第3話 告白された日の昼
「さて、ラブレターの中身を読んでみるか。」
昼休み。和馬と隆一は校舎裏に置いてあるベンチまで移動してきていた。昼食を食べるついでにラブレターの中身を確認しようとしたが、人目につくところでラブレターを読むのもどうなのだろうと思い、普段人の寄り付かないこの場所を選んだのだ。
「テニス部の先輩からこの場所の事聞いといてよかったな。ここなら誰かに見られる心配もなさそうだ。」
購買で買ってきた焼きそばパンを、苺牛乳を流し込みながら隆一は言う
「まあ、十中八九いたずらだと思うけどね。罰ゲームの嘘告で告白現場に現れた俺を笑うつもりなんじゃないか。」
「考えがネガティブすぎるだろ。」
隆一があきれた声を出す。
「とりあえず、中身を確認してみますか。」
和馬は封筒から中身を取り出し、読み始める。初めは無表情だった和馬の顔が読み進めるうちに、だんだん眉をよせて難しい顔になっていった。
「なんだこれ?」
「どうした。何か変なことでも書いてあったのか?」
和馬は難しい表情のまま、無言で隆一に手紙を差し出した。
「どれどれ…。」
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青山和馬くん
覚えていますか?昔よく一緒に遊んでいたリアです。
八年前に私がお引越ししてからもう会えないと思っていたけど、また会えて嬉しいです!しかも同じ高校に通えるなんて夢みたい…。
学校で姿を見かけてから何度も話しかけようと思ったけど、中々話しかけられなくてもどかしかったな。
カズくんの日本での生活と、私のイギリスでの生活、色々話したいことがあるの。
そして、カズくんにまた会えたらずっと伝えたいと思っていたことがあるんです。
放課後、校舎裏のベンチでお待ちしています。
北条ユリア
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「どっからどう見てもラブレターだな。しかも北条ユリアか…。こんな超有名人と知り合いだったのかお前。」
「知らない。」
「は?」
「だから知らないんだよ。そもそも北条ユリアって誰。」
「お前、他クラスとはいえあんな有名な子知らないのかよ。」
隆一曰く、北条ユリアは同学年の中では目立つ存在らしい。
その1番の理由は、現実離れしたその見た目である。日本人とイギリス人のハーフで銀髪碧眼、白く透き通った肌をした妖精のようなヴィジュアル。さらに物腰も穏やかで、誰とも分け隔てなく笑顔で接してくれるため、男女問わず人気が高いらしい。
ちなみに1学年は5クラスあり、和馬と隆一のクラスは1組、北条ユリアは2組である。
「告白された数は二桁いってて、ファンクラブまでできているって話だ。」
「へえ、そんな人気者はアニメとか漫画の世界だけだと思っていたよ。」
「ていうか、この文章どう見てもお前のこと知っている感じだぞ。」
「いや、八年前ってことは、俺たちは小学校の低学年でしょ?ハーフの、それも女の子とよく一緒に遊んでいたなら多少は覚えているはずだよ。全く記憶にないってことはないだろうし。」
「確かにそうだな…。」
「それに今までの人生で俺の事を”カズくん”って呼んでいた人はいないはずだよ。断言できる。」
「理由は?」
「そもそも一緒に遊ぶような友達が少なかったから。」
「すまんかった。」
「普通に謝るなよ!お詫びで飲みかけの苺牛乳差し出すな!」
頭を下げながら、苺牛乳を差し出す自称親友の頭をスパンと一発叩いておいた。
「だったらこれは間違いラブレターってことか。」
「そういうことになるね。理由は分からないけど、北条さんが俺の事を昔親しくしてた“カズくん”と勘違いしているだけだ。」
そういうと和馬は、再び難しい表情をした。
「とりあえず誤解を解くために放課後ここに顔出さなきゃいけないのか。気が重いなあ…。」
「ん?どうしてだ。一言人違いですって言えばいいだけだろ。」
「考えてもみなよ。ずっと会えることを待ち望んでいて、告白までしようとした相手がまさかの人違いだったなんて、ショック大きいでしょ。最悪、その場で泣き崩れる可能性もあるよこれ。」
「そこを上手く慰めてお近づきになればいいんじゃねえの。」
「陰キャの俺にそんな甲斐性あるわけないだろ。ひたすらキョドってパニックになるのが関の山だ。」
「もし、泣いてる現場をファンクラブの連中に見られたら殺されるかもな。」
「余計な不安を煽るんじゃない!」
「まあ、骨くらいは拾ってやるから。頑張って逝ってこい。」
「何とか泣かれないようにオブラートに包みながら話すとするよ…。あああ、胃が痛い。」
放課後に発生することがほぼ確定している修羅場を想像して和馬は頭を抱えるのであった。
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