第11話領主ゴンザレス③

 この日、僕は初めて敗北というモノを知った。


 目の前にいるのは、満身創痍であり、もうまともにショートソードを振れない状態。

 それでも闘志を失っていない世界ランクNo.8疾風のイリス・ウラハラ。


 対する僕は傷1つない。

「ふふ、ふふふ。どうやら私の、私たちの勝ちのようですね」


 髪をかきあげ、ため息を1つ。

「どうやら、そのようだね。

 あれほどに大軍で、しかも僕まで同行して負けるんだから、戦争というのは難しいものだ」


「慰める気は御座いません。

 ですが、相手が悪かった。

 それだけで御座いましょう?」


 全くだね。

 僕はそう思わずにはいられない。

 構えていた槍を振り、血を払い彼女に背を向ける。


「トドメは刺して行かなくても良いのですか?」

「今から? 冗談はよしてくれ。

 この混乱している中で、彼が戻ってきたら、僕も確実に勝てるとは流石に言えないよ。


 40分粘れ、かい? 彼の指示は」


 戦闘を開始してから、もう30分を越えた。

 徹底的に彼女は粘ることだけに専念していた。


 万が一の可能性でしかないが、それでも勝つ事の一切を捨てて、ただ粘る。


「やはりお気付きでしたか」

 ピンと伸ばしこちらに見せた指は4本。

 つまり40分粘れば、なんとかするとNo.0は言ったのだ、と2人は気づいた。


 無論、誤解である。


「まあね。

 仕方ない、残念だけど今回は引くことにするよ。


 彼に宜しく。


 世界ランクNo.1の上にNo.0があるなんて、僕は認める気は無いからね。


 次は必ず潰す」


 集積所は物資がまともに残っておらず、今も大火が集積所を襲っている。


 視界のずっと先には、500ほどの騎馬に横腹を突かれ隊列がズタズタにされたコルラン軍。今から全力で走って援軍に行っても混乱は収まらないだろう。


 あの500の騎馬は大要塞サルビア側をわざわざ通ってやって来た。

 当然、大要塞サルビアは連携を取り、この機を逃さず包囲部隊を壊滅させているだろう。


 包囲部隊をカバーするはずのこちらの主力は、あそこで500の騎馬に翻弄されている最中なのだから。


 集積所で混乱する兵たちを叱咤激励しまとめ上げ、燃え上がる大火を魔力で消しとばす。


「覚えていろよ……No.0。

 この借りは必ず返す」


 僕は、この悔しさを忘れない。




 この日、公式にNo.0の名が出てきたわけではない。

 この戦争の発生の少し前、亡国ウラハラの王女イリス・ウラハラが何者かを伴って、サリバーンの地に領主としてやってきた。


 その何者かは、大国コルランに滅ぼされたシースルー国の天才執政官スラハリと騎士団長セボンを奴隷身分から引き上げ、その領地の采配の全てを託した。


 それだけではなく、娼婦に落ちていた大政治家セリーヌを見出すと、彼女に公的立場と人材発掘を命じた。


 娼婦に落ちていた数多の有能な女性が登用され、領主邸には有能な人材で溢れた。


 この時謎の人物が命じた清掃清潔衛生の3つの言葉は3Sとして、広く人々の生活の規範となり、流行病の激減に繋がった。


 また、その先駆者となった公営娼館は、国1番の娼館として、領地に潤いと娼婦たちの希望の地となった。


 行われた智謀の数々。

 聖者の如く教え。

 寡兵にて大軍を粉砕し敗北確定の戦場をひっくり返した武勇

 そして退けられた世界ランクNo.1。


 ここまでの偉業を見せつけれられて、人々はある人物を想像せざるを得なかった。



 世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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