第2話 告白された日の朝

 時は少し戻って、和馬が告白された日の朝に遡る。


 4月も中旬の朝、寝ぼけ眼をこすりながら、和馬は通学路を歩いていた。


「あー、眠い。学校行きたくないなあ。でも、休んだら父さんに連絡行くよなあ。心配かけるのはちょっとな。」


 和馬はサラリーマンの父と二人暮らしをしている。両親は和馬が物心つく前に離婚しており、それ以降男手一つで育ててくれた父には感謝しかない。


 登校して午前中は保健室で寝てようかなどと考えていると、一人の男子生徒が声をかけてきた。


「おはようさん、和馬。今にも倒れそうな顔してどうしたー?」

「朝から、胃もたれ引き起こしそうな奴と会ってしまった…。」

「朝からご挨拶だな!親友の顔見てなんてこと言うんだよ。」

「ウヴォエエ…。」

「そんなに!?親友って言われたのがそんなに嫌だったのか!」


 彼の名前は、九重隆一。和馬と同じ見鷺高校に通う一年生で、中学時代からの友人である。

 運動部らしく短く刈り上げた頭に、精悍な顔立ちのイケメンである。運動神経抜群で、所属しているテニス部では、先輩たちを差し置いて部内1位となったらしい。頭こそあまりよくないものの、明るくノリの良い性格のため友達も多いようだ。


 しかし、なぜか和馬に対してだけは親友などと嘯いてやたらと絡んでくる傾向にある。中学からの謎であるが、波長が合ったとかその辺りだろう。


「ふう、吐いたら少しすっきりした。」

「俺はモヤっとしたよ。そもそもなんでそんなに具合悪そうなんだ。」

「ゲーム遅くまでやってて、気づいたら外が明るくなってた。」

「自業自得じゃないか。」

「あと登校途中に暑苦しい男に話しかけられてしまった。」

「それ俺の事だよな!心配して損したわ!」


 こうやって軽口を言い合える程度には仲の良い二人であった。



 そんな会話をしつつ、見鷺高校にたどり着いた。

 朝練をしている部活の活気ある声があちこちから聞こえてくる。


「そういえば隆一の部活は朝練ないの?」

「朝錬参加は任意なんだよ。朝からクタクタになって授業中寝るのはまずいしな。」

「っていっても、授業聞いてても成績よくないでしょ?」

「そうはっきり言われると若干ムカつくが…。赤点取ると夏休みに補習で部活に参加できなくなるんだよ。」

「あー。そういえばそんなこと最初の頃に言われてたね。」


 見鷺高校では、1年生の1学期に中間テストと期末テストが1回ずつ行われる。これらのテストで同じ教科が2回連続赤点になると、夏休みが補習で半分潰れてしまうのだ。

 和馬は帰宅部なうえ、普段の小テストも平均点ほどは取れているので、あまり意識していなかった。


「夏休みにはいくつか大会もあるから、意地でも赤点だけは取りたくねーんだよ。」

「まあ、頑張れ。影ながら応援してる。」

「ありがとよ。早速で悪いが、数学の宿題写させてくれ。」

「こりゃ、もうダメかもしらんね。」



 そんなことを話しつつ和馬が下駄箱を開けると、見慣れないものが入っていることに気づいた。


「なんだこれ?」


 中の物を見た瞬間、和馬の眠気は一気に吹っ飛んだ。

 白い封筒にハートのシールで封がされたいかにもなモノが入っていたからだ。


「おい和馬それってラブレターか。」


 隆一が驚いた顔をしながら、ブツの正体を口にする。


「いや何かの間違いでしょ。顔イケメン、運動万能、頭残念のお前ならともかく取り柄のないない俺に告白ってさ。」

「いや、でも手紙に“青山和馬君”って書かれてるぞ。差出人の名前は…封筒には書かれていないな。」

「この学校にもう一人、同じ名前の人がいたんだね。知らなかったよ。」

「頑なに信じないつもりかこいつ。」

「まあ、昼休みにでも読んでみるよ。」



 和馬はそう言うと、手紙をカバンの中に入れて足早に教室へと向かった。

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