第5話詐欺師ゴンザレス⑤

 刹那の間に互いの距離が0となり、ぶつかり合う。No.8とか言う男の部下は跳ね飛ばされる。


 お、俺も跳ね飛ばされるー。

 ロープ誰か切ってくれ! 逃げるから。


 互いの剣が全く見えない速度で2人は剣をぶつけ合う。


 そういうのいいから!

 もう2人で勝手にやりあってくれたらいいから、まーきーこーむーなー!!!!


「ははは! やはりな!

 No.10とNo.8僅か2の差だがその差は歴然!

 貴様は俺には勝てんよ!」


 剣筋は見えないけれど、女の方が傷付いていってる。

 俺としては女よりも帝国の男が勝つ方が得かなぁ? 交渉の余地があるとか言ってたし。


 どっちもバレると殺されるのは、同じだが。


「……負けない。


 これは、No.0から与えられた試練なのです。


 建物の前に来た時、気付けなかったけど、彼はNo.0は私に問うていた!


 お前に覚悟はあるのか、と」


 問いかけてません。

 幻聴です。

 帰っておやすみください。

 とにかく俺も逃げないと、いつ巻き込まれて切られるか分かったものじゃない。


 周りにある物で切られてないもの無いんじゃないか?


 キョロキョロと見回す。

 あった。


 No.8の男の後方に木箱が積んである。

 そこは未だに無傷だ。


 とりあえずそこまで逃げようと、芋虫のようにヘコヘコと進む。


「む? なんだと!? 貴様!」

 構わなくていいのに、No.8の男は俺の動きに反応した。


「0様!?


 ……そういうことか!」


 0様って誰よ?

 分かってるよ! 俺のことなんだろ!


 俺が心の中で嘆いている間に、女が風の刃を飛ばし木箱に命中。


 白いと思うほどの光が見えて、遅れて……。


 激しい爆発音!


 吹き飛ばされ、あちこちぶつけながら自分が落下するのが分かる。

 途中、建物の端にロープが引っかかり、落ちる速度が弱まる。


 ぶちぶちとロープが千切れて、また落下するが地面が近かったらしい。


 ケツから落ちて、ケツが2つに割れたほどの痛みがあったが、それ以上の怪我はなく、ロープも切れていた。


 座り込んだ姿勢のまま、ふーっとため息をついて顔を上げると、憤怒の顔したNo.8の男。


「貴様……! アレが爆弾だと気付いていたな?

 それをNo.10に切らせて建物ごと爆発させるとは!」


 濡れ衣です。

 ねえ? 聞いて?

 と言っても俺、さっきから何も喋ってないけどね。


 一足飛びで男は俺に斬りかかる。

 金属音とともに、女が割り込む。


「邪魔をするな! No.10!」

 女と剣で切り結ぶ。


やらせはしない。彼は! No.0は私の希望! 帝国のNo.8になんかに絶対!!」


 互いが距離を取り、魔力を練る。


「……No.0、何故に動かん?


 ……そうか、そういうことか。

 貴様はこの戦いで勝った方に与する。

 そういうわけだな?」


 どういうわけかは分からないが、勝った方に付くのは当然なので、頷く。

 あと、動かないのは、尻が痛くて動けないからだ。


「0様…見てて下さい。


 これが、私の覚悟です」


 女が何かを覚悟したらしい。

 どうでもいいよ。


「行くぞ! No.10……いや、疾風のイリス!!」

「ええ、行くわよ! 帝国の黒き獣!」


 2つ名ってやつだなぁ、恥ずかしくないのか?

 俺なら恥ずかしい!

 無理! もう帰して!


 2人は更に魔力を練って、黒い魔力と緑の魔力がぶつかる。


 魔力風で飛ばされる俺!


 2つの黒と緑の閃光がぶつかる。


 女の左腕に大きな裂傷。

 男は、女のショートソードに胸を貫かれ、

「み、見事だ……。

 口惜しいが……これで、貴様が、No.8、だ……」

 ガクっと男から力が抜ける。


 うえぇ、殺しやがった。


 女は男を横たえ、血だらけの姿で俺に満面の笑みを見せる。


 こええよ!!


 女は俺の前にひざまずく。

「どうやって来た?」

「へ? あ、あるじ様の匂いを追っていたら、ここへ」


 ええ〜? この女、姫じゃなく犬だったか!?

 あと、あるじ様ってなんだ、あるじ様って。


「俺はお前の主人じゃない」

「叶いますならば、そう呼ばせて下さい。私の忠誠ゆえに」


 い、いらねーーーーー!!!!!!


 付きまとってくんな!

 まっぴら御免だ!

 血塗れで恍惚な顔で笑う女に、怖くて言えなかったけど。





 建物が崩壊したことで、帝国はエストリア国侵攻に対し大きく後退を余儀なくされた。



 同時にこの日、世界の叡智の塔にて、No.8の黒き獣オーレンの名が消え、No.10疾風のイリス・ウラハラがNo.8となり、世界に衝撃を与えた。


 だが、そこには未だNo.0という番号は、ない。

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