婚約は人生の墓場です

「皆様、グラスは行き渡りましたでしょうか?」


「「「はーい」」」


「んんっ...それでは、お集まりくださった皆様、準備をお手伝いくださった皆様、本日はそれぞれの都合があるなか来てくださりありがとうございます。それでは無事婚約を果たし魔王討伐後には結婚を控えた私の頼もしい仲間2人の祝福を祈りまして、乾杯っ!!」



「「「かんぱーい!!」」」



◇◆◇



「いやぁ、おめでとうございます」

「そうですなぁ、めでたいことです」

「これで我々も一安心」


「「「やっとあの"行き遅れバーサーカー"を王都から引き離せるのだからっ」」」



 そんな声が会場のあちこちから聞こえてくる中、主役席の片方に周りからは見えないよう縛り付けられたサムエルが勇者に尋ねる。



「なぁ勇者、なんだこれは」

「なにって、我が盟友にして親友の君が長い間、ずっと思い続けていた女性とついに婚約を果たした記念のパーティですよ?あ、いえ、お礼とかはそんな....これからも仲間どれいとして助け合っていければ尽くしてくだされば、と」


「.......色々言いたいことはあるがどうやってこの規模のパーティを開いた?.....それとあちこちで話題に上がってる"行き遅れバーサーカー"ってマリアの事じゃないよな?」

「陛下に頼んでパーティを開いていただきまして。私の大切な仲間がとうとう結ばれましたので一緒に祝っていただけませんか、と」


「陛下が...?それはとてもありがたいんだが、いつ俺がお前にとって大切な仲間になったんだ?.....それと"行き遅れバーサーカー"については?」

「何をおっしゃるサムエル殿!我々は苦難を共にした仲間どれいではないですか?」


「さっきから思ってたが今なんつったお前!?......なぁ、おい、聞こえてるんだろ?」

「それでは主役は引き続きパーティをお楽しみください」


「じゃねーだろっ!?さっきから聞こえてるんだよなぁ?あれだよ、なんでお偉いさん方がこぞってマリアを追い出したがってるかだけでも教えてくれよ...」



それら一切を無視して勇者が顔の引きつった宰相と陛下に挨拶に向かう。



◇◆◇



 それから1時間程たった頃。


パーティはさらに盛り上がり、みんながそれぞれマリアの婚約者に名乗り出た(ことになっている)サムエルを勇者だのモノ好きだの称える中。


会場の扉がバンッと大きな音を立てて開き、



「陛下!緊急事態ですっ!」



突如、焦った様子で入ってきたひとりの兵士の報告にパーティが中断される。



◇◆◇



「以前から東城門付近に出没し王都に来た交易商や旅人から金品や商品を巻き上げていた山賊の集団ですが、つい先ほどノワール公爵家の令嬢を人質に近くの洞窟に立てこもりましたっ」



「っ!?」

「なっ..」

「それはっ!」



「ただ今、ノワール公爵様の命にて至急、討伐部隊が編成されております」


「エバルスっ、こちらからも至急、城の兵をまとめ討伐隊を編成せよっ」

「はっ、承りました」


「それで、山賊からは何か要求があるのか?」

「いえ、詳しい要求については交渉がしたいので人をよこせ、とだけ。ただ、交渉役は一人で洞窟に来るよう言われており、それ以外の人間が足を踏み入れればすぐさま令嬢の首を掻っ切る用意ができていると...」


「ふむ。ノワール公爵家には?」

「既に伝えてあります」

「では交渉人はこちらの役人から出そう。できるだけ要望には応じる姿勢を見せつつ令嬢の安全を確保したのち、すみやかに取り押さえるのが理想だろう」

「はっ」



 その後、報告を受けたハリス王から次々と詳しい指示が出され、それに合わせて宰相が部下を動かしていく。


会場は宰相が見繕った人選のみの参加のため、このような事態でも無用に騒ぎ立てて混乱を引き起こすような者はいなかったが、それでもただならぬ事態に困惑と張りつめた緊張は広がっていく。



 そもそもいくら公爵令嬢が山賊に攫われたとはいえ、国王や宰相がこうも一方的に山賊相手の要求をのむような姿勢を見せるなどありえないことだ。


 山賊にうら若き女性が攫われれば助けるというのが人道だし、それがまして公爵令嬢となれば国王自ら兵を動かすことにもなるだろう。

だがそれでも相手がどんな要求をするかも分からない状態でその場にいるお偉い方に実質、降伏するような姿勢を見せるのは為政者として致命的な弱みを晒すことになる。


 一国家の責任を背負う立場にありながら、令嬢ひとりをかばって国庫に莫大な負担をかけるなど許されないからだ。

そしてそもそもこういった状態になる時点でも相当な汚点となる。


そんな状況でも国王がどうにかして救い出そうとしているのは、ひとえにノワール公爵家がこの国の財政面に大きく貢献しているためだろう。



 元々、先々代の国王の時代に継承権第3位の王女を下賜されたことで公爵へと昇爵したノワール侯爵家だったがそれは表向きの理由に過ぎず、実際はノワール侯爵家のもとにいる研究者が発見した寒さに強い麦の権利、それを元に得た莫大な資産を見て、王家から繋がりを求めたのが実態だった。


それから飢饉の際の食料提供による活躍をはじめ、その他の面でも利益を上げ続けて国庫の安定に貢献しているノワール公爵家にはいくら王家と言えどもあまり強くは出られないでいる。



 そんな中攫われたのがノワール公爵家の一人娘でもある令嬢、しかもそれが山賊に攫われたとあってはハリス王も慎重にならざるをえない。


何かあれば、それはそのまま国の危機となるのである。



「お待ちください陛下」


「ぬっ?何ようだ勇者よ。今は時間が惜しいので出来れば後にしてほしいのだが....」

「いえ、その山賊退治の件です。今回の一件、私たち勇者パーティに任せていただけないでしょうか?」


「...........えっ?いや、でも...」


「確かに私たちには魔王討伐という大命がございますが、かといって大事の前の小事を見逃すことなどできません」

「いや、えっと...そうじゃなくてな?」


「そのうえ今回は国にとっての危機ともいえるもの、陛下に忠誠を誓う一国民としてお力になりたいのです」

「だからね?」


「陛下の不安、私たちが見事、取り除いて見せましょう」

「.......」



「おおぉー」「その高潔な志、さすがは勇者様!」「ぜひ!ここはぜひお願いしましょうぞ、陛下」


と、周りにいたパーティ参加者(一部を除く)が口々に"おぉ素晴らしい"と褒め称える中、無言になった陛下がそっと勇者近づき小声で尋ねる。



(ねぇ、大丈夫?何もしない?ホントに問題起こさない?)

(私の心配は大丈夫ですよ?サッと片してすぐ帰ってきますから)


(いやお前の心配はしてねーよっ!?あともういい加減、旅に出てくれない?うちの宰相が死にそうな感じで尻拭いしてるんだけど...)

(いえお気になさらず、王都の平和は私が守りますので)


(その王都の平和乱してるのがお主!?召喚の儀の後始末とか王都内の商会の急な値下げからの値上げで民から出た不満とかこのパーティの準備とかでエバルス死にそうなんだけどっ!?.........あと料理長について何か知らない?)

(それでは陛下のご期待にお応えするため不肖この私が行って参ります)


(おいコラ待て、やっぱ何か知ってんだろ?やっぱ料理長になんかしたんだろっ!!)



◇◆◇



「というわけで公爵家令嬢の救出、その後に山賊の討伐を行うことになったわけだが。さすがに丸腰で挑むわけにはいかないな」


「なるほど、武器なり道具なり揃えるわけですな。して勇者様、此度も何かお考えで?」

「そうだな、いくつか思いつくのはあるが...今手持ちの道具ものではちょっとな。どれでもいいが、そこらの店にあるといいのだが」

「で、さすがに俺は戦闘には参加できないが....城からの兵を断ってもよかったのか?」

「まぁな、今回必要なのは数よりも質だ。とりあえず先に道具屋に行くとしよう」


「ところでサムエル殿、マリア殿はどちらに?」

「あ、あぁ。それなんだが外せない用事があるとかで今はそちらに向かってる。"私がいてもそちらのお役には立てないでしょうから"とのことだ」

「なんだろうな。気にならなくもないが今は後にしよう」


「そうですな。わしらには関係のないこと。気にしても仕方ないでしょう」

「....そうだな。そうだよなぁ。....なぁその"わしら"って俺も入ってる?」



◇◆◇



「とりあえず一番大きそうな道具屋の前までやってきたが」

「ん?ここ数年では見たことない店だな。新参か?...の割には大きな店構えだが」

「そうなのか?まぁとりあえず入ってみることにしよう。....どなたかいらっしゃいませんか?」



店に入る直前で自前の勇者スマイルに切り替えた勇者が、誰もいない店内の奥の方に声をかける。



「どなたかいらっしゃいませんかぁ?」

「........」


「いないのでしょうかね」

「困りましたな。どうしましょうか、別の店を探しましょうか」

「なぁ、その顔...なんかすごく気持ち悪いんだが。いまさら意味あるのか?」

「.....ーぃ....」


「何をおっしゃるのですかサムエル殿。私はいつもこうですが?」

「それが気持ち悪いってっ...って今何か...」

「どうかしましたか?」

「....ぁーい」


「ほらやっぱり!店の奥からかっ?」

「いえこちらです」


「...ってうわぁぁぁ!!!」



「おや、びっくりするではないですか」

「それはこっちのセリフだわっ!.....えっ、いつからそこに?」

「ずっといましたよ?すみません影が薄いもので...」

「あ、いえ、すみません..」


「え、と、それで私は店長のエリーゼと申します。...店長と言っても店員いないのですが...」

「え?、あ、あぁ何かすみません..」


「いえ、いいんですよ。いいんですよホントに....気にしてなんて....ないですから..うっ...」


「....ってちょっともう何ですかさっきからっ、なんでそんな後ろ向きっ!?なんで店長なんてやってるの!?」



「それが、私こんな感じでしょう?それで上司からもバイトでもしてリーダーシップとか社交性のカケラでも身に付けるよう言われまして、そうして気付いたらこうして店の経営などを」

「え?なんで?なにがあったの?というかここ最近まで王都には無かったですよね、この店」


「あぁ、それでしたら以前はここより北の場所で別の店を開いていまして。店が大きくなるにつれて人の多いほうへ多い方へと、そして気付いたら王都に来ていまして」

「な、なるほど...すごいんだが...それでリーダーシップと社交性は?」

「..店の経営は一人で出来ますし、お客様と話すのは清算の時だけですから...」


「有能なのも考えもの!?」



こうして道具屋の女店長エリーゼと出会った勇者パーティ一行。



「それでは改めてエリーゼさん、よろしくお願いします。私は王都にて召喚され今は勇者を名乗っている者です。」

「えっ勇者!?......ぁあ、いえ、何でもありません...。え、と.....よろしくお願いします」


「ん?どうかしましたか?」

「あ、いえ、大丈夫ですよ..ハハハ.....そ、それでそちらの方は?」



「あ、あぁ。先ほどから話していた俺がサムエル。一応少し前まで王都で一番の商店を構えていたものだ」

「でもリコールされちゃったんですよね」

勇者おまえのせいでな!?...ま、まぁ今はいい。で、こっちが...」


「王都で賢者をさせていただいていましたガリウスと申します」

「はい、よろしくお願いします。それで、今回はどのようなものをお求めで?」

「とりあえずは爆薬一式だな。とりあえず火を付ければ大なり小なり爆発するものが欲しい」


「...なぁ、それ今回のどこで使うんだ?」

「ん?今回使うとしたら、入り口を爆発で塞いでから洞窟の天井を爆破だな」

「人質死んじゃうじゃん!?」


「蘇生薬とかあればあるいは..」

「いや倫理的にアウトー!!」



「まぁそう言うと思ってたからな、さすがに今回は止めとくさ」

「ホントだろうな....?」


「え、えーっと勇者様?爆薬のほうは問題ないのですが...蘇生薬は在庫が少なくお売りできるのが1つだけでして、しかもお高くなってしまいますが...」

「とりあえずそれで構わない」


「あ、それと、その蘇生薬は確かに死んでしまった人間を蘇生できる薬ではあるのですが、元に戻るのは魂だけでして...肉体部分の欠損や劣化などは元に戻らないのです。上級回復薬を使えばある程度までの肉体欠損などは治せるのですが、この店にあるものでは...バラバラになった体を治すまではできず...」


「なるほど、爆破の衝撃で体が吹き飛んだら意味がないと。...それでもとりあえずは頂きましょう」

「あ、ありがとうございます。あ、でも一応、バラバラになった体も含めて完全に蘇生できる薬は存在するらしく....」

「なるほど、それについてはこちらで調べてみましょうか」



「それで他には何かありますか?」

「そうですねぇ。水を大量に生成する道具とか雷を発生させる道具とか?」

「あぁ、そういったものは魔石が有効ですね」


「魔石、ですか?」


「はい、魔石は魔物の体内にのみ存在する物体で、おそらくはそれが魔力の生成装置になっているのではないかと...。まぁそれはともかく魔石にはそれぞれ性質が備わっていまして、魔石を砕くとその大きさと性質に見合った現象が起こせるのです。なので大量の水を発生させるには水の性質の大きな魔石を壊す必要があります....ただ大量に、となるとそれこそ伝説クラスの魔物から取らないといけないので、この店には置いてませんね」


「ふーむ、それは中々難しそうな、とりあえず雷のような性質のものがあればそれだけでもください」

「はい、それなら大きくはありませんがあります」

「では、それでお願いします」


「ところでそれでお前は何をする気だ?もしかしないでも水浸しにして雷をビリっと....」

「だから今回はやりませんって」

「やっぱりか....もういいからやるときは先に教えてくれよ?頼むからホント」

「で、次ですが」

「あれ!?聞いてた?」


「閃光を発生させる道具、と思いましたがもしかしてこれも」

「はい、そういった性質の魔石がありますね。こちらも付けときますか?」

「はい追加で。とりあえずこんなものですかね。あと相談なのですがこれらのものを定期的に送ってもらうことってできますかね?」

「あ、はい。一応、私は転送術を会得していますのでこちらのアイテム袋に転送することは可能ですが....」


「アイテム袋とは?」


「名前の通りアイテムの入る袋でして、容量は無限ではありませんがこれであれば相当量入りますね」

「ではそれも追加でお願いします。代金はこちらで手配するので支払いのあった週のみ同じものを同じ量だけ送ってもらえますか?」

「分かりました」


「それと蘇生薬に関しては無理のない範囲で出来るだけ多くお願いします」

「そちらも大丈夫です。では会計になりますが...結構な金額になってますね。めて350万ゴールドになりますが大丈夫ですか?」

「あぁお金の心配は大丈夫ですよ。以前に大きな収入があったので」


「国家予算の件ですな?」

「えっ何!?国家予算って俺知らないんだけど」


「サムエル殿はまだいませんでしたからな。わしが勇者様と初めて会った時に陛下から....」

「陛下から何!?強請ったんか?まさか陛下から強請ったんか!?」


「....というわけでお金については心配ありませんよ?」


「ちょま、説明しましたみたいな雰囲気だしてるけど誤魔化されんぞっ」



それから勇者が支払いを終えて、エリーゼが爆薬など買い取った品を持ってくる。



「よいしょっと!...えーとこれで全部ですかね。結構な量になってますが大丈夫ですか?」

「それは俺も思ってたがどうするんだ、勇者?」

「それなら問題ありません。勇者の力の一つに物を無限に詰め込めるものがありまして」

「なるほどな。もしかしていつもどこからか取り出してる金もそこに?」

「えぇ、これが結構便利でしてね。入れてる間は時間も止まっているようで.....ん?」


「ど、どうした?」


「....いや、なんでもない...」


「そうか...?ならいいんだが.....」


「えーっと、それでは大丈夫そうですかね?この度は私のお店で大口の取引をありがとうございます。それでは今後もご贔屓ひいきに」



◇◆◇



 買った品をしまった勇者が店を出た後、サムエルとガリウスを連れ山賊のいる洞窟への長い道ながらを歩いているところで。


「それでやっぱり駄目?」

「ダメだ」

「爆破は?」

「ダメだな」

「感電は?」

「それもダメ」

「貢ぎ物作戦は?」

「それもダメに決まって....ってなんか増えてる!?」


「まぁどれも止められそうですからねぇ。現実的な案を考えみた。まずは誰かしらを山賊への貢ぎ物ということにして、私たちはそれを運ぶ山賊になりすます。数だけは多い山賊であれば覚えられない末端の人間などいくらでもいるでしょう。そうして潜入した先で人質になっている公爵令嬢の安全を確保し次第、山賊の討伐に移ると。そうなってしまえば外から爆破しようが何をしようが構いませんよね?」


「...ま、まぁそれなら。それにしても以外に普通なんだな。またロクでもないこと考えてるのかと思ってたが...」

「私もちゃんと相手を選んでますからねぇ」


「俺は!?」



「さすがに箱入りのお嬢様相手ではねぇ...。ただこの作戦も結局は貢ぎ物となる人質を用意しないことにはどうにも....」



「やっーーーーと見つけたわ!!」



「っ!?誰!?」

「さぁどなたでしょう...?」


「何すっとぼけてんのよっ、勇者!私よ私!!」


「............?」

「ちょ、あんたホントにいってるの!?」

「まぁまぁ落ち着けって聖女様よぉ」


「ん?聖女?」

「やっと思い出したか...」

「..............はて?」

「なっ!?ホントに覚えてないの!?...ほら勇者召喚の儀で会った...」

「だからまず落ち着けって」


「そちらはたしか聖騎士のロンデルさんでしたか?」

「あぁいやどうも。お久しぶりです勇者様」

「いえいえ、それでどうしてこんなところで?」

「それなんですが見ての通りこの聖女が」


「なんでロンデルは覚えていて私の事は忘れてるの!?わざとでしょあんた!?」


「とまぁこんな感じで勇者様はどこだって感じで突っ走って」

「それは大変でしたなぁ。...それはそうと久しぶりですロンデル」

「これは賢者様もお久しぶりです」


「いえいえ、積もる話もあるかもしれませんが.....勇者様これは」

「あぁちょうど良さそうなのが見つかったな」


「「「???」」」


「ってもしかしてさっきの貢ぎ物の!?」


「山賊の貢ぎ物と言えばやはり女性。それも貢ぎ物にしても心が痛まず、生命力にあふれていそうな人ならば申し分ない。その点、彼女は見た目に反して粗野でガサツそうなので適任です!」



「って誰が粗野でガサツよっ!?」


「ちょっと待て。さすがにそれは見過ごせないな」

「邪魔をしてもいいのですがサムエル?」

「あぁ、こればっかしはな。女性をそんな危険な目には合わせられん!」


「本当に?覚悟は決まっているというのですか?」

「...あぁ、何を言われても俺は」


「では仕方ありません。この件はマリアさんに報告いたしましょう。サムエルが他の女のために反逆したと」

「ちょ、まっ、ちょっとそれはズルいだろう!?」

「でも覚悟は決まってるって....」



「くっ......」


「いや"くっ"じゃないわよあんた!?ちょっとなんで道開けてるの!?さっきは危険な目にはとか言ってたじゃないの!!」


「すまない、俺はもう限界みたいだ....」

「いや"もう"ってまだ10秒くらいしかたってないけど!?あっ、ちょ、待ちなさい!!......ま、まぁいいわ。まだ私にはロンデルが」


「で、どうでしょうかこの一品は?」

「あ、あぁ....なんだコイツは。すげぇ業物じゃねーか!....こんなのいったいどこで....いや、それよりホントにこれをくれるのか!?」

「えぇ。ですがその代わり...」


「あぁ旦那、うちの聖女様ならどこへなりとも連れってくれ!!」

「ロンデーールっ!!あんた裏切ったわね!ちゃっかり買収されやがってぇーー」



「いやー王宮に飾ってあった銅像の持ってた剣がこんなところで役に立つとは」

「しかも盗品っ!?」


「さて、これで相手は一人。みな一斉に囲んで袋に詰めますよっ」


「「はっ」」


「ちょっと待っ、嘘よね?冗談でしょ?こんな可愛い女の子を山賊に売ろうって...ちょ、いやーーーーっ」



 聖女の悲鳴が山中に響き渡る中、人ひとり入りそうな袋を持った勇者がじりじりとにじり寄り、その後ろから二人で1つの縄を持ったロンデルとガリウスが聖女の逃げ道を塞いでいく。


そして逃げ道を失い涙目になった聖女に向かって、勇者の「確保ーっ」という一声で全員(サムエルは除く)が一斉にとびかかり.......


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