考えた後、また歩き出す。


 不思議な人だなぁ〜。

 考えてないようで考えてそうだし。


 どう見ても強そうにないから、世界最強では無さそうだけど。

 違う何かは見えてそう。


 ピタッと彼の足が止まる。

「……帰ろう」

「駄目です」

「嫌だ。帰る」


 これは何かあるな? 私はキュピーンと来た。


 彼の視線の先を目を凝らす。


 あ、あれは!

「カレン姫様!」


 私は全力で駆け出した。


 カレン姫様は今まさに、グレーターデーモンに跳ね飛ばされ、数十メートル飛んで何度もバウンドする。


 今の今まで、ずっとずっと諦めずに戦い続けていたのだろう。


 目に涙が滲む。


 気絶したカレン姫様を抱えてグレーターデーモンから離れる。


 凶悪な叫びを上げてこちらを追いかけてくる。


「やめろ! コッチに来るな!!」


 彼が横を指差すので、私は迷い無く大木の横を通り過ぎた瞬間、彼が指差した方向へ飛び込むように曲がった。

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