召喚した勇者がぶっとんでいた件について

@adegh3ik2nos

勇者召喚編

ぶっとんだ勇者を召喚してしまった

 ここはムント王国の中央に位置する王宮、その中。きらびやかな内装だかそこらの成金のような俗物さがなく、どこか神聖な雰囲気でつつまれたそこはこの国で信仰されている唯一信教ウースを奉る大聖堂である。


 国教として崇拝されていて、教団の総本山も国の中にあるウース教だが、実際のところはそこまで国と教団の関係は深くなく、むしろ裏では双方の幹部や上層部が利権をめぐって日夜汚い争いを繰り広げてすらいる。


 そんな国と教団だが今日この瞬間においては双方の利害の一致から、また世界の存亡がかかっているため共に手を取り合い一つの儀式をとり行っていた。

 この儀式は代々王家に伝わっている儀式であり、実行には監督としてウース教団の教皇猊下と今代のムント国王陛下、実際に儀式の実行役として教団の敬虔な信徒である巫女や高位の神官数名、また上級貴族や教団の上層部なども儀式の見学者としてその場に参列していた。

 

 そうした国と教団のそうそうたる面々をもってして異世界より世界の救い手を召喚する儀式、そう



"勇者召喚の儀"


である。




 今現在、少々の問題はあるものの国内は落ち着いており、これといって大きな問題があるわけでもない。

また他国との戦争なども、周辺の国々との同盟があるためここ200年ほどは起きておらず、今はまさに平和一色である。


 この平和の中でなぜ異世界の勇者が必要なのか、それには数日前に突如降りてきた神託が関係していた。


「この世界に降り立ち、かつて世界の半分をその手に落とした大魔王サタン、その復活の時が近づきつつある」


このような信託を教団の巫女数名が同じ瞬間に受け取ったというものだ。

この報告を受けてすぐさま国王への謁見を行った教皇、そして事態の深刻さをすぐさま理解し行動に移した国王は後世の歴史に名を残すであろう傑物といえよう。



 その後、国と教団の上層部で執り行われる会議にて双方一致で出た打開策が勇者召喚の儀。

800年前にこの地に降り立った魔王サタンを打ち倒すまで、眩いばかりの聖剣を携え数多のスキルを操り多くの魔物を屠り続けた救国の勇者、これを異世界より召喚した儀式である。


 対策が決まってからの行動は速く、王国と教団にそれぞれ残された資料を元に儀式の準備をはじめ数日で完成、そして今儀式のただ中のここに至る、というわけだ。



「異世界にいる勇ましくも気高き者よ、我らが国を、民をお救いください!!」


 巫女の一人が力ある言葉を口にすると、

反応した儀式用の台座の中心にある幾重にも重ねられた方陣が光り輝く。


そして、ひときわ眩い輝きを終えるとそこに一人の青年が立っていた。


黒髪黒目の相貌はまさしく資料や言い伝えにある通りで、どことなく品のある微笑は育ちの良さを感じさせる。



 召喚の瞬間は思考が追い付いていなかった者もその容姿を見て儀式の成功を悟る。最初に歓声を上げたのは誰であったか。次々と沸き起こる歓喜の叫びの中、国王が近づきそのものに問う。


「そなたが異世界の勇者であろうか。もしそうならば、この世界を救ってはいただけないだろうか?」


少し戸惑った勇者だったが、なるほど、とひとり呟き、納得した様子で顔を上げる。期待に高まった周りの者たちが焦る気持ちを抑えて次の言葉を待つ中、勇者が返す。


「すみませんが、まず状況の説明をお願いできるでしょうか?」

「う、うむ、そうだったな....すこし急ぎすぎたようだ。では...まずは魔王についてからか....」



その後、王に指示された苦労ジワの取れなさそうな壮年の男性が勇者に魔王のこと、この国のこと、儀式のことなどを教える。それらの説明が終わり、王が勇者に尋ねる。


「現状については先ほど宰相のエバルスから説明があったとおりだ。他に分からないことがあれば聞いてくれればよい」


「ではいくつか質問があります。まず勇者についてですが、元の世界への帰還はできるのでしょうか?」

「それについては申し訳ないが現状では無理だ。召喚されたものは、その目的が達せられなければ元の場所に戻すことはできない」


「では他の勇者の召喚は?」

「それも無理だ。この世界に召喚した勇者がいる以上、追加で呼ぶことはできないのだ」


「なるほど。それでは根本的なことについてですが勇者とは何でしょうか?」

「勇者とは異世界より呼び出される者。伝書によるとそのものは世界を渡る際に、呼び出された目的に必要なだけの潜在能力が与えられるという。先代の勇者は"すてーたす・おーぷん"なる呪文を唱え、その時々に力を確認できたそうなのだが.....そなたはどうだろうか?」

「ステータス・オープン、......なるほど...」

「どうだ?」

「はい、確かに確認できました」



「で、どうだろうか?引き受けてくれるだろうか、魔王討伐を」



王からの懇願にも似た問いかけに対して、


勇者は空中に何度が指をあてて「すてーたす・くろーず」と言葉にするとこちらを向き直ると、


機嫌の良さそうな、だが、なぜか満面の笑顔なのに不安を掻き立てるような表情を浮かべると一言。




「では雇用条件の相談に入りましょうかっ!!」



ポカンとした王とその周辺をおきざりにして勇者が商談に入る。


「人類存続の危機、魔王を倒すためなのですから、まずは資金ですね。この国の予算がどの程度かわかりませんが、とりあえずその半分はいただきましょう」

「「「.............」」」


「それに合わせて権限ですね。魔王を倒すまでの道のりで起きる面倒を叩き潰すために、そうですね.....少なくとも伯爵位はいただきましょう。あ、もちろん責任や仕事を免除する条文もいただきます」

「「「「.....................」」」」


「あとは魔王討伐後の褒賞についてですが、これは討伐後に要求するとしましょう。なので、まずは先の2つを早急に果たしていただきましょうか」

「......................................はっ」



さすがというべきか、いち早く意識を取り戻した王が動揺を隠せないまま勇者に尋ねる。


「な、なにをおっしゃっているのだ勇者、殿。冗談.....なのだろう?」

「ふーむ、この条件では雇っていただけないと」


この時点で勇者はくるりと振り向くと、


「それなら仕方がないですね。残念ですがこの国に私の居場所は無いようだ。そういえば先ほど勇者は2人と呼べないと言っていましたねぇ。私が逃げたらどうなるんでしょうか?まぁそんなこと私には関係ないですよね。それでは」

「ちょっ.....まっ」


このときになってやっと意識を取り戻した周りの者たち、主に見学にきた貴族等が勇者に向かって口々に騒ぎ立てる。


「なっ、なにを言ってるっ!!国家予算の半分など渡せるかっ!!」

「ふざけるなっ!!!勇者というからどんなものだと見に来ればつけ上がりおってっ!!」

「なにもなく爵位など渡せるわけがなかろうが、身の程を知れっ平民風情がっ!!」


後ろの騒ぎ声の一切を無視して勇者が出口の数メートル手前に来たところで王が。


「行かせると思うか?」

「............」

「だれぞ騎士団をここにっ!!衛兵は門を死守っ!!.....すまないな勇者殿、少し手荒になるかもしれないが、これもバカなことを言い始めるお主も悪いのだ。観念しておとなしくしていてくれ」


「...さきほど教えていただいたステータス・オープンで確認できたのですが勇者には特殊な力がいくつか備わっているようですね」

「...?..いきなり、どうした?...たしかに伝書にはそう書かれてもいるが、もしかしてその力で押し通るつもりか?やめておけ、勇者といえど召喚されたばかりでは潜在能力のみで使える力はないとある。それともお主だけが特別なのか?」

「いえ、もちろんそんなことはないですよ。......まぁとにかく勇者にはそういう特殊な力があります、という所です。そしてその中には物を無限に詰め込める能力があります」

「ふむ、それで?」


「そして中には元の世界で私が持っていたものが入っているようでした。この世界にあるかは知りませんが、小麦粉とライターが」

「?」

「小麦粉は名前の通り粉、そしてライターは火をつけるものです。知っていますか?密室に粉塵を巻いて火をつけると粉から粉に引火して爆発を引き起こすことを」


「っ!!?」


顔を引きつらせ、言葉に詰まった国王に勇者は畳みかける。



「せっかくの召喚。こんなところで死ぬのは不本意ですがお望みとあらば土にかえると致しましょう。..............ここにいる皆様とともに」



「コイツ今最後にボソッと不吉なこと言ったぞっ!!」

「いやーーーっ!?」

「そんなことしたら国家反逆罪で死刑だっ!」

「今のうちに誰かコイツを捕らえてしまえっ!!」」


勇者の巻き添え自爆宣言に場はさらに混乱し、その内1人が出した捕縛命令に、



「全員そこを動くなっ!!少しでも不審な真似をしたらまとめて爆破するぞっ!!」



と、いつの間にか片手に封の切れた"小麦粉"と書かれた袋をかかえ、もう片方の手には何やら小物を握った勇者が説得おどしにかかる。


 そも勇者召喚のために呼ばれた国と教会の関係者、その中でも特に重要な人物が集められたここは実質ムント王国の心臓といえるだろう。

さらに勇者召喚が行えるのはこの国のみで、必要な聖具や大切な伝書もあるここをまとめて吹き飛ばすということは世界の滅びを意味する。


そんな責任を負ってまで動ける者はこの中にはいない。それを知ってか知らずか勇者は続ける。


「でも大丈夫!!私が消えれば次の勇者に役目を託せます。今代勇者としての私も本望と言えるでしょう」

「っ.....は、ハッタリだ!!そんなこと起こるわけ..」


「お待ちくださいっ!!」


そう叫んだ宰相は言葉を続ける。


「た、たしか....以前にセガール侯爵家で起こった爆発事件....原因が麦粉と呼ばれる目の細かい粉状につぶした作物だったかと...」

「くっ...で、では!?」

「はい、おそらく勇者殿のおっしゃる通りになるかと」



「お分かりいただけましたか、国王陛下ぁ?」


そう言いニタリと口角を上げた勇者の脅し...問いに否やと言える者はこの場にはいなかった。



◇◆◇



 それから呼び出され財務大臣が無理難題に涙を流し嫌々と首を振りつつも、最終的には渋々ながら承諾させられた後。

商談(あくまで商談)を終え、国王からの軍資金と爵位を得て、これでもう用は無いと旅立つ直前。


「ま、待て、あと1つ。いかに勇者であろうと1人で魔王討伐の旅は厳しかろう?そこでそなたの助けとなる者を既に集めていたのだ」

「ほう」

「では、入ってまいれ」


そうして呼び出され大聖堂に入ってきたのは、



白金に光り輝くフルプレートに身を包み、身の丈ほどもある大剣を背負ったガタイの良い若い男


神官服のようだがさらに煌びやかな装飾が足された法衣を身にまとう見目の良い若い女


そして真っ白なあごひげを胸元まで伸ばした、中でもひときわ瞳に力のある老人



「端から紹介しよう。騎士団団長にして聖騎士に任命されたロンデル。教団の巫女より選ばれ、勇者の次に聖力を扱えるであろう聖女リラ。そしてその身に宿した知識において、右にならぶ者なしといわれる賢者ガリウス。彼らをそなたの旅の共としてつけよう。きっと助けになってくるはずだ」


「ふむ。まず聞きたいのだが聖力とは?」

「あぁそうだ、伝えていなかったか....この世界では古来より人の中には大小の差はあれど聖なる力が宿る。その力を我々よりずっと前の世代の者たちが聖力と名付けた。それからその者たちが古い歴史を調べるうちに聖力を使い人知の及ばない不思議な現象が起こせることが分かったという。そしてその現象が戦争の歴史によって攻撃、つまりは殺戮の手段として発展した。...今の世では不要な殺戮の技術だろうと今回の魔王討伐には役立つだろう。また国内は今のところ安全のための防壁があるが、その外には弱いながらも魔物がいる。そやつらは伝書によると魔王復活とともに本来の力を取り戻すとも言われている。ちなみに魔王など高位の魔物も同じような力を使うと言われ、名を魔力というらしい」


「なるほど、つまり聖力をもっているのは聖女だけではないわけか。そもそも私も使えるようになりそうだな」

「伝書によるとな。だが、それが?」


「つまり何が言いたいかというと......よし、そいつらはいらん!!」



◇◆◇



 その言葉に、先ほどのやりとりで多少の耐性と諦めがついていた王はともかく、言われっぱなしで黙っていられない者は騒ぎ立てる。


「まぁなんということでしょうか....。勇者様は聡明だと聞いていましたが、聖女の価値が理解できないとは。かわいそうなお方」

「あぁ理解できないな。聖力とやらを除けば温室育ちでなんの役にも立ちそうにない女一人。数を集めれば穴を埋められるお前などいらん」

「なっ....あ、たっ....」

「しかも今までつけ上がっていたのか扱いづらいときた。なぜ、そんなやつを連れて旅に出ないといけない?面倒は御免だ」

「くっ....」

「ははっ、勇者様には一瞬でその面の皮はがされたみたいだなぁ?」


と、口を挟んできたのは聖騎士。


「でも勇者様。そっちの女と違って俺はあんたの役に立ちますよ?たしかにその女は日に3回は何もないところで転びますし、今まで壊してきた城の修理費用を積み上げたらもう1つ城が立つとまで言われるポンコツですが」


「あんだってっ!!?ちょっとそこに座りなさいぶっ飛ばすわよロンデルっ!!」

「おっと素が出てるぞ、せ・い・じょ・さ・ま?」


「おらっ、死ね!!今日こそ、その首すっとばしてやる!!!」



本性を表し暴れ狂うポンコツ聖女と、"どうどう"と馬を鎮めるようにおちょくり始めた聖騎士によってまたもや場が混乱しそうなところへ、ずっと口を閉ざしていた賢者が一言。


「勇者様。たしかにあそこの2人はバカですが」


「「あ゛あ゛」」


「剣の腕と聖力は優秀です」

「ぶっ殺されたいようねぇ、じじい」

「なぜわし等を連れていかれませんのか?」


「質より量。扱いづらいバカはいらん!!」


勇者がそう言い放つと、さらにヒートアップする聖女と、またもやおちょくり始めた聖騎士によって場の混乱はさらに悪化し、


「ふむ。だがお前はそいつらとは違いそうだな、賢者ガリウスよ」

「はい、もちろんです。わしは勇者様の手となり、足となり。誠心誠意働かせていただく所存です」

「ほう、それは嬉しいことだが、なぜそこまで?」

「わしには望みがあるのです」

「どのような?」

「それは....魔王討伐後でよいので勇者様に異世界の知識を教えていただきたく」

「そんなことか。どのようなことが知りたいのだ?」


「はい、なんでも異世界には"にじげん"なる国があり、そこでは小さな女子おなごを愛でる場所があるとか」

「......ん?...」


「そこでは様々な恰好をした美少女天使が星の数ほども住んでいるそうですね?」

「...............」


「わしにその夢の世界の景色を見せていただきたいのです!!!見ることしかできないのが残念ではありますが...いや、待てよ......たしか先代の勇者は好きな姿かたちにその身を変える術があったとか......それならあるいは、いや....我々はあくまで遂行な、そう、あくまで我々は愛でるだけっ!!そうっYesロリータNoタッチですぞっ!!!」



「待て、落ち着くのだロリウス」

「ガリウスです陛下」

「なるほど。正直ドン引きだし、身の危険も感じるが....採用っ!!」

「お褒めにあずかり光栄です。それではお供いたします、勇者様」

「もうやだコイツら。なんでこんな犯罪者予備軍に世界の運命託さないかんのか..」


理想に突き進む賢者へんたいと別ベクトルに頭のおかしい勇者を前に、とっくの昔に限界を迎えた王が俯き嘆く。こうして勇者パーティ(仮)の初顔合わせは終了したのだ。


その後、なぜか波長の合った賢者のみを連れて王宮を出た勇者。こうしてぶっとんだ勇者の魔王討伐への道は始まったのだった。



「ってなにナチュラルにあたしたち置いて行ってるのよっ!?あの勇者っ!!次に合ったら今日の分ものしつけてやり返して、あたしを認めさせるっ!!!足をなめて許しを請うまでいたぶってやるわぁ、うふふふふっ」

「うわぁ、聖女の顔じゃないよ、これ...ってよだれ!?はぁ、まずは勇者様を探しに行きますかね」


と若干忘れられていたポンコツ聖女と比較的まともな聖騎士の、勇者パーティ参加に向けての旅も始まったらしい。


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