第8話公爵ゴンザレスVS異世界召喚勇者③

(は、入ってきやがった!)


 流石は勇者といったところなのだろう。

 少年は迷わず、俺が隠れている部屋に足を踏み入れた。


 油断なく部屋を見回し、慎重に少年は近づいてくる。

 そこに油断は感じられない。


 俺は恐怖を感じながら、隠れていた机の下から飛び出し、机の上にあった小瓶やらペンなどを投げつけた。


 少年はそれにハッとして気づき、ペンはアッサリ躱され、小瓶は聖剣で真っ二つ、中に入っていた液体が少年の顔にかかるがそれだけ。


「……なんのつもりだい? 毒でも投げたのか?


 だが、無駄だったね?

 僕には毒の一切が効かないよ?」


 アレスは毒など持っていない。

 人を殺せるような暗殺用の毒は高いし、つてもいるのだ。

 当然、アレスにそんな金も伝も無い。

 あるわけ無い!


 だが……。

「ぐ……ぐぐぐ……」

 少年が突然苦しみ出し、身体から白い煙が上がり始める。


「あ、ア、レス。貴様……僕に、何をした、んだ?」

 もちろん、アレスに心当たりなどない。


 無言で少年を見つめるしか出来ない。


「その目……そう、か。

 貴様の、計算、通りというわけ、か。


 やたらと花瓶や壺を、投げ付けたのも、僕を油断させ、この小瓶の、液体を、僕に、かけるための……布石」


 そんなことより少年から、立ち昇る煙が凄いことになっているが大丈夫か!?


「グッ、ぐわーーーーー!!!!!」

 苦しんでいた少年は最期に叫び声をあげ、そのまま倒れ伏した。


 身体から立ち昇っていた煙は、跡形もなく消え失せて。


 勇者殺人事件……。

 いや、ただの事故だったんだ。


 俺は頭の中で、一生懸命言い訳を考える。


 そこに侯爵と女が現れる。

 女はさも当然と言わんばかりに俺に頷く。

「流石は我があるじ」


 ……何が?


 侯爵はやはり殺人現場を見て、茫然としている。

「ば、ばかな」

 今日、何度目かのばかな。


「何故、コレのことが……。

 まさか、最初から……?


 何故、いきなり私のところに来たと思ったら、そういうことだったのか……。


 ……分かった。

 イリス・ウラハラ。

 条件を全て飲もう……」

 侯爵は何故か肩を落とす。


 女は悠然と微笑み、

「ええ、お願いしますわ」


 何言ってるんだ、こいつら?






 エストリア国の国務大臣ケーリー侯爵にはある野望があった。

 アレスが投げつけたTS細胞、通称薬を使い、女になって童貞の美少年を食い漁るという野望が。


 その最初のターゲットに選ばれたのが、勇者キョウ少年であった。

 そのための隷属の首輪を用意して、あの手この手の根回しは済んでいた。

 後は実行あるのみだったのだ。


 その野望は後一歩のところで、この男、No.0により阻止された。


 この男、No.0は分かっていたのだろうと侯爵は考える。


 このTS細胞を手にするために、表に出してはいけない悪いことも沢山した。当然、恨みも沢山買った。


 だから今日、彼らはここに来た。

 しかも自らは勇者を使い物に出来なくするよう動いている間に、イリス・ウラハラに交渉させて。


 タイミングも完璧だった。

 話を聞かされ、何を馬鹿なと一笑に付そうとした直前だった。

 他でもない勇者の叫び声。


 それは戦慄。

 何故ならそれは勇者が敗北し、今この瞬間、No.8疾風のイリス・ウラハラが侯爵自身を切り刻んだとしても、誰も止められないという事実。


 それと同時にあの胡散臭い詐欺師のような銀髪の男が、紛れもない世界最強のNo.0である証拠なのだから。


 蒼白な顔で僅かな希望を持って、事実を確かめに行った。

 事実はもっと遥かに絶望的であった。


 それはTS細胞を勇者にぶつけたことだけではない。


 この男は……No.0はその手に『武器1つ持っていなかった』のだ。


 聖剣持ちの勇者相手に素手で傷1つなく完全に制して見せたのだ。


 世界最強No.0、伝説に偽りなし。


 侯爵は身体の力が抜け足元から崩れ落ちた。

 足元には性転換薬により性転換し、スヤスヤと眠る美少女勇者キョウ・クジョウ。


 とてもカオスな部屋であった。





 この日、世界はまたしても震撼する。

 エストリア国の最強の勇者と目されるキョウ・クジョウというがこの世から消えた。


 やったのは世界最強No.0。

 だが、真実を知るはずのエストリア国の国務大臣ケーリー侯爵はその一切を黙した。


 同時にこの日、国務大臣ケーリー侯爵によりエストリア国の小さな地方の土地が、亡国ウラハラの王女イリス・ウラハラに譲渡された。


 名目上は帝国の拠点を潰し、帝国の野望を大きく後退させたためとされているが、真実は同様に不明である。


 世界ランクを示す世界の叡智の塔。

 そこには未だNo.0という番号は、ない。

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