第13話罪人ゴンザレス②

 帝国領内の何処かの遺跡。

 黒いローブを着た如何にも怪しいですね?と思える集団の中に俺は居た。


 邪教はなんの変哲も無い青年が、広場で貴方は救われたいと思いませんか? と勧誘してきた。


 何処からどう見ても詐欺師の手口と一緒だが、主婦らしき中年女もあっさり引っかかっていた。


 人は誰しも心の隙間があるのだ。

 ちなみにその中年女は、俺の許容範囲に入っていたから、同期として振る舞い、美味しく貞操を頂いておいた。


 この時、勧誘していた青年は幹部の1人であった。

 俺があの手この手で中年女を、引きずり込みながら堕としていくのを見て、才能有りとして幹部陣しか立ち入れないこの遺跡まで、連れて来られた。


 帝国がナンバーズを動員してまで調査する邪教組織だからだろうか、幹部陣だけでも100人以上居た。

 全員黒いローブを着て実に陰気な集団だ。

 かなり帝国内部に浸透してるんだろうなぁ。


 このまま、幹部として教団の信者の女を食い漁り、好きなだけ飲み食い出来るならこのまま上り詰めるのも悪くないと思わなくも無い。


「うんにゃはー。うんだばうんだば、めらっさめらっさ!

 我がツンデレイトの名において、神よ聞き届けたまえ〜」

 この間抜けな呪文には付いていけねぇけど。


 ひとしきり遺跡の中の祭壇で間抜けな呪文を唱えたあと、1番先頭の偉そうなジジイが、俺たちに向け、偉そうに言う。


「世界ランクを刻む世界の叡智なる塔は、邪神の仕業である!

 諸君! 我々は世界の叡智なる塔を破壊し、世界を守らねばならん!」


 そうだ! そうだ! 幹部たちは口々に声を上げる。

 はー、アホくせ〜。


「その為にも、信者を増やし、富を集め! 我らの手で信者に正しき教えを伝えてやらねばならん!」

「そうだ! そうだ!」

 これには俺も一緒に声を上げる。


 そうなのだ、富を集め信者(女限定)に手取り足取り、有難い(俺の)教えを伝えねばならない!


「まずはここにー!

 我らの神に我らの決意を伝えねばならん!!


 これ、ここにアレを」

 偉そうなジジイが、そばに控えていた陰気なオッさんに何か指示を出す。


 ガラガラ〜と台車で何か、というかロープで縛られた誰かを運んできた。


 台座にソーニャ・タイロンが置かれる。


 お〜い。

 なんでNo.9が拉致られてんの?


「この女は、忌々しきあの塔に選ばれたナンバーズと呼ばれる女だ。

 この女を我が神への供物としようではないか!」

 ざわざわと騒ぐ。


 そりゃそうだ。

 ナンバーズは化け物集団。

 縛られてても安心出来る訳がない。


 偉そうなジジイが大袈裟に、杖らしき物を取り出し、幹部たちに見せつける。


「静まれ! 諸君!

 安心したまえ!

 この魔道具により、この女は身動きが取れなくなっている。


 この度、不遜なる帝国の奴らが我らを探っていた。

 そいつらを見事に我が策により、壊滅させこの女を捕らえる事に成功した!


 残りはただひとーり!!!


 アレス君?

 君だよ君。


 出てきたまえ」


 え? 俺?





 俺の周りから一斉に人が居なくなり、幹部たちは俺を中心に円上になった。


「クックック、驚いているようだね?


 君たちのソーニャファンクラブだったか?その中に密偵を潜ませてもらったよ。

 彼は男が好きだから、帝国の秘宝の魅力にはかからなかったのだよ!」




 ちなみにアレスはまだファンクラブの存在を知らない。知っても絶対に参加しないだろうが。




 この場をどう凌ぐか?

 俺は考える。

 帝国の手先というのは、当然誤解だ。

 かと言って謝ったら許してくれるだろうか?


 もぞもぞとソーニャが身体を捻る。

 縛られている女性ってちょっと良いよね?

 俺だけ?


「逃げなさい!

 私のことはいいから逃げて、このことをカレン姫様にお伝えして!」


 そんなこと出来る訳がない!


 逃げはするが、なんでわざわざ世界ランクNo.2のカレン姫に接触しなけりゃならん。まっぴらごめんだ。


 だが、逃げるための良い案が浮かばない。

 そもそも逃げられるなら、名前を呼ばれた時点でとっくに逃げてる。


「そう……逃げないというのね。

 なら、あの杖を破壊して!


 アレはあの杖で私は拘束されているのです! アレさえなければ!」


 逃げれないだけだって!

 そこにジジイが話に割り込む。


「クックック、この杖で真名を呼ばれた者は、その魂を縛られてしまうのだ」


 ジジイが演者のように両手を広げ、俺のそばにまで近寄る。


 自己主張強いジジイだな。


「そういうことだよ。アレス君!」

 杖がピカッと光る。


 ジジイが俺の目の前に来た。

「はーっはっは! どうだ? 動けまい!

 寂しくないように君も彼女と共に心臓をえぐり、へぶっ」


 ジジイの顔面を思いっきり殴ってやった。

 落ちた杖を拾う。

 真名というなら、ゴンザレスなんだろうなぁ、俺。


「ツンデレイト」

 お! ほんとにジジイの動きが止まった。

 口は開くようだが。


「な、何故だ! 何故拘束されない!

 この杖の効果は完璧なんだぞ!!


 貴様が帝国に来る前から、アレスという名で呼ばれていることは調べが付いている!


 この世界の者であれば、世界ランクがそうであるようにその影響から逃れられる訳が……。


 ま、まさか」


 ジジイが何か言ってるが、杖を取り返されたら終わりなので、踏んで壊す。


 えい。

 ばきっと簡単に杖が折れた。


 その瞬間、台座が粉砕され、そこにソーニャ・タイロンが立ち上がっていた。


 ぎゃー!


 幹部たちは大混乱、ジジイは座り込んだまま。

 何故かソーニャ・タイロンではなく、俺を見て怯えている。


「叡智の塔にすら縛られない存在……、世界最強No.0……まさか、実在していたとは……」


 誤解です。


 ジジイがずっとぶつぶつ言っていたが、放っておいた。

 ソーニャ・タイロンが大暴れしているうちに、俺はローブを被り直し、逃げ惑う幹部たちに紛れてこの場をオサラバしておいた。


 くわばらくわばら。





 この日、帝国に蔓延っていた邪教集団が、世界ランクNo.9帝国の秘宝ソーニャ・タイロンにより壊滅された。


 だが、それ以上にソーニャ・タイロンから帝国本部にもたらされた報告は世界に衝撃を与えた。

 世界最強ランクNo.0は実在し、その名はアレスというのだ、と。


 世界ランクを刻む世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る