商人を勧誘します

 勇者パーティが旅に出てからすぐの王宮。


「...やっと勇者を送り出せたが.....」

「...はい、ですが心配なのはこれからでしょうか」

「あぁ、そのとおりだエバルス。わかっていると思うが」

「はい、勇者一行危険人物の監視ですね。手筈を整えて参ります」


そう言い残して宰相エバルスが出て行き、それに続いて見学していた貴族や教団上層部、儀式の執り行いをしていた神官や巫女も出ていくことでこの場に残ったのは国王ハリスと教皇ノリスの2人のみとなる。



「...なぁノリス、今まで争ってきた我々だが」

「...あぁそういう場合では無いようだな。まず世界の安全を確保するのが先のようだな」

「そう...」


「「あの勇者はヤバい!!」」


「なにがヤバいってあの賢者と同調しているのがヤバい!!」

「どうなってる!!我々がしたのは勇者召喚の儀だよなっ!!」


「そうだ...間違ってな...い、はず」

「自信なくなってきたぞ..あれはどっちかといえば魔王側のやつまものだ」

「というかノリス、お主、今までなぜ会話に入ってこんかった?」

「分かり切ったことよ...イカれたやつに目を付けられたくないのは誰も一緒」

「そうか..そういえば、お主の教団には...」


「そう...狂人隔離施設イカれた部署があるからな...」



というようなことがあり、利害の一致があれば意外に仲の良い2人は共通の敵に対しての対策を練る.....共通の敵が誰のことかはここでは触れないでおこうと思う。



◇◆◇



 一方、その頃の勇者パーティ一行は、王宮を出てすぐの王都にて、


「それで勇者様、これからどちらへ?」

「まずはパーティメンバーを集める」

「メンバーとは...先ほどの2人ではなく?」

「あぁ、しっかりと使えるやつをこちらで用意する。まず必要なのは金さえ渡しておけば物資の入手に資金のやり繰り、そのあたりの事をうまく運べる人間だ。妥当なところは商人だな」

「商人ですか。王都で一番の商人となるとモットン商会会長になるでしょうか」

「そのモットン商会とやらについて教えてくれ」


「モットン商会はここ2~3年で急激に伸びてきた商会です。いずれは王宮御用達になるのではないかと。会長自身は若い青年のようですが、その手腕は本物のようですね。ただ中々、人前には姿を現さないことで有名です」

「ふむ、裏から操る参謀というわけか。...では、そいつを引きずり出すところから始めようか」


「いったいどのように?」

「あくまで商会の会長だ、大切な商会の一大事となれば表に出てこざるを得ないだろう。手始めに王都にくる卸売りから言い値で買い取った商品をモットン以外の商会に普段の半分以下で卸す。そのときに販売額を少なくとも3/4にさせる。金ならあるからな、文句があるやつには権力をチラつかせとけ」


「なるほど、そのための伯爵位、面倒ごとは国王向けるうえにながすわけですな。でもこちらはそれなりの出費になりますが?」

「今回はかまわん。それよりもモットンに危機感を与えられればいい。そうだな...適当な人間を雇って商会の中に噂を流させろ」


「周りの商会では仕入れ値が安くなっていると?」

「そうだ。こうしておけば少しでも焦ったモットンは噂の出どころ、仕入れ値について調べざるを得ないだろう。そこで私たちの出番だ。他国の卸売りを装って近づく。上昇志向は高そうな人間だ、いずれは王家御用達すらも視野に入れているだろうから使えるものには近づくだろう。そこでこう話を持ち掛ける。


"王都で様々な商会を見てきましたがやはりここが一番のようです。どうでしょうか、他の一切とは手を切るので我々で手を組み王家御用達の商人に成り代わりませんか"


とな」



「なるほど、鞭のあとに飴を与えるわけですな。そこから会長の信用を勝ち得て、こちらもそれなりに助けてもらおうと。ですが、そう簡単に信用されるでしょうか?」

「ふふっ、まだ甘いな賢者よガリウス

「?どういうことでしょう?」

「それだがな.....」


なにやら、怪しい計画を立てていた。



◇◆◇



「...んー、我が商会も立派になってきましたねぇ...。先代のそのまた先代から他国を渡り歩いて顔を繋ぎ、この国に無いさまざまな商品を卸す業者との伝手を得て、王都に出てから2年と半年。長い苦労の中でも次の世代のため、この商会のためと泥水をすする思いで顔を繋いでくださった先代方には頭が上がりません」


 このモットン商会は現在、着々とその勢力を広げている。

売り上げも従業員も右肩上がりで、まさしく順風満帆といえよう。


他の商人との小さな諍いはあれど、金とともに適当な利権を流してやれば大概の事はそれでカタがつくし、取り込むまでもない木っ端商人など支店取り込んだ他店で囲んで潰してしまえばよい。



 王都に構える商会本店の最上階、まるで成金の鏡のように豪華絢爛な部屋の中でモットン商会会長のサムエルは満足そうにひとり思考にふける。



 思えば昔は大変でしたねぇ。

 

 はじめはいくら珍しい商品を持っていようと名の通らない木っ端商会に過ぎないモットンわれわれでしたが、貴族のなかには物の価値が分かる方々もおられる。

そういった方々に商品を流して後ろ盾を得てからは市場での多数派工作袋叩きや、路地裏での脅迫暴力行為もされなくなりましたからね。

そうなってしまえば多くのコネを持つ我が商会が王都を牛耳るのに時間はかかりません。儲けた金と後ろ盾貴族の権力をチラつかせて周りの商会を黙らせる。


一見、敵対しているように見える王都の商会のほとんどは"実質"モットン商会支部と言えるでしょう。


ふふふっ。これで後は王宮関係の商人に成り代わりさえすればモットンの安泰は約束されたようなもの!



と、サムエルがひとり昔を思い出し、今後の展望に思いを馳せていたその時、コンコンコンと3度、扉を叩く音が聞こえる。

サムエルが「どうした?」と問いかけると、頬がこけ少し不健康そうだが目に鋭い光を宿す、眼鏡をかけた若い男性が額に汗を浮かべて入ってくる。



「サッ、ムエル様っ。少し...お耳にいれておきたいことがぁっ!」

「どうした、何かあったか?....お前がそこまで焦るとは珍しいな、ベケット」



 この男ベケットはモットン商会会長の秘書として、会長直々に右腕と呼び重宝している男だ。

 

 サムエルとベケットの付き合いは王都にくるずっと前から、もうかれこれ8年になるだろうか。

その間モットンで起きた様々な問題を、落ち着いた判断と見た目に反した図太い神経にて冷静に対処してきていた。

付き合いの長いサムエルでも、彼が自分の前に現れるのに額に汗を流し、言葉を乱すところなど数度しか見たことがない。


 その様子になにやらただならぬ事態を悟りつつも表には出さず、一見冷静に部下の報告を受けるサムエル。

その姿はさすがその若さで王都一の商会の会長になるだけはあると言えるだろう。


そして、その姿を見て安心とともに少しの落ち着きを取り戻したベケットが上司への報告を始める。



「はいっ。..まずここ数日の商会本店の売り上げが落ちつつありまして。最初は野菜や麦などの食料品など日常的に消費されるものから始まったのですが、今では布製品や木製、鉄製の家具など大型のものにも影響が出ております」

「ふむ。だがその程度ならよくあることだろう?大型の商品の需要に波があるのは当たり前だし、食料品でも今まで通り需要が下がったら値段を上げてカバーしておけば当分は問題ないはずだが」


「はい、常ならばそれで問題ないのですが...今回は少し事情が違いまして。どうやら今、売り上げが落ちつつあるのは本店われわれだけのようです。支店取り込んだ他店のほうは、下がるどころか最近になって売り上げを伸ばしているもよう。今のところ問題は起きていませんが、このままですといずれ抑えてきた周りに立場をひっくり返されるおそれが...」


「そうなれば今までさんざん押さえつけてきた連中もあわせて、まとめてうちモットンを潰しに来る、というわけか。新参だったのが数年で王都一になってから受けてきた妬み嫉みねたみそねみに加え、今まで頭を押さえつけられてきたんだ....手を組んで全員で向かってこられれば、いかに後ろ盾があろうともさすがに厳しいな....。で、どうなんだ?現状については調べてきたのだろうな?」


「はい。調べによると、どうやら支店の商品の値段がここ1~2週間前ほどから急に今までのおよそ3/4ほどまでに落ちているようで。そのため今までの値段で売り続けていた本店うちは値段の部分で競り負けているようです。そこから推察するに支店組やつら本店うちの知らない別ルートから商品を卸しているようで、しかもその情報をこちらに回さないことからも反目の意志あり、と取れます」

「なるほど.....。まぁそいつらへの対処は後回しだ。今は流れを見極め、こちらに向かせることに専念しよう。そのためには.....情報が足りないな。まずはその卸売り、とやらの裏をとってからだ。その後、接触を図り、こちらに付く利を示せば理解するだろう....どこに付くのが賢いのかを」

「はい。では、そのように」



「ただ、わざとこちらを避けている可能性もある。その卸売りになにかしらの考えがあることも頭に入れておけ」

「はい」


こうして、ひとまず方針の決まったモットンも動き出す。その行動が勇者の思惑にはまりつつあるということにも気づかずに.....。そして数日後。



◇◆◇



 トントントントン、と苛立たしげに指先で机を叩く音だけが部屋の中に響き渡る。


その音の発生源は、ここ数日それなりに多くの部下を使って"例の卸売り"を探せども一向に見つからないことに苛立ちを募らせたサムエルだった。



 ここ数日でさらに店の売り上げは落ちている。数日前までは、まだ辛うじてではあるが王都一と呼べる売り上げを出していたが、今現在では上から4、5番がいいところだろう。

さらに言えば卸売りの調査に人数をかけた分だけ、多少なりとも売り上げへの影響がある。

つまりは下がる売り上げに焦り、卸売りの調査人数を増やせば増やすほど売り上げが下がるのだ。


この悪循環にさすがのサムエルも焦りと苛立ちが止まらない。



 そこへ本日の報告としてベケットが入ってくる。


「失礼します、サムエル様」

「おぉ、来たかベケット!で、どうだった?何かわかったか?」

「いえ、残念ながら....」

「...くっ....既に10は人を使っているはずだっ!どうして見つからん!?」

「っ!?...落ち着いてください、サムエル様」


自分以上にいつも冷静な上司サムエルの焦った姿への驚きをなんとか抑え、声をかけるベケット。だが、とベケットは思う。



 ....たしかにおかしい。


他店には品を卸しているはずなのに正体が分からない。


人数をかけて見張らせても誰一人として出くわさない。


その辺りの人間に尋ねようとも知る人がいない。



なのに、なぜか噂だけが広がっている。

いくら人多い王都であろうとも、それなりに活動していれば誰かしらの目撃があるはずだ。

.....なのになぜか誰も知らない。



「...まるで幽霊のようだ」

「.....はい」



冗談と分かりつつも本当にそうなのでは?と思いたくなるベケットであった。


「はぁ.....、愚痴っていても仕方ない。引き続き調査を頼む」

「分かりました」



たしかに状況は悪いがまだ立て直せる、はず。

卸売りさえ見つければ大丈夫だ。

そうすれば今まで通りに戻れる。


サムエルは無理やりにでも自分にそう言い聞かせつつ、内心の不安を押し殺した。

...これ以上、悪いことは起こらないはずだと。



(大丈夫だよな...大丈夫なはずだ。これ以上悪くなることは...ない..はず)



......だが、これからさらに数日後、この予感は的中することになる..........悪い方向にだが。



◇◆◇



「た、大変ですっ!大変ですよっ、サムエル様っ!!」


その日のベケットの報告はそんな一言で始まった。


「どっ、今度はどうしたというのだっ!?」


「はっ、その....本店うちの従業員の半数がを起こしましたっ!」

「なんだとっっ!!?」



「...っ、ふっー...。従業員かれらの要求は2つ。悪質な賃金のピンハネを認め、今までかすめ取ってきた賃金の返還。そしてそれに対する賠償として賃金の底上げ、少なくとも倍、とするよう要求してきています」

「ふぁあっ!?....なんだそれは、ピンハネなど知らんぞ俺はぁっ!?」


「存じております。ですがストライキをした連中は店の中でもそこまでの地位がなく、信頼もない、言うなれば下っ端がほとんどです。それらを一部の者が先導したようでして...」

「くそっ、このクソ忙しいときに面倒増やしやがって現状も見えてない能無しの業突く張りぼんくらどもがっ!!」



 サムエルは度重なる問題の、そのさらにダメ押しで起きた反乱ストライキを聞いて、取り繕うこともできず忌々しげにゆがめた顔のまま近くにあったゴミ箱を蹴飛ばす。


「このタイミングを見るに...」

「あぁっ、間違いない。どう考えても"例の卸売り"絡みだろうっ」

「でも一体なにが目的なのか...」

「...分からん。最初はうちモットンの専属にでもなりたいのかと思ったが、それにしてはさすがに攻撃的すぎる。かといって他社の回し者にしては攻撃対象がうちモットンだけというのもおかしな話だ」


やっと落ち着いてきたサムエルが考察するが、やはり理由は分からぬまま。

....さしもの彼といえども、まさかこれが勇者パーティへの勧誘だとは分からない。


と、その時、さらに部屋に従業員のひとりが入ってくる。


「失礼しますっ、入ってよろしいでしょうか会長!」

「何事だ?」

「はいっ、こちらに尋ねられた者がいまして。会長にお会いしたいと。伝えてくれれば分かるだろうと言っておりましたが...」


それを聞いたサムエルはベケットと顔を見合わせたのち少し考えると、


「.....分かった。ここで応対するので連れてきてくれ」

「分かりました。それでは失礼します」


バタンとドアを閉めて従業員が来客を呼びに行ってから、



「サムエル様.......」

「あぁ間違いない。このタイミングで仕掛けてきたらしい。なにかしらの要求があるはずだから、それに合わせてこちらも動くとしよう」



こうして、ようやくサムエルと勇者の初対面となる。



◇◆◇



「お初にお目にかかります。あなた様がこちらモットンの会長でしょうか?」

「あぁ。ここの会長をしているサムエルだ。そちらは?」

「はい。私は、この辺りで卸売りをしているダニエルと申します」


「....それで、要件とは何だろうか?」

「おそらく検討がついているでしょうか、ここ最近の周りでの問題について」

「..やはり、そうなのだな。それで?なにが目的だったのだ?」

「私をそちらの専属卸売りにしていただきたかったのです」


「.....ふむ。一応それは考えた。分からないこともない。それだけではないのだろう?」

「はははっ。さすがにごまかせませんか。実のところ、ここには同盟を組みに来まして」

「同盟?」


「はい。どうでしょう、私たちで王宮専属の商会の座を奪い取るのは」

「.....なるほど、そういうことだったか」

「はい、そのためには商会のトップあたまがどれくらいのものなのかを見極めないと」

「そのためにうちを集中的に攻撃したと?」

「はい、すみませんが」



と、全くすまなそうにさらりと言うのを聞いて頭に血が上りかけたサムエルだが、今の状況を思い出す。



くっ、いけしゃあしゃあと言ってくれる!


だが確かに組めば念願とも言える王宮専属の地位が手に入り、さらにはこの状況もどうにかできるのだろう。

まだ何かありそうな雰囲気だが、こちらも体制を一旦は整えないといけまい....乗らない手は無いか。


全てが上手くいった後でもコイツらの調理やり返しはできる...今は機を待つ、か。



「分かった。それでは」

「交渉成立ですね。まずは今日のうちに周りの店と同じように品を卸します」

「あぁ」

「それと周りの店への卸しは取りやめましょう」

「そうだな」

「それから、たしかストライキでしたか」

「それだ。どうするつもりだ?」

「私の知り合いに役人の方がいるのでその方に頼んでおけば証拠もないピンハネ疑惑などは何とでもなるでしょう。あとはこちらの金で解決します。一時的なボーナスという形でそちらモットンではなくこちらから迷惑料を渡しておけば悪いことにはならないでしょう」

「ふむ。それならこちらが従業員になめられることもないか。まぁ所詮は下っ端だ、いずれは処分してやるがな」

「はははっ。それはどうぞご自由に」


こうして商人と卸売り、に扮した勇者の静かなる戦いは終息したかのように見えた。

.....商人に一方的にを盛るかたちで。



「では役人を呼んでまいります」

「あぁ分かった」



そう言った勇者がバタンと扉を閉めて出て行ってから十数分後。



「ここはモットン商会で間違いないな?」

と役人が訪ねてきて、

「あ、あぁ。そうだが..」


「確認は取れた!よしっ、チェリーにマックスは1階から順に。ドミニクとケリーは壁を剥がせっ。トニーとダミアンは私と共にここを張る」

「っ!?お、おい!何をしているっ!?」


「店内にいる者はそこを動くなっ!動けばすぐに捕縛する」


と、手早く指示を出し、幾人かを店の中に入れると、


「おっ、おいっ!!聞いているのか!?」


店を守るような位置に移動したサムエルは当然、抗議する。


「あなたは?」

「会長をしているサムエルだが」


いきなりの事に混乱しているサムエルがなんとなしに答えると、



「コイツが首謀者だ!捕まえろっ!!」

「!!?」



なんか、いきなり捕まった。



◇◆◇



ここで少し前の勇者と賢者による怪しい計画の話に戻るのだが。


「ふふっ、まだ甘いな賢者よじいさん

「?どういうことでしょう?」


「それだがな.....おそらく向こうも警戒するだろう、そう簡単には取り込めない。だが商会の売り上げが下がり、今までの地位が危ぶまれて焦った相手だ。まずは安心を手に入れたい、であれば手を組むとは言わずとも卸売りの件くらいは承諾するだろう。だからこそ、そこに毒を流す」

「毒、ですか?」


「あぁ。モットンに卸す商品には王家への反逆の証となるようクーデターの計画書と商会の人数分の武器一式だ。それから卸したその日に城から役人を突撃だ。弱みさえ握れば何とでも説得してパーティに勧誘できる」

「勇者様の事は、少しは分かったつもりでしたがまだまだのようでしたね...。ですがそれなら金や権力をチラつかせて同盟を、というのではだめなのでしょうか?」

「それだと相手はこちらを対等に見てくるだろう。それではいつ裏切られるか分かったものではない。だからこそ最初が肝心だ。忠誠を誓わせマウントとって働かせるこき使う

「ふーむ、なるほど」


「それとギリギリまでこちらの事は悟られたくない。他店への卸しにはそこらの人間を使え。金に困っているやつがいいな、そういう手合いは下手につっこんでこない」

「分かりました」


「ダメ押しにモットンの中でそれなりに地位のあるが、人一倍、野心の強そうなやつをそそのかしてストライキでも起こさせよう。どんな組織も一枚岩とはいかんからな。そのあたりは向こうモットン内にも誰かしら適任がいるだろう」

「勇者様もえげつないことを考えられる」



「"ゲリラジャブの後は頭を叩くストレート"、覚えておくとためになる戦略の基本だな」

「勉強になります。.........ところでなのですが、これからするのは商人の勧誘でしたよね?」



的確な賢者の質問ツッコミには答えず、勇者はパーティへの商人勧誘(あくまで勧誘である)を始め.....今に至る。



◇◆◇



そして翌日。



「だましたなぁっ!?おい!聞いているのかダニエル!!こっちを向け、おいっ!!!」


そんな声を遠くで聞きながら勇者は。


「では役人の皆さん、陛下への報告をお願いします。とても残念なことに名高きモットン商会会長が、ここ最近のの逆恨みを陛下へ押しつけ、挙句の果てにを企てたと」

「はっ。しかとお伝えします。ご協力ありがとうございました、勇者様」


「勇者っ!?おい今勇者とか言ったか!??そんなイカレた勇者がいるか!??そいつはダニエルだっ!この俺をハメやがったのはそいつだっ!!」


「あぁ、気にしないでください。召喚されたとはいえ今では国王陛下に忠誠を尽くす一国民でございますから」

「おぉっ、なんと謙虚なっ!まさに噂に聞いていた通りのお方です。それでは私は至急、報告に参りますので」

「はい、お気をつけて」


「おいっ聞いているんだろうダニエルっ!!こっちを向け!!」


「すみません、どうやら会長様は私を誰かと間違えているようで」

「いえいえ、勇者様のせいではございません。追い詰められた犯罪者に限って、捕まる直前で周りを巻き込み「自分は悪くない」と騒ぎ立てるのです。どうか、お気になさらないよう」

「そうですか。ですが彼が落ち着くまでの間、少し話させていただきたいのですが。あぁ、これでも勇者なので2人きりで大丈夫ですよ」

「分かりましたが何かあればお呼びください。すぐに駆け付けますので」

「はい、ありがとうございます」



いけしゃあしゃあと役人にそう言った勇者は、サムエルにしか顔の見えない角度に移動しニタリと口角を上げ、彼にしか聞こえない程度に抑えた声で話しかける。



「いやぁ、初めましてサムエル様ぁ?私は勇者をさせてもらっている者でして。こちらにはサムエル様を勧誘しに参りました」



と思いっきり神経逆なでするようにすると間髪入れずに、



「で、一緒に来てくださいますか?数年で商会を王都一にしたあなたの腕とコネが私には必要なのです。断ってくれてもかまわないのですが....国家反逆罪は、たしか最悪死刑になるとか。まぁでも運が良ければ終身刑で済むらしいですし....。一生、牢屋ぶたばこ老後生活スローライフも楽しそうですねぇ」



と告げる。



その悪魔のようにゆがめられた笑顔を見たサムエルは


"それは勧誘じゃなくて脅迫だ"

とか

"ホントに勇者かおまえ"

とか


色々と叫びたいのを残った少しの理性で抑え、

完全にハメられたしてやられた状況をを理解し、


がっくり


と、うなだれ肩を落とすと諦めたようにコクリ、と少しだけ首を縦に動かした。



◇◆◇



 その後、陛下への謁見で



「たしかに彼の行いは許されることではないでしょう。ですが今までの貢献と彼、本来の心根の奇麗さに免じて、今一度その罪を償う機会を与えてはいただけないでしょうか?勇者パーティに置いていただければ私が責任を持ってしっかりと正しき道に戻しますのでどうか彼に温情を」



と責任を負ってまで罪人にも救いをもたらそうとする姿を見せ、

勇者召喚の場に立ち会っていない者たちからは


「なんてすばらしい、さすが勇者様っ」


と尊敬を受け、

それらを見ていた本性を知る者たちは心の中で



「「「誰だコイツはっ!?」」」



というツッコミをしたという。


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