降伏勧告は義務ではありません

周辺諸国の中でもひときわ広大な大地と豊富な人材を生かすことで発展させた工業や農業などの生産業


かつての戦争で圧倒的な力を見せつけ他国を支配下に置いた帝国と唯一まともに張り合うことのできた軍事力


これら2つを武器に周辺諸国をまとめあげ中心国として絶大な権威を誇るムント王国。


この国は過去に勇者召喚を行い、人類と世界の命運をかけた魔王との闘いに勝利するという偉業までも成し遂げている。



 その発言力は世界中のどの国も無視できない程に大きく、中でも魔王討伐当時の国王と勇者、そしてそのパーティメンバーの聖女や聖騎士、賢者に至っては英雄としてどの国にも銅像が建てられるほどの人気である。


そんな歴史があるためか今代の魔王復活にともない召喚された勇者とその仲間たちへの期待度も高く、いくつかの国の中では既に出回っている姿絵を元に銅像建築がはじめられているとか。



 ここはそんなムント王国王都の東に位置する山の中。



そこを歩くのは勇者、きたる魔王との決戦に向け日々自分を磨き、人を助け、今も救いを求めるか弱い女性のために山賊との決戦に向かう勇猛果敢な男である......



「むがーっむごっむががむっごー!!」



「それでは皆さん着替えましたかね?」

「わしは大丈夫ですぞ」

「あぁ、俺も大丈夫だ!」

「.......あぁ」


「むぎーっ!むがーっ!!」


「では潜入の前にそれぞれの役割の確認です。まずサムエルは外で待機を」

「............」

「そしてロンデル、あなたには基本的に前衛を任せます。今後の活躍次第ではまた報酬を考えていますので頑張ってください」

「あぁ、ご期待に応えられるよう頑張るぜっ!...なのでぜひとも報酬の方はよろしく頼むよ旦那っ」

「基本的に交渉事は私がしますがガリウスには私の補佐をお願いします。いつも通り見事な働きを期待していますよ?」

「光栄ですな」



そこまで言ってから振り返った勇者は、



「そして最後に......危険な役割を買って出てくださった聖女様には作戦の要となる重要な仕事、そう"貢ぎ物"をお願いしますね!」

「むっぎーーーっ!!!」



両手両足を縄で縛られ、口には猿轡さるぐつわをされた檻の中の聖女にニコリと微笑みかけた。



◇◆◇



「おやおやそこまでやる気を出して喜んでいただけるとは....作戦を選んだ身としては心苦しかったですが、そういうことであれば全力で臨ませていただきますよ?」

「むぐむががむごーっ!」


「なんと!?いえそんなそこまでしていただかなくても....いえ、ですがその気持ちには応えなくては...」

「む、むが..?むがむごご...」


「えぇえぇ分かっておりますとも。つまり聖女様は....」

「むがが.....?」


「"やるなら全力"をお望みなのですね?そういうことであれば不肖ながらこの私が精いっぱいのプロデュースをさせていただきます!手始めにガリウスは至急、王都の娼館でとびっきりの媚薬を入手してくるように」


「むがっ!??」



「....な、なぁ勇者。それはさすがにやりすぎだと思うんだが....」

「何を言ってるのですかサムエル、これは聖女様のお望みなのですよ?」

「いや多分かみ合ってないと思うが...」

「それに先ほどはあなたも賛成してくれたじゃないですか」

「それは.....」

「でしょう?」


「....いや、やっぱりダメだ!男としてこんなことは見逃せない!!」


そう言うとサムエルは檻の中の聖女と勇者たちとの間に立ちふさがるが...



「ほぉ、つまりマリアさんに伝えてしまっても問題ないと?」

「.....あ、あぁ。やましいことは何もないんだ。そもそもまだ婚約だなんて俺は納得してないし...」

「ですってマリアさん?こんなこと言ってますが」


「................えっ?」


「そうなんですか?旦那様?」


「ひっ、ひいぃぃっ!!」



突如後ろから現れたマリアに抱き着かれ悲鳴を上げる。



「ち、違うんだマリアっ、っていうかいつの間に帰って...」


「用事は先ほど終えました.....それで?何が違うのでしょうか?」

「そ、なっ、お、おぉ俺はやましいことなんて何も....」


「今婚約がどうとか言ってましたが」

「それはぁ....そ、そうだ!俺は婚約じゃなくて結婚がしたくてだな」


「では今すぐ教会に参りましょうか?」

「っ!?そ、それは....」


「まぁ旦那様の心がまだこちらに傾いていないのは分かっていたことです」

「ま、マリアぁ...]



「ですから今後しっかりとした調教を続けるとして」


「ひっ」


「問題はそこの女です。誰なんですかっ、人の男に馴れ馴れしく」


「むがむごごむが!?」


「しかもロープに猿轡さるぐつわ、おまけに檻まで....こんなドМに誑かされるなんて旦那様....そういうのがお好みなの?」

「ち、ちがっ...」


「むがーっむがむがむっがっーー!!」



「違うのですよマリアさん、その方これから山賊のところに嫁ぎに行くのでして」

「まぁ!」

「それで本人たっての希望でこのような形に.....あと何か媚薬も欲しいとか言ってましたね」

「....そ、それは....とんだド変態ね、この淫売がっ!!」


「むっぐーーーっ!!!」


「こんなところに居たら、いつどこぞの変態に襲われるか分からないわっ、さぁ旦那様行きますよっ」

「えっ、ちょまっ...っ!?つよっ!引っ張る力尋常じゃないんだが!?」



そうしてサムエルがマリアに引っ張られていき、残る勇者たちは...



「よし、これでサムエルとマリアさんは安全なところで待機できますね。それでは作戦を開始します。ロンデルは聖女様を持ってきてくださいね」

「承知したぜ旦那っ」

「ではそこらのゴロツキと変わらない格好にもなりましたし、いざ潜入します。くだんの洞窟へは、少し進んだ先にある壁穴から入りますよ」

「「はっ」」


「むがーっ!!」


叫ぶ聖女の檻を台車にのせ、いざ山賊の住まう洞窟へと向かうのであった。



◇◆◇



 それからは特になんのトラブルもなく洞窟に着いた勇者一行。


山賊が根城にしている洞窟は、長い年月のなかで露出したむき出しの山肌が雨風にさらされることで出来たものである。


そのため洞窟への出入り口は正面に大きく空いた穴以外にもいくつかあり、今回勇者一行はそのうちの一つを使って潜入したところである。


「ふむ。こうして潜入してみたわけだが...首領はどのあたりにいますかねぇ」

「さて、なにぶん王国も周辺の地形を隅々まで調べているわけではありませんからなぁ。わしにもそれは分かりませんぬ」

「とりあえずは奥に行けば会えるんじゃないですか?それで旦那、聖女様は指示通り動いてくれるので?」

「まぁここまで連れてきてしまえばこっちのものですよ。公爵令嬢を見殺しにしたとあってはこの国じゃ生きていけないでしょうしね」

「なるほど」


「それにしても先程からおとなしいですね...どうしたんでしょう」

「そりゃー洞窟ここに入る前に騒いだら媚薬盛って放置するって脅すから」

「なるほど、忘れてましたよ」

「むぐぐ...」


「それにしても道が分からないのは面倒です。....適当な下っ端捕まえて道案内でもさせましょうか」

「うーむ、でも騒がれて囲まれるとこちらは厳しいですからなぁ」

「だったら聖女それをエサに釣るっていうのはどうだ?」


「むぐっ!?」


「見た目はいいんだ、見つけた奴は他のに取られないようにおとなしくするだろうし、注意も散漫になる。そこを....」

「なるほど、そこを後ろから。ロンデルあなたなかなかやりますね。報酬ポイント1です」

「やったぜ」


「むががっむががっ!」



「では檻はこの辺りに設置し」



「ねぇ!そこに誰かいるの?」

「「「っ!?」」」



(やばい誰かこっちに来るぞ」

(落ち着きなさいロンデル、一旦隠れてやり過ごすのです)

(それでは勇者様、わしのほうに)



と突如現れた何者かを警戒して近場の岩陰に身を隠す勇者たちだったが...



「...あれー気のせいだったかしら...?」



どうやらやり過ごせそうだ、と一安心したところで...



「で、なにこれ?」


(((あっ)))



とっさに隠れたときに置いてきた檻の存在聖女を思い出す。



◇◆◇



「ん...?檻の中に誰か入っているの?」



(あ、ヤバい忘れてた...)

(仕方ないですね。このまま彼女が連れていかれるのに付いて行きましょう。当初の作戦通りです)

(まぁ今ここでどうこうされる事は無いでしょうからの)

(とりあえず様子見ですね。向こうから来たならこっちに来る可能性もありますし、いつでも動ける準備を)

(...ん?というか....あの人どこかで見たような....)

(どういうことだロンデル?)

(いえね、山賊のアジトに女なんて変だなぁと思って見てたんですが)

(女?あの黒マントは女性なのですか?)



と、岩陰から聖女とやってきた黒マントの何者かを観察する勇者たちの前で、その何者かが...



「?....っ!?あなたもしかしてリラっ!?聖女のリラなの!?」

「もが?」


(おい、どうやら知り合いみたいだぞ。どういうことだ?)

(なんでしょうな。幼い頃に平民から引き取られてからはずっと城の中で暮らしていた聖女様の知り合い...?)

(...んー?さっきの顔、どっかで見たことあるような気がするが...)



「なんでこんな所に...でも、ふふっ...今のあなたの無様な恰好...ふふふふっ、神はどうやら私の味方をしたみたいねぇ」

「....?」

「ふふふっ、こんな格好してるから分からないかしら?でもこれを取ったら....」


と女が羽織っていた黒マントとフードを取ると、



「もが?」

「って何その顔!?私よ私!分かるでしょ!!」


「.......もが?」

「ちょっ、ホントに分からないわけ!?」



(やっぱり知り合いじゃないみたいだな)

(いえあれ多分覚えてないだけですよ旦那。というか金髪碧眼ってうちの貴族の...しかもあの顔は...)



「私よ私っ、レイチェル・ノワール!.....でも余裕ぶっていられるのも今のうちよ。あなた今がどういう状況か....ねぇ何その目!私いま名乗ったんだけど!?」


(あぁ!レイチェル様でしたか)

(ノワールって名乗ってるがもしかして彼女が...)

(えぇノワール公爵家令嬢のレイチェル・ノワール様ですよ)

(えっあれが?というかなんでいるんだ?)

(話はまだ続いているようですし、とりあえずは聞いてみましょうぞ勇者様)



「...ま、まぁいいわ。そのすましたつらがこれからどうなるのか考えただけで...ふふっ」

「もがもご...」


「大体昔から気に食わなかったのよあんた、平民出身のくせに何かと目立って!周りはあんたばっかり褒めるし、お父様もお母様も口を開けば"聖女のように"と...」

「もご....」


「特別待遇で貴族院に入ってくるなり勉強も礼儀作法も何もかも一番。そのうえ見た目まで良いって何様よっ!..あなたのせいで私は目立てないし何かとすぐに比較されるしでさんざんよっ.....だから復讐することにしたの、あなたにね」

「もご?」


「何を言ってるのか分からないって顔ね。分からない?なんで突然、山賊がこんな暴挙にでたか。どうして今まで見逃される程度の規模だったはずなのに今こんなに大きくなっているか。そしてなぜ公爵令嬢の私が山賊なんかに捕まるようなことになっているか」

「もががっ...」


「そう、すべては私の手の平だったということよっ。そして山賊から国への要求は聖女の身柄を引き渡すこと。その後、山賊への支払いを終えた私は無事に帰還するの...あなたのいなくなった城にねっ!!」

「もっ!?」


「でもどうやらそれももう必要ないみたい...だって肝心のあなたはここに居るんだものぉ.....。山賊の皆さんも喜んでいたわ、聖女様が手に入るって。一人で全員の相手をするのは大変かもしれないけどぉ.....頑張ってね?」

「もががっ!?」



(なるほど、そういうわけだったか)

(こいつは驚きですね旦那...それでどうしますか?)

(とりあえず方針としてはまずあの公爵令嬢の確保だ。私が話で注意を引くのでロンデルは後ろから取り押さえてください。ガリウスは周囲の見張りで)

((了解です))

(では)



◇◆◇



「それじゃあ行こうかしら。にしてもなんであなたこんな所で」


「ごきげんよう、お嬢さん」

「....えぇごきげんよう、ところであなたはどこのどなた?」


「もっがー!」


「おっと意外にも驚かないのですね」

「もがが!」

「えぇこの娘リラがここにこんな状態で居る以上、誰かしらそばにいてもおかしくないですから」

「ごもごごもっがーっ」

「なるほど。私は勇者をしている者です」

「...勇者?たしか少し前に召喚の儀が執り行われたと聞いたわ。あなたがそうなの」

「もががががががっ!」

「えぇ」


「.......聞きたいんだけど、あなたこの娘を助けに来たのよね?」

「えぇそうですよ」


「....さっきから凄い唸ってて敵愾心むき出しなのだけど。あなたに。何かしたの?」

「いえいえ、多分うれしくて興奮しているのですね。こんな所に一人放置されれば誰だって不安になります」


「....そう?....まぁそうよね、聖女が勇者を威嚇だなんて....でもなんかそっち睨んでるような...」

「気のせいです」


「もががーっ!!!」



「やっぱり何か....いえ、まぁいいわ。それで一応警告しておくけどそれ以上近寄ったらこの娘の命は無いものと思いなさい?」


そう言ってレイチェルが腰にぶら下げていたサーベルを抜き取ると檻の方へと切っ先を向ける。



「えぇ分かりました」



.....そしてそう言った勇者の右斜め前あたりを這うように進んでいたロンデルが....とうとうレイチェルの後ろの岩陰まで到達する。



「それと武器は外して後ろに投げなさい。少しでもおかしな真似をしたら...」

「分かりました」



すぐさま返答をして腰に差していた片手持ちの直剣を後ろに投げる勇者を見てレイチェルが驚いた様子を見せる。



「....へぇ...なんの躊躇いもなく....さすがは勇者様といったところかしら」


「えぇこれでも勇者なので救える命は救わなければ」


「でも申し訳ないけれど私のために死んでくださる?」

「ではその代わりに一つお願いを聞いてもらえませんか?」

「言ってみて?」

「私の命の代わりに聖女様だけでもいいのでお助け願えませんか?」

「....ふふふっ、あなた、いい男ねぇ。惚れちゃいそうよ....。でもダメなの、この娘がいると私が救われないわ」

「....そうですか....」


「でもそうねぇ、その覚悟に免じてこの娘の命だけは助けてあげようかしら」

「ありがとうございます」



そう礼を言う勇者を眩しいものでも見るかのように細めた目で見たレイチェルがサーベルを振り上げると同時に、隣の檻の後ろまで来ていたロンデルがそっと立ち上がると....



「では勇者様、あなたの高潔さを見習いせめて一撃で.....」


「今だロンデルっ押さえつけろっ!」


「....え?ちょっ....あ、きゃあっ!!」


後ろから組み伏せるように押さえつけられたレイチェル、その手に持つサーベル蹴り飛ばした勇者が微笑んで一言。



「自分が惜しければヘタな抵抗は見せないことですよ?」



◇◆◇



 後ろ手に組み伏せされたレイチェルがもがく中、


「まずは口を塞げ、手足を縛るのはそのあとでいい」


ロンデルが素早く口に猿轡さるぐつわを巻き、両手両足を縛るとちょうと聖女と同じような格好になったレイチェルが勇者を睨みつけ、


「もががーっ!!!」


「よし、あとは檻の中に詰めておけ。撤退するぞ。ガリウスは先導、ロンデルは殿しんがりを任せた。台車は私が運ぶっ」


勇者が檻の乗った台車を押して出口へと走る。



「勇者様、山賊はよろしいのですか?」


「問題ない。人質の救出は成功したんだ。あとはしこたま買い込んだ爆薬で洞窟ごと崩せば任務完了だ」

「「むぐっ!?」」

「降伏勧告は...」


「そんなものいらん。国でもなければ対立組織でもない、対等でもなんでもないんだから問題なし。なにか言われたら観念しての自爆だとか言っとけば大丈夫だ」


「「むががっ!?」」



そう言って走る勇者たちが来た時と同じ壁穴を見つけるが、



「おいっ!こっちがなんだか騒がしいぞっ」

「そういやさっきレイチェルさんがここら辺に行ったはずだが....まさかっ」

「男だっ、男の声がするぞっ」

「人を寄越せ、侵入者かもしれんっ」



来た時と違い数人と台車の走る音、それに先ほどまでの声を聞きつけた山賊たちが急いで駆けつけてきて、



「ガリウスは先に外へ、台車はロンデルに頼むっ」


「勇者様!?」「旦那!?」


「私は一旦ここを塞ぐ。この爆薬を持っていけっ、外に出たら洞窟の上に仕掛けて待機!」


「っ!?...しかし」

「いいいから急ぐように」

「....分かりました」



出口に背を向け振り返った勇者がひとり呟く、



元の世界むこうから持って来れた"物"は食材や生活用品だけだったが...非常時に備えていて助かったな.....」




「おいっ、ひとり止まったぞ!」

「でも他のやつらが逃げてくっ」

「くっ、分散しろっ!こっちに二人、向こうに二人だ!俺は向こうの奴らを追うから誰かついてこいっ」


素早く判断したリーダー格であろう男が前に出た瞬間、どこからともなく"非常用ガソリン"と書かれた容器の蓋をあけていた勇者が、



「いらっしゃ~い」



と山賊たちへと中身をぶっかける。



◇◆◇



「うぉっ!?」

「なんだこれっ、すべっ」


次々とガソリンに足を取られる山賊たち。



「これは....油っ!?」

「くっ面倒な真似をっ」

「こんなもの...」


それでも所詮は一瞬、足を取られた程度。すぐに立ち上がり臨戦態勢になる。



「やってくれたなぁお前。仲間らしき連中は逃したが、そのおかげでお前は袋叩きだ」

「楽に死ねると思うなよぉ、さんざんいたぶってからネズミのエサだっ」



レイチェルを奪われ、侵入者をとり逃がし、せめてもの怒りを勇者にぶつけようと後の無い山賊たちが集団のリーダーを先頭ににじり寄ってくる中、



「油....ですか」


「...?それがどうした?」

「ふふふっ」

「...追い詰められて頭でもおかしくなったか?」

「いえね。この世界ではこれを油と呼ぶのだな、と」

「なんだと?どうみても油だが...なにか違うのか?」

「まぁ違いますね。とりあえずはその言葉を聞いて安心しました」

「?」



「あなた方に今べっとりとかかっているそれですが....よく燃えるのです」

「はははっ何を言うかと思えば」

「所詮は油、多少の火傷で俺たちが止まると?」

「今までどれだけ命のやり取りをしてきたと思ってる。踏んでる場数が違うんだよ、お坊ちゃん?」

「えぇたしかにその程度の火では足止めにはならないでしょう」

「分かってるんならさっさと」


「ですがその油はこの世界にあるであろう物とは少し違いまして」

「「「「?」」」」


「よく燃えるのです....そう火柱が立って人が灰になるくらいには」

「「「「........」」」」


「そして多量の液体に引火すると爆発します。つまりは木っ端みじんで跡形も残りません」

「「「「.......ゴクリッ」」」」



「さて、それでは命のやり取りを始めましょうか?」


「は、ハッタリだっ!そんな油があるなんて聞いたこと」



リーダーがそこまで言ったところで、目の前に"ガソリン"をたらして一歩下がった勇者がライターを使い火を灯すと....



ボッ、ゴワワワワワ....バンッ!



「ま、待てっ、話をしよう!」

「おいっ!?」


「嫌だっ!まだ死にたくねぇよぉ..」

「落ち着かんかっ!」


「黙ってろっ!だったらあんた一人で突っ込めばいいだろうがっ!」

「なっ!?」



「まぁまぁ落ち着ていください皆さん、何も命まで取るつもりは最初からありませんよ?どうでしょうか、ここは一旦引いて仕切りなおすということで」


「「「はいっ、それでお願いしますっ!」」」


「だからお前らっ!」

「あとちゃんとその人も連れ帰ってくださいね?.....じゃないまとめて火を付けに行きます」


「「「了解ですっ」」」


「だからおいって!」



少量のガソリンに引火する様をまじかで見た山賊たちが互いの体にかかったガソリンを見て今の状況を理解する。


その後、出された勇者の提案に考える事も無くすぐさま飛びつき、今だ戦意の残っているリーダーを抱えて去っていった。



それから勇者のほうは「さて」とつぶやき出口の方へと走っていく。


その後、指示通りに爆薬を仕掛けていたガリウスとロンデルに喜びのなか迎えられ、今だ"もがもが"と喚く二人を無視して勇者が爆薬に火を付ける.......




こうして王都を騒がせた山賊による公爵令嬢誘拐事件は幕を閉じたのだった。


......建国当初から続く長い歴史の中で常に王国の財を潤していた金鉱山ひとつと引き換えに。


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