第18話疑惑のゴンザレス②

 いや、オーケーアレス、じゃない、なんだっけ? まあ、いい、俺よ。

 まだ諦めるには早い。

 諦めたらそこでゲーム終了だぜ?

 勝負の神様アンザイーのお教えを心の中で唱える。


 詐欺師たる者言いくるめて金だけ頂戴しよう。

 だが、そもそも。

「幾らなんでも、流しの人間雇うっておかしいよな?

 なんでまた、そんな事態になってんだ」


 むくれたように、お嬢さんはそっぽを向く。

「……人手不足なの」

「人手不足〜? 帝国が? なんで?」

「No.9がエストリア国の部隊と、この間の邪教集団の時の部隊の両方とも壊滅よ?


 有能だった諜報部隊が2部隊も壊滅したら、流石に人手不足にもなるわ」


「そうなのか〜」

 ため息を吐きながら、凝った肩を解すようにぐるっと首を回し、何気に店内を見る。


 周りに人気はない。

 大丈夫か? この店、と心配になるほど。

 潰れたら、メメちゃんを拾うのはやぶさかではない。

 俺が養ってもらう側だが。


 ビバ! ヒモ生活。

 俺はヒモ生活も受け入れる柔軟な男なのだな。


 どうしたものかな? そう思いつつ、お嬢さんに尋ねる。

「いつまでだ? いつまでも拘束されては敵わん。期限を決めてくれ」


 お嬢さんは、俺があっさり乗りそうなことが予想外だったのか、少し戸惑いつつ、

「あ、そうね。有用な情報が出るまで、と言うのは?」


「それってずっとじゃないか? 有用の具体性が無さ過ぎる。

 2ヶ月以内とか期限切ったりだよ」


「2ヶ月ね。じゃあ、それでいきましょ」

 随分、あっさりだな。

 まあ、から、いいんだが。


「それだけじゃない。

 有用な情報が出れば良いなら、俺がしたお金をあんたが払ってくれたら、そこでこの依頼は達成、俺は無罪放免にしてくれるってのを付け加えてくれ。


 後、俺が活動した経費は全てそちらで持ってくれ、俺は金が無いからな」

「良いわよ。

 成功したなら、解放してあげる。

 活動資金は……当然ね。お金が無いと活動しようがないものね」


 いやにあっさりだな。

 まあ、いいけど。どうせ逃げられない。

 一介の詐欺師にどうこう出来るとは思えん。


「これ、あんたは幾らでも反故ほごに出来るが、なんとかならないか?」


「良いわ、公爵家令嬢であり、帝国第3諜報部隊、もう一つ付け加えるなら、世界ランクNo.10ソーニャ・タイロンの名において約束するわ。

 名誉の誓いってやつよ?」


 店内を見回す。

 メメちゃんと目が合い、手を振ったら、軽く頭を下げてくれた。

 メメちゃ〜ん♡


 願いを叶える時、悪魔は契約書を持って誓いを立て、天使は口約束のみってね。


 どちらが願いに対して信用出来るか、良く分かる例だと俺は思う。


 目の前の人物がどちらであるにせよ、俺に選択の余地は無いけどね。

 このままだと無銭飲食で捕まるから……。


「ランクNo.10?」

「……降格したのよ」

 お嬢さんはそっぽを向いた。

 大変だね〜。








 やったやったわよ!

 これで、この男がNo.0かどうか暴いて見せるわ!

 私、ソーニャ・タイロンは内心で歓喜した。


 これは諜報活動として、非常に危険な任務だった。

 敵地に仮想敵と共に乗り込む。

 幾らなんでも無謀と言える。


 そもそも、人手不足とは言ったが、幾ら人手不足とは言っても、外部の者を内部事情に巻き込んだりしない。


 だが、確認せねばなるまい。

 帝国の弱体化は激しく、エストリア国にいつ反撃を受けるともしれない。

 ソーニャ自身も不覚にも、ツバメと呼ばれる何者かにより、No.9の座を奪われた。


 世界ランクは力を示す。

 それはいつ、誰が判定しているかは分からない。


 ただ、判定された力は間違いなく本物だ。


 その何者かが、帝国領内の者ならばまだ良いが、エストリア国や他の国の者かもしれない。


 No.0、それは敵か味方か。

 ソーニャは、だらしなく密偵部隊の1人であるメメにだらし無い顔を見せる男を見た。

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