第4話 決意と嘘
そして、時は再び放課後の告白の場面。
予想通り北条ユリアから告白された。あとは“カズくん”が自分ではないことを伝えるだけだが、和馬はいまだ一言も発せずにいた。
和馬はこれまでの人生で告白というものを受けたことはない。友人である隆一が中学時代に何度か告白を受けていたことを聞いてうらやましいとも思っていたが、実際に自分がその対象、しかも断らなければならない立場となるとそんなことも言えなくなりそうだった。
隆一は決まって「断る方もしんどいんだよ」と言っていたが、その気持ちも今ならわかる。これが「私たち、付き合っちゃおうかー。」のような軽いノリであれば、こちらも冗談半分のノリで断ることもできそうだが、目の前にいる彼女の告白はどこまでも真摯で、真っ直ぐな強い愛を感じるものであったためにそれも難しい。正直、間違い告白などでなければ二つ返事でOKしてしまいそうだった。
(こ、断りづらい…。でも本当のことを言わないと。)
結局のところ、北条ユリアの告白の対象はここには存在しない”カズくん”であって青山和馬のことではないのだ。彼女がどんなに思いを伝えようと、その気持ちが思い人に届くことはない。今の自分にできることは、いかにして彼女を傷つけずに本当のことを伝え、波風が立たないようにするかである。
(覚悟を決めろ。ただ一言間違いですと伝えるだけだ。それだけでいいんだ。)
「あ、あの…。」
「やっぱり私の事、許せないですか。」
「えっ?」
「8年前、お別れもせずに突然引っ越してしまったこと、遊ぶ約束をしていたのに約束の時間に来なかったことやっぱり怒っていますよね。」
改めてユリアの顔をよく見てみると、その瞳は不安げに揺れていた。
「本当は何日も前から、引っ越すことは両親から知らされていたんです。でも、それを伝えたらもう会えないんじゃないかって、嫌われてしまうんじゃないかって考えたら伝えられなくて…。結局、最後までお別れを言えませんでした。」
ここにきてようやく彼女が不安そうにしていた理由が分かった。
ユリアは、大好きだった”カズくん”を、自分のせいで傷つけてしまったことをずっと悔いていたのだ。この告白も、成功する確信があったわけじゃない、会った瞬間に拒絶される可能性もあったのだ。それでも、この告白をしたのはそれほどまでに”カズくん”へ深い愛情を抱いていた故であろう。
「この告白は断っていただいても構いません。ですが…ですが、どうかもう一度お友達になっていただけませんか。身勝手なことを…言っているのは分かります…。でも…もう一度あの頃のように…お話をしたいのです…。」
気がつけば、ユリアの瞳は涙をいっぱいに貯めて潤み、あと少しで零れ落ちそうなところまできていた。
どれほどの覚悟で、この告白に臨んだのだろう。今までの人生で、ここまで人を想ったり思われたりしたことのない和馬には到底理解できなかった。自分は無関係なのだから当初の予定通り、自分が“カズくん”ではないと伝えて終わらせようと思っていた。しかし…。
「怒ってなんていないよ。」
気がつけば、和馬はそう切り出していた。
「確かに何も言わずに引っ越していったのは寂しかったけどさ。でも同じ立場だったら、俺も面と向かって話せなかったと思う。だから、こうやってもう一度会えて嬉しい気持ちしかないよ。今日まで話しかけられなかったのはごめん。君はいつも人に囲まれていたから中々話しかけられなかったんだ。」
和馬はそういうとユリアに近づいて行き、右手を差し出した。
「俺もユリアのことがずっと好きでした。こちらこそ、よろしくお願いします。」
「カズくんッ…。」
ユリアは差し出された右手を無視して和馬を抱きしめていた。
「よかった...。よかったよぉ。」
和馬の胸に縋り付き泣きじゃくるユリアの頭を和馬はそっと撫でた。
和馬はユリアには見えないように複雑な表情を浮かべながら、
(本物が見つかるまで、俺はこの子の“
と心の中で決意をした。
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