第12話罪人ゴンザレス①

 俺の名はアレス。詐欺師だ。


 ゴンザレス? 誰だそれ? 昔聞いたことある気がする名だな。


 何処かの建物のフカフカの絨毯の上。

 現在、絶賛、縛られ中!

 あっれー? なんでこんなことになってるのかな?


「コレがNo.8と一緒に居た男?


 なんの魔力も感じないですわよ?」

 歳の功は10代後半から20代前半。キツめの目だが美しい顔立ち、金の髪に前髪ドリル。

 そう、誰もが知っているお嬢様。

 その名を世界ランクNo.9、帝国の秘宝ソーニャ・タイロン。


 俺は自分がどうしてこんなことになっているのか思い出す。


 その夜はサイコーだった。

 戦争後の興奮、女から逃げる事が出来た解放感。

 馬を売った金で、娼館で大豪遊である。

 あの馬はい〜い馬だった。

 素直で乗りやすくて、名馬とはあの馬を指す。

 街で速攻で売ったけど。

 あばよ! 馬。


 しかし、問題はそこからだった。

 立ち寄ったエストリア国の街の酒場で聞いた話だ。

 なんと銀髪のイケメンに指名手配が掛かっているというじゃないか!


 イケメンだから、俺のことだ。

 冗談ではない。

 あの土地で女遊びも、夜通し酒盛りも出来ない監禁生活など冗談ではない。


 毎日、適度には酒が飲めて3食飯が出てぐうたら出来て仕事もない、アレではどんな人間も駄目になる。

 あれ? 女遊びだけ我慢すれば、最高じゃん?


 いやいや、俺の志しはもっと高い。

 そこに女をはべらさないと。


 それにあの女に捕まるのはマズイ。

 世界ランクNo.8亡国ウラハラ国王女にして、俺をあるじと呼ぶ勘違い女。


 そういやあの女、随分前に国を救ってくれとか言ってなかったか? 私たちだっけ?

 ま、いいや、大体亡びたもんどうやって救うってんだ。


 そんな訳でエストリア国内はマズイ。

 次に近いのはコルラン国だがあっちの方がもっとマズイ。

 逃げる時に顔を見られていたら、火事の下手人で処刑だ。




 実際、アレスがコルラン国に立ち入ってしまえば、大罪人として王都で市中引き回し後、王族が見守る中で公開処刑間違いなしであろう。

 コルラン国の野望の出鼻を徹底的に叩き潰してしまったのだから。


 というわけで、次に近い国は帝国でありアレスはそこに向かった。


 アレスは当然のように、帝国の女性の味見とばかりに娼館で大豪遊を行った。


 だが、考えてもみてほしい。

 馬を売って以来、アレスはなんの仕事(詐欺)もしていなかった。

 つまりアレスのお金は尽きかけていたのだ。


 なんたる悲劇!


 だが、それだけなら致命的ではなかったであろう。

 その日、帝国の秘宝ソーニャ・タイロンは邪教殲滅調査任務のため娼館にいた。


 あろうことか、アレスという男はよりによってこのソーニャ・タイロンに執拗に絡んだのだ!

 何故ならタイプだったから!


 その時は、ソーニャもトレンドマークのドリル髪はしておらず、ただの綺麗な金髪のスタイルの良い美人さんでしかなかったのだ。


 当然、ソーニャファンクラブ会員の彼女の部下たちがそれを許すはずもなかった。


 結果、拉致られた。

 さらに、あの帝国の拠点を潰した日、No.8の女と一緒に居た事がバレて今に至る。

 大ピンチ!


「処分いたしますか?」

 ソーニャファンクラブ会員No.2のソーニャの部下Aがソーニャに尋ねる。

 ちなみにファンクラブは非公式である。

 影からソーニャを守るのが彼らの矜持なのだ。


「そうね……」

 ソーニャは思案する。

 彼女からしたらどちらでもよいのだろう。


 ここだ!

 生き残るためには、今やらなければならない事がある!


 俺は、今ここにある危機を乗り越えるために彼らに語りかけた。


 内容はソーニャへの愛だった。

 つまり情に訴えようとしたのだ!


 その演説は1時間に及びソーニャには大いに引かれた。

 だが、その戦いは無駄ではなかった。

 響いたのだ!


 そう! 彼らソーニャファンクラブのメンバーに。


 ソーニャファンクラブ会員No.2は思った。

 コイツにはソーニャに対する愛がある。

 それは幾多の罪を補って余りある、と。

 勘違いである。


 この日、アレスは覚醒した。

 さしずめ、詐欺師2が詐欺師3になる程の快挙。

 ちなみにスキルランクは1〜10プラスMAXまである。


「ソーニャ様、コヤツには例の潜入を任せてはいかがでしょう?」

 コイツならやり遂げるかもしれない。

 ソーニャファンクラブ会員No.2はそう確信した。

 これを成し遂げられるなら、アレスを会員No.600に推薦しても良い、と。


 ソーニャは嫌そうな顔をしたが、彼女は良い上司であった。

 部下の進言を無下にしない。

 そこが彼女のファンクラブ(非公式)が拡大する1つの要因であった。


 そうして俺は九死に一生を得たが、代わりに邪教集団への潜入という任務をさせられる事となった。


 あと、ソーニャの部下の1人から熱い視線で肩を叩かれて、気持ち悪かった。

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