第4話 犯人

「孫は小学生だが自分をいじめていた中学生と同じ【子ども】のカテゴリーだったんだろう。居間での出来事で私と妻もいたので大事にはいたらなかったが……母はひどく追い詰められていた」


 おじさんが僕を見た。どきっとした。


「きっとあの中学生が原因だ、私はそう思っていたが母のフォローが先だ。妻がパートを休んでしばらく母についていたよ。暴れたりはしないが一向いっこうに元気が戻らない、明日になったらどこかの機関か病院に相談しようと思っていた」


 僕は気を紛らわすため、お菓子を食べようと思った。けれどもこの状況の中でお菓子を食べるなんて非常識に思われないだろうか。それよりも手が動かない。


「しかし【明日】は来なかった。母は死んでいた、自殺だよ。方法は言わない、君が真似まねをするといけないからね」


 ガクガク。僕は震えた。いけない、震えたら疑われる。そう思っても震えは止まらない。


「母の最期さいごを見せよう」


 おじさんはそう言って一枚の写真を出した。おばあさんが死んだ時の写真。僕はすぐに目をそむけた。ラベンダーのにおいがした。おじさんはじっと僕を見ていた。


「お前だな」


 鬼が僕を見ていた。般若はんにゃのお面を思い出した。怖い顔をしていた。


「母の元へ来ていた中学生を見つけるために私は毎日家の前に立っていた。母が日向ぼっこをしていた場所でな。カメラには犯人の顔がはっきりとは映っていなかった、けれども首に大きなホクロがあった」


 僕はつい、自分の首にあるホクロを手でおおってしまった。


「しかし首にホクロがある子は一人じゃないだろう、私はホクロで君を見つけたんじゃない。君は私を見る回数が多かった。他の生徒は私の存在を気味悪がって見ないようにしていた。その中で毎日チラチラとこちらを見ている男子生徒は君一人だったんだよ」


 ブルブル。鬼に追い詰められている。僕は激しく後悔をした。けれどもここで謝ったらカメラに映っていたのが僕だと認めた事になる。怖くて何も言えなかった。


「おどかしてごめんね」


 おじさんがニコッと笑った。


「さあ暗くならない内に帰りたまえ」


 なんだ? 何が起こったんだろう。おじさんが笑顔で僕をうながす。僕は言われるまま玄関に行き靴を履き、その家を出て行った。僕はふり返らずに道路へ急いだ。


 道路まで出ると下校している生徒はいなかったが、仕事帰りだと思われる人が何人か歩いていた。人を見て安堵あんどした。

 何だったんだろう。どうしてあのおじさんは僕を家に呼んだのだろうか。僕が犯人だと知っているのに何もせずに帰した。やっぱりおかしくなっているのだろうか。


 犯人……。僕は何もやっていない。それなのに今、心の中で自分を犯人だと認めてしまった。

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