第4章 10

 最後の力を振り絞り、冷たくなりかけた佐保子の身体を背負い、山道を登る。

 だがいくらも進まぬうちにその場に膝をついた。

 血を、流しすぎた。多分、もう長くは保たない。

 いつの間にか、再び雪が降り始めている。


 いつか佐保子と一緒に根元の雪を掘り返し、団栗を見つけて大喜びした椎の木に寄りかかり、佐保子を掻き抱く。


 ――あなたのて あたたかいわ


 そう言って、目を細めていた佐保子。


 もう、寒くないように。


 こうやって、雪が止むまで、ずっと温めていてあげるから。



 ずっと――。





 ……ふと目を開けると、吹雪き始めた闇の中に、真っ白な人影が立っていることに気づいた。

 この采女取の里を飲み込んだ業の化け物が、遂にその姿を現したのか。

 かつて、この場所で命を落とした雪女郎が、繰り返された悲劇を哀しんでいるのか。

 それとも、失血に霞んだ目が見せた幻なのか。

 



 ……何もわからぬまま、私は再び目を閉じた。




                                 終

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