第4話詐欺師ゴンザレス④

 大通りに戻り、女が付いてきていないことを確認すると大きく息を吐いた。


 は〜、焦ったぁ。


 まさに俺の華麗なる機転により、窮地を脱した。

 後は戦利品のこの宝石を売って、命の洗濯に行かなければならない。


「この街に長居は無用だな」


 ウキウキとスキップしながら、質屋に宝石を持ち込む。

 身なりを整え、没落貴族が代々の家宝を売りに来たという筋書きで。


 当然、幾らかは買い叩かれるだろう。

 それはそれで仕方がない。

 第一は足が付かないこと。

 安全第一!


 宝石は金貨100枚どころか金貨1000枚になりやがった。

 思わず口笛を吹くところだった。

 なんでもウラハラ国だけでしか取れないウンタラカンタラ、まあ、どうでもいいことだ。


 手付けを余分に払い(これが大事!)、早速、夜の街と洒落込みますか!


 手付けを余分に払っていないと情報が漏れて、強盗が来る可能性は高まる。


 それでも来るときは来るけど。





 そんな訳で、現在、簀巻きにされています。


 夜の店に入ったのは覚えている。

 店のかわい子ちゃん並べて、じゃんじゃん酒を飲んでたことまでは覚えている。


 薬でも仕込まれたかな?


「オーレン様、No.0はここで始末しておかなくていいんですかい?」

「始末か……。出来るならそうしたいがな」

 男たちの話し声。


 やめて、始末しないで、何でもするから!


「かつて俺がまだNo.8になる前、帝国ランクNo.20の頃だった。当時、まだ世界ランクNo.5だったカレン姫の寝込みを襲おうとしたことがあった」

「へぇ〜……え!?」

 へぇ〜。


「ところが確かに寝ていたはずのカレン姫は、起きている時より強かった。

 ……つまりだ、起きている間は手加減していたわけだ。俺もその事に気付いて以来、寝込みを襲われても力を出せるように鍛え直し、今に至るって訳だ。

 ランクNo.10以下とはそんな存在なのだ。


 現在、No.2のカレン姫すらも超えるNo.0。

 本当だとしたら、どんな被害が出るか分からない。

 まだ起きている間の方が、交渉の余地がある分、マシって訳だ」

「へぇ……、恐ろしいもんでやすね……」


 何とか九死に一生を得た。

 No.0ではないとバレた瞬間、消される訳ですね、分かります。


 ぬおおおお、俺は生き抜くぞー!!


「でも、交渉の余地なんてありますかねぇ?あっしら、No.0を簀巻きにしてしまってるんですぜ?

 怒り出して話にもならないんでは?」


 アルヨ! 交渉の余地アルヨ!

 諦めないで!


「馬鹿か、貴様? 俺が言った事を聞いてなかったのか? ランクNo.10以下は眠ろうが関係ない化け物だ。


 その頂点であるランクNo.1すら超える伝説のランクNo.0。本物なら、クスリだろうとなんだろうと、不意打ちなんて効く訳ないだろうが」


「つ、つまりNo.0は……」

「自分から来たんだよ。俺たちと交渉するためにな。

 な? 交渉の余地ありだろ?」

「さ、流石ですオーレン様、そこまで読んでいたとは」


 流石だ、そんな事考えもしなかった。

 No.0じゃないから、当然なんだけど。


「しかし、最初、No.10と一緒にNo.0がこの建物の下に現れた時は、肝が冷えました」

「ああ、俺が到着する前だな。危ないところだったな。


 ここをNo.10に叩きつぶされでもしていたら、エストリア国の拠点と集めた重要資料を失い、帝国は一歩も二歩もエストリア国攻略に遅れを取ることになった」


 あれ? ここってあの行き止まりの建物の中か。


「よくこの場所を突き止められましたね……。

 報告では、No.0はNo.10を連れ、この広い街を迷わずまっすぐ向かってきたそうで。

 道のない壁を正しい順番で乗り越えないと辿り着ける訳もないのに」


「それが伝説のランクNo.0だ。

 全てを見通す千里眼……。噂に違わぬとんでもない力だ」


 違います。

 あの女から逃げてたら、ここに追い詰められただけです。


「だからこそNo.0は交渉の余地があるのだ。

 その時に、この建物に襲撃をかけなかったのが、何よりの証拠だ」


 いつでも襲撃なんてかけないので、もう帰してください。


 そこに慌てて階段を登る激しい足音。


「た、大変です!」

「どうした!」

「しゅ、襲撃です!!

 ら、ランクNo.10です!!!」

「何!?」


 何!?

 おのれ、早く俺を逃さないからこんなことになるんだ。

 早く俺を逃がしていれば、俺が巻き込まれることがなかったはずなのに!!


 そこに、ドン、と爆発音のような音とともに扉が粉砕された。

 その向こうには扉を蹴りつけた女。


 わお! アレが俺に当たったら俺も粉砕されるね!


「来たか……No.10。

 いずれは来ると思っていたが、存外、早かったな」

 男たちは、ロングソードを構える。


「貴方は帝国の……世界ランクNo.8……。

 No.0を返してもらいに来ました」


 女はショートソードを構える。

 俺は貴女の物ではありません、お帰り下さい、頼むから。

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