第10話領主ゴンザレス②

 そんな時に緊急の連絡が来た。

 隣国コルランが攻めて来たというのだ!

 しかもコルランは大国であり大軍だというだけではなく、なんと世界ランクNo.1を連れて来ているというのだ。


 まさに切り札、究極の鬼手、むしろズルなほどだ。大国コルランの本気が伺える。


 エストリア国が誇る世界ランクNo.5、6を連れて来て、大要塞サルビアに篭って諦めてもらうという策が即採用された。


 そう、つまり俺たちは見捨てられた。

 俺の領主生活終了〜。


 早速、逃げる算段をつけよう。


 これは、もしや……チャンスではないか?


 戦争のドサクサに紛れて女と離れることも出来て、上手く相手側に寝返り出来れば略奪とか美味しい思いが出来るんじゃなかろうか!


 そうとなれば、気分はルンルンだ。

 奴隷で最初に任命した奴で1番有能だった奴に後任を任せる。

 好きにしなさい。


 じゃ! そういうことで!


 おうおう、残されて泣いておるわ。

 すまないね〜。

 恨むなら自分の運の無さを恨むんだな!

 俺を恨むなよ!


 うまやに行って、毛並みの良い馬を選ぶ。

 退職金代わりに頂いておくぜ!


 馬はあまり上手ではないが、優秀な馬なのだろう。乗りやすい。

 厩から出ると、ズラッと並んだ騎馬の人々。

 先頭に女。


 君たち何の用?

 俺これから逃げるんだけど?

「我々もお供させて頂きます!」

 女が皆を代表してそう言った。

 その後ろには、俺が最初に任命した男奴隷の片割れだな。


「分かった」

 一緒に逃げるのか。

 後で女を上手に撒かないとな!


 次々と騎馬が集まりその数500!

 あれ? 随分沢山になったなー。

 この周辺の地域全てが見捨てられたんだもんなぁ、仕方ねぇよな。


 俺を先頭に騎馬隊が進む。

 あのさ……なんで俺が先頭なの?

 君たち立派な鎧とか付けている人も居るよね?

 いや、逃げてるだけだからいいんだけど。


「あるじ様! こちらの方角は……」


 あん?

 そりゃあ、敵から逃げるのにエストリア側に走るに決まってるだろ?


「イリス様! おそらくアレス様は大要塞サルビアと挟み込みを掛けようとなさっているのではないかと!」

「あ、なるほど、それなら騎馬隊の突撃力を生かして……」


 なぬ!?

 こちらは大要塞サルビアに向かう道か!


 あっぶねー!

 敵に突っ込むルートじゃないか。


 大要塞サルビアを包囲する敵は、こっちから向かわなければ会うことがないから有難いもんさ。


「こちらだ」

 カクッと曲がる。


 今から方向転換すれば大丈夫だろ?

「な! もしやこの道は!」

 男奴隷は驚きの表情。


「知ってる道か?」

 知ってるなら案内してくれよ。


「いえ、ですがこっちの方には……流石はアレス様」

 そうか、そうか、合ってるんだな、逃げ道。


「居る!」

 女が叫ぶ。


 光が走る。

 右サイドを走っていた騎馬のいくつかが、消滅する。


 え? 消滅?


「あるじ様!! あれは……No.1です!」


 なんですとー!

 金髪の凄いイケメンが槍を構えている。

 あれは俺でも知ってる。

 世界ランクNo.1、光のハムウェイ!

 俺的通称ハムの人!


 キュピーン!

 ここで俺にとっておきのアイデア!

 ここで女を人身御供に使えば良くない!?


 そうすることで俺は逃げれるし、女からも逃れる事が出来るので一石二鳥!!

 起死回生の大名案!


 問題は女が大人しく犠牲になってくれるかだが……。


「あるじ様、ここは私が……」

「頼む」

 即答である。


 はい、と儚げに笑う。

 や〜っぱい〜い女だよなぁ。


 あんなヤバ〜い女でさえ無ければなぁ〜。

 よろしく出来たんだけどなぁ。

 ま、いいや。


 俺のために散ってくれ。


 じゃ! 片手をピンと伸ばし合図。

 今頃、見捨てられたことに気づいたのか驚きの表情。


 だが、それでもNo.1から逃げれないと思ったのだろう。覚悟を決めた目で光のハムウェイに突っ込んでいった。


 あばよ〜! No.8〜。

 俺は満面の笑みだ。


 後続はまだそのまま続いてくる。

 後ろの騎馬の人たちも自分に素直だねぇ〜。

 逃げるべ逃げるベ。


 そのまま走ると、何やら山のように積まれた物資の山が見える。


 マジか!

 こんなところに物資の集積所が有ったか!


「火、あるか?」

 俺は奴隷男に尋ねる。


 馬で走りながらだから、火は無理か?

 火つけたらさらに、逃げやすくなるんだけどな?


「魔法がありますゆえ、御安心を!」

 あんた魔法まで使えるのか!

 なんで一緒に逃げてるんだ?


 まあ、男の事情などどうでも良い。

「突っ切るぞ!」

「おーーー!!!」

 500近くの騎馬の男たちが俺の言葉に応える。


 皆、逃げるのに必死だものな!


 結果で言えば、集積所は大火となり、その後、別のところからコルラン国の大軍が見えたから、奴隷男と騎馬たちを大軍に突っ込ませ、その隙に俺は見事に逃げおおせた。



 俺は、俺は、ついにやったぞー!!!!


 あの女からも戦争からも逃げおおせる事が出来たのだ!!!


 こうして、俺は1人、気ままな詐欺師稼業に戻ることが出来たのだった。

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