第20話とある部族のゴンザレス①

 世界最強と呼ばれる存在がいる。


 曰く、全てを見通す千里眼を持つ大軍師。

 曰く、万の敵すらも打ちのめす大将軍。

 曰く、病の悉くを治療して人を救う聖者

 曰く、最強にして無敗、世界の叡智の塔に刻まれるランクNo.1も超えた最強ランクNo.0


 だが、その正体は一切不明。

 男か女かオカマか、年齢も不詳なら、生まれも公爵家の捨て子だとか転生者とか生まれながらの救世主だとか、数え上げたらキリがない。

 それら全てを合わせて、誰も見たことがないという。


 それが、世界最強ランクNo.0




 俺はアレス。詐欺師だ。


 この度、帝国から無罪を勝ち取ってので、名前を戻すことにした。


 戻したらゴンザレスじゃないのか、だと?

 その名は忘れた。



 今、絶賛大ピンチだ。

 木の棒に括り付けられて、周りを原住民族らしき腰ミノだけ巻いた裸の男たちに回られている。

 女は! 女は居らんのか!!


「うんばっほうんばっほ!

 うんばっほ!!!」


 ロープを解かれた。

 一際立派な体格の男が、俺の目の前に立つ。


「我らが神のご判断により、貴様は悪しき者ではないと判断した。よって貴殿を解放する」

 詐欺師が悪い人ではないとする神とは、心が広いね〜。

 邪神じゃないよね? 祈り方似てたけど?


「悪しき者ではないなら貴殿は客だ。ゆっくりされていくが良い」


 俺は都会のシティボウイなんだ、いつまでもこんなところ居てられるか!


「兄様、儀式は終わられたのですね?」

 長い茶色の髪に、鳥の羽飾りを髪にさした年の功なら10代後半。美しさと可愛いさの両方を兼ね備えたカラフルだが落ち着いた色合いの民族衣装を着た娘。


「初めまして、お嬢様。この度、ここで客人として逗留とうりゅうさせてもらいます」

 色々よろしくしようぜ!

 あ、警戒された。


 男に慣れていないのか半裸の男の後ろに隠れる。


 残念だ。


 逗留の間、ちょっと年増だが清楚な雰囲気の未亡人の家に泊まることになった。

 男共のリーダーにこそっと教えてもらったが、外部の血を混ぜるために積極的に致して良いとか。


 ここは天国か!?


 客人でなければ、天への供物として捧げられてたらしいので俺の強運に感謝だ。


 ……だが、一週間で飽きた。


 そりゃあまあ、食い物もあって、女も充てがわれて良いっちゃ良いんだけどなぁ。


 シティボウイの俺としては、そろそろ次に行きたいというか。


 リーダーの妹のトレアちゃんがそろそろデレても良いんじゃないの、と思うんだがつれないまま。


 もう良いかなぁ、と思い出したところで事件が起きる。


 隣のナダル村と揉め出して争いになりそうだと言うのだ。

 この周辺の部族の争いは殲滅戦、男は殺すか奴隷。女は慰み物。


 冗談じゃねえ! 俺はこんな危険なところに居てられるか!

 サッサと村を出るぞ!






 そうして、今、俺は足をロープに括られて、木に吊るされ、葉っぱだけの男たちに回りを回られている。


「うんばばりあばばばほりあ! キタキタ!」


 何言ってるかワカンネェ。


「我が神に尋ねたところ、主は悪しき者ではないとのことだ。今日から主は客人だ」

 デジャヴ〜。


 君らが言ってる神って、お隣の村の神と同じだよね?

 やっぱり邪神だよね?

 その神の悪しきってなんなの?

 服着ること?


「父上! 儀式は終わられたのですか?」

 長い茶色の髪に、鳥の羽飾りを髪にさした年の功なら10代後半。美しさと可愛いさの両方を兼ね備えたカラフルだが落ち着いた色合いの民族衣装を着た娘。


 あれ? ドッペルゲンガー?


「トレアちゃん?」

 娘はサッと全裸のオッサンの後ろに隠れる。


「この子はナリアと言う。隣村のトレアとは従姉弟になる」

 そうですか〜。


 近い部族同士で血が混じるのね。

 というか親戚同士で争いか。


「トレアネエ様をご存知なのですか?」

 ネエ様ときたか。


「愛を語った仲だな」

 一方的に俺が。


「ネエ様の恋人?」

「もう終わったことだがな」

 ちょっと寂しげな表情を浮かべる。


 ナリアちゃん、次は君に愛を語るよ?


「ネエ様の元恋人……。お願いがあります! 叶えてくれたら僕なんでもするから!」


 僕っ子かぁ。

 僕っ子と言えばキョウちゃんに会いたくなって来たぞ?

 会いたいというか頂きたいぞ、ゲヘヘ。


 待て、俺。

 今、大事なことを言われなかったか?


「なんでもする?」

 ナリアちゃんは両手を組み上目遣いで頷く。


「良いのか?

 そんなこと言って。俺はなんでもイケル口だぜ?

 思う存分その身体を楽しむかもしれないぞ?」

 ナリアちゃんは顔を赤くして俯きながらもはっきり頷いた。


「契約成立だな?」

 父親の葉っぱだけ男を見る。


 男はため息を吐く。

「仕方ない。誓いは神聖なるものだ。お主が、願いを果たせばこの子はお主の物となる」


 ゲヘヘ、良いんでゲスな?

 契約により、願いが叶った暁には娘の全てを頂こう。

 悪魔の契約のようだが、契約とは神聖なものなのだ!

 契約も結ばない天使がおかしいのだ!


 さあ、願いを言うのだ。



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