第7話公爵ゴンザレスVS異世界召喚勇者②
しかしながら、人1人を買う訳だから、その金額は決して安くはない。
最低の相場でも金貨1000枚と言ったところか。
そんな訳で俺がそんな高級品を所有している筈もない。
何を見て、奴隷と言ってるのか視線を追ってみると、女の首の赤い首輪にいっている。
女が少年の首への視線に気づいて、顔を赤く染めてこちらをチラチラ見る。
おい……、俺を見るな。
それ、俺関係ないからな。
当然、俺からのプレゼントだったりはしない!
ある日、女がいつのまにか赤い首輪をして、
「私はあるじ様のシモベですから。なんでもご命令して下さいね」
とか言いやがった。
しかも、その首輪は狙ってやっているのだろうが、魔道具の隷属の首輪によく似ている。
つまり、女のせいで俺が奴隷を使役していると間違われたのだ。
「……誤解だ」
マジで誤解です。
だから、その綺麗なブロードソードしまって下さい。
あとその剣、噂に聞く聖剣じゃないですか?
「気づいたようだね。
そうだよ、僕は聖剣に選ばれた。
この聖剣で、僕は最強であることを証明する」
売ったらいくらになるだろう?
俺なら選ばれた瞬間にラッキーとばかりに売り飛ばすな。
「やるならば中庭に移動して下さい」
侯爵が提案する。
つまり表に出てやってくれ、ということだろ?
やらないよ?
「やらないぞ?」
「問答無用!」
少年は聖剣を構える。
いやいや、問答無用じゃないよ!
少年よ、早まるな!
身を低くして、いつでも飛びかかる態勢に。
やばい! 殺される!
女! お前もシモベを自認するなら、この暴走坊主を止めろよ!
女を見ると、分かってますと頷いて一切動かない。
ちげぇよ!
助けろよ。
仕方ないので俺は逃げ出した。
部屋の中を全力で走る俺に油断なく聖剣を構える少年。
こちらが何かすると思って警戒しているのだろう。
でなくば一足飛びに飛びかかって来てズンバラリンだ。
俺は、俺は生きるぞーーーー!!!!
逃げながら侯爵家にある高級そうな花瓶を投げつける。
高額なものだろうし弁償などと言われると生涯奴隷真っしぐらだろうが、死んだらそこで終わりだ。
当然、相手は軽く避けて終わり。
手当たり次第に投げる。
椅子、壺、燭台、全て間違いなく高級品。
それを少年は聖剣で払う。
部屋の中で投げられそうな物は……女と侯爵しかいない。
女を投げたら俺が切られるし、侯爵を投げたら後で処刑だろう。
なんてことだ!
俺は扉を蹴破る勢いで部屋から飛び出した。
流石は侯爵家といったところで、長い廊下に花瓶や壺などの調度品がバランス良く置かれている。
その花瓶や壺を転がしておく。
少年転んでしまえ!
少年は聖剣を構えて、警戒とした足取りでこちらを睨みながら近づいてくる。
ひ、ひーーーーーーーー。
殺人鬼に追われる気分を存分に味わいながら、俺は逃げる。
角を曲がったタイミングで、1番近くの立派な扉から部屋に入り、気配を消す。
足音も聞こえない沈黙。
同時刻、部屋の外。
勇者としてエストリア国に召喚された少年、キョウ・クジョウは得体の知れぬ不安に襲われていた。
召喚されてから、世界ランクナンバーズに挑戦こそしたことはないが、ドラゴンを始めとしたSSSランクの幻獣とのチートを使いこなした戦いを経て、自身もSSSランクと呼ばれるほどに強くなった。
キョウ少年は純粋に強さを求めた。そうすれば、いつかはモテモテになり童貞を捨てられると信じて。
今日は侯爵の護衛として隠れて行動をする必要があったため、同じ勇者パーティの美しいモデル体型の剣聖とワガママボディを持つ聖女は残念ながら一緒ではない。
ちなみに彼女たちは国から勇者をハニートラップにかけるためのお手付き要員であり、いつでもカモン状態である。
そんな残念なキョウ少年であったが、そのスキル、強さは本物である。
そんな彼が今、ゴンザレスもといアレスを追いながら激しい焦燥にかられていた。
「一体、アイツはなんなんだ?」
キョウ少年には、異世界召喚特典の降って湧いた、いくつものチート能力がある。
その中の1つに敵を探索するレーダーが備わっている。
敵に対して、赤いマークで位置を教えてくれるレーダーなのだが、それが奴に対しては一切反応しないのだ。
部屋の中に居た時にはあの女、亡国の王女イリス・ウラハラに対しては、レーダーは真っ赤に反応していたので不調ではない。
ケーリー侯爵でさえも勇者を前々から警戒していたこともあり、僅かながら赤く反応していた。
なのにアレスと名乗る男だけは一切の反応がない。
まるで一切敵意を抱いていないかのように。
それはあり得ない!
だからこそ、ああやって挑発して殺気までぶつけてみたのだ。
今もこうして、アレスはただ逃げているだけのようではないか!
アレスの底知れなさに、キョウは身震いする。
「これが……No.0。世界最強……!」
眉唾物と思っていた。
噂は良く聞く。
誰も実物に会った者はいなかった。
会った者はいないのに伝説だけは増えていく。
実際に救われた者、叩き潰された者。
姿形はないのに、まるで災害の後のように結果だけが残されていく。
キョウ少年にはその伝説の一端が分かった気がした。
気配の一切がないのだ。
だから、多くの人は気配なく行われた偉業に結果だけを知ることになる。
無論、全てキョウ少年の勘違いであるが。
彼はキョウ少年に一切の敵意がないだけである。
自分が逃げるのに精一杯なのだ。
そのアレスをキョウは慎重に追っていく。
ふと、角を曲がったすぐの立派な扉が僅かに開いている。
ケーリー侯爵の私室のようだ。
当然、意味もなくNo.0が扉を閉め忘れるなどあるわけがないのだ。
十中八九、いや、十中十罠だろう。
望むところだ。
キョウ少年には数々の耐性がある。
その中でも毒については完全無効である。
思考加速もある。
如何なる事態でも即座に対応し、聖剣でもって一刀の下に叩き斬れば如何にNo.0とは言えどうにも出来まい。
そう自身を奮い立たせ、キョウ少年は部屋へと足を踏み入れた。
……それが自身の運命を変えることになると気付かずに。
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