浦島太郎のような

増田朋美

浦島太郎のような

浦島太郎のような

今日は、朝起きたらなんとなく肌寒い日だった。先日までものすごく暑いと言っていたのがどこへやら、

打って変わって、寒いと言われるほど、寒い朝だった。

「やれれ、今日はもう、エアコンもいらないな。こんな寒い日は、この夏が終わって初めてだよ。」

「本当だね。一気に季節が逆転してしまったようだね。」

と、杉ちゃんと、蘭は、そういうことを言いあいながら、電車のドアまで移動した。富士駅のホームが見えてきた。奇妙な風貌をした女性が、ホームに立っていた。これから電車に乗ろうとしているのか、それとも別の電車を待っているのかわからないけれど、とにかくホームに立っていた。彼女の右側には、大きなスポーツバッグがあった。ということはどこかに旅行に行こうとでも思ったのだろうか?でも、それなら、すぐに電車に乗り込んでくるはずなのだが。彼女はそういう様子はなさそうでただ茫然と電車を見ているだけである。

杉ちゃんたちが、駅員さんに車いすで降りるのを手伝ってもらって、電車を降りると、電車は待っていましたとばかり勢いをつけて、走って行ってしまった。例の女性は、茫然とホームに立っているだけである。電車に乗ろうともしなかった。

「おい、お前さん。今僕たちが降りた電車に乗るつもりだったのか?」

と、杉ちゃんは全く悪びれた様子もなく、彼女に尋ねた。こういう時にまったく恥じらいなどもなく、相手に質問できるのは、杉ちゃんだけだった。

「それとも、乗る電車を一本間違えたのかな?あ、別に悪気はないよ。ただ、僕たちが、御覧の通りの姿なので、お前さんが乗りたいのに、邪魔をしてしまったら、謝ろうと思ってさあ。」

「杉ちゃん、そういうことを思ってるんなら、普通のひとは別の入り口から電車に乗るさ。」

と、蘭は、杉ちゃんの話しにそう割って入ったが、その人は、変に戸惑った顔をして、

「いえ、そういうわけではないのです。」

と、言った。

「じゃあなんだ?答えを教えてくれよ。僕、答えが出るまで、質問し続ける性分なんだよ。」

杉ちゃんは、またいつも通りの悪癖を発揮して、そういうことを聞いている。蘭は、なんでそういう風に、他人の話を知りたがるもんだろうか、と思うのだが、杉ちゃんのその癖は、直しようがないのも知っていた。

「ええ、一寸訳がありまして。」

と女性は口ごもった。

「まさかと思うけど、自殺をしようとしたというのはダメだぜ。それは、やってはいけないことになるから。どんな宗教でもそれを肯定する奴なんかどこにもないからな。」

と、杉ちゃんが言うと、彼女は申し訳なさそうな顔をした。それを見て杉ちゃんは、

「図星か。」

と一言言った。でもすぐに考えを変えたようで、でかい声でああそうだと言った。

「それじゃあ、僕のうちで、一寸カレーを食べていかない?思いつめるやつというのは、大体腹が減っていることが多いからさ。何か食べれば、また考えも変わるかもしれない。」

杉ちゃんのカレーを食べろが始まると止められないことを、蘭は知っていた。どうせその道中に使われるタクシー代は蘭が負担することになるのだろうが、でもまさか自分たちが自殺ほう助の罪にでも問われたら、大変なことになると思いなおして、彼女を連れていくことにする。

「悪いことはしません。この人が作るカレーというのは、けっしてまずいものではありませんから、ぜひ、彼と一緒にカレーを食べてください。」

蘭はそういって、彼女にタクシー乗り場に行くように促した。杉ちゃんが、ほら、来いよと言って、タクシー乗り場に向かっていく。蘭はどうぞとだけ言って、彼女と一緒にそのあとをついていった。タクシー乗り場に行くと障碍者用タクシーはすぐあった。最近ではこういう風に障害者ようのタクシーもたくさん走ってくれているので、障碍者も外出しやすくなった。ユニバーサルデザインタクシーと呼ばれているものらしいが、そういう風に、誰でも使えるタクシーというのを、法律で用意するように義務付けられているらしい。

タクシーの運転手に介添えしてもらいながら、杉ちゃんと蘭は障害者用のタクシーに乗り込んだ。先ほどの女性も、一緒にタクシーに乗った。

「ところで、お前さんの名前はなんていうの?」

杉ちゃんが聞くと彼女は、

「犬養恵といいます。」

と、だけ言った。

「なるほど。犬養さんね。どうも珍しい苗字だね。ちなみに僕の名前は影山杉三で、こっちが親友の伊能蘭ね。杉ちゃんって呼んでね。どうぞよろしく。」

杉ちゃんはそういって、無理やり右手をとって、握手した。蘭は、本来なら自分でしたかった自己紹介を、杉ちゃんに言われてしまったので、がっかりした。この女性、つまり犬養さんは、結構な美女なのだ。もしかしたら、有名な女優で似たような人がいるかもしれない。いまでこそ、ジャージ上下を着て、服装には無頓着でいるようであるが、おしゃれをさせれば、相当な美しい女性になる事は間違いなかった。

「そうですか。じゃあ今日は、スポーツクラブで、強化合宿でもあったんですか?」

と蘭は思わず聞いてしまう。電車に飛び込もうとした人が、そんなところからの帰りであるはずはなかったが、犬養さんは違いますとだけ言った。

「ほんじゃあ、何の用事で、あの駅のホームに立っていたんだ?」

杉ちゃんがそう聞いた。

「ええ、電車から降りたのはいいものの、どこで改札をしたらいいのかとか全くわからないので、ホームに立ってました。」

と、犬養さんは答える。

「そうなんですか。ということは、富士駅に来たのが初めてだったとか?でも人の動きとか見れば、どこが改札へ行くかわかるはずですよね?」

と、蘭が聞く。確かにその通り、電車を降りた人たちは自動的に改札口へ向かうはずである。駅の構造というのは大体一緒だし、大都市の駅とか、秘境駅でもない限り、変な作りはしていないはずなのだが、、、。

「ごめんなさい、私、人が集まるところが怖くて、大勢いのひとがいるところに行けなかったんです。」

と彼女は答えた。

「つまり、そういうところに行くと、恐怖を感じてしまうんですか。なるほどね。そういうことなんですね。わかりました。僕たちは、偏見も何もありませんから、なんでも言ってください。僕たちは、何かお力になれたらと思いますので。」

と蘭は彼女にそういった。もちろん美人な人ということもあるが、なんとなく彼女のことがかわいそうになった。蘭のもとにも、そういう症状を示している客は来る。例えば、神仏を背中などに入れて、誰かが守ってくれていると思いたいという人や、リストカットの痕を刺青で消して、新しい自分になりたいという人もいる。だから、そういう気持ちがわからないわけでもなかった。

「お客さんつきましたよ。」

と、運転手が、タクシーを杉ちゃんの自宅前に止めた。おう、ありがとうと言って、杉ちゃんたちは、運転手に介添えしてもらいながら、タクシーを降りて、お金を払った。

「お金を払うことだけは、変わってないんですね。」

と彼女が言う。

「まあ、今はスマートフォンで払うとか、カードで払うというやり方もあるけどね。」

杉ちゃんがそういうと、彼女はちょっと困った顔をした。それを杉ちゃんは、返答しなかったっものの、変わっているなという顔で見た。

「よし上がってくれ。すぐにカレーを作るから。」

と杉ちゃんは言って、どんどん家の中へ上がっていく。蘭も、彼女に入ってくれと言って、一緒に中へ入った。三人は台所に真っ先に行く。杉ちゃんのほうは冷蔵庫を開けて、野菜や肉などを出し、カレーを作り始めた。蘭は、その間に彼女を椅子に座らせた。

「えーと、犬養恵さんでしたね。僕たちは、杉ちゃんの言う通り、怪しいものでなんでもありません。ただ、あなたが、ああしてホームに立っていたので、心配になって声をかけただけです。」

「そうですか。ありがとうございます。本当のところ私は、なんかもう、ダメじゃないかと思っていたんです。切符の買い方もわからなくて、駅員さんに笑われてしまったりして。すみません。何だかこんなに世の中が変わっているとは、思わなかったんです。みんな、電車の中でも、四角いものをにらめっこしていて、ちょっと怖いですね。そんなもの、出てくる前にはなかったんですけどね。」

犬養は、一寸恥ずかしそうに答えた。

「はあ、世の中がそんなに変わったって、ここに暮らしていれば、いやでも使わざるを得なくなるもんだけどねえ。」

と、杉ちゃんが言うと、

「ええ、私、普通のところにいなかったので。」

と彼女は恥ずかしそうに答える。

「はあ、刑務所にでも入ってたのか?」

と、杉ちゃんがわざと軽く聞くと、

「近いかもしれません。でも、罪を犯したとかそういうわけではないんですが。其れも、病気の治療のため、十年近くいました。」

と、彼女は答えた。

「ははあ、労咳でも患って、病院に入ってたのか。」

杉ちゃんがそういうと、

「もう時代が古いよ。そんなことは、昭和の初めくらいの事だろう。そうじゃなくて、犬養さん、あなたは、精神科みたいなところにいたんですね。いわゆる社会的入院というやつでしょう。そこから解放されて、こちらに帰ってきたけれど、切符の買い方がわからなかったり、改札口がどこだかわからなくなって、困っていたんだ。」

と、蘭が急いで訂正した。彼女、つまり犬養さんは、申し訳なさそうに、そうですと頷いた。

「それでは、まるで浦島太郎みたいじゃないかよ。竜宮城へ行ってたわけね。一体何年竜宮城へいたんだよ。」

と、杉ちゃんが聞くと、

「九年です。なかなか薬をやめようにもやめられなくて、長引いてしまいました。」

と彼女は答えた。

「薬ねえ。それはまるで、玉手箱だね。其れのせいで、お前さんはおかしくなるんじゃないの。まあ、もう玉手箱は開けてしまったので、年を取ったまま、過ごしていくことになるんだろうけどさ。」

杉ちゃんはそう言ったが、蘭はちょっと彼女が心配になった。

「で、住むところとか、そういうところはあるんですか?」

「ありません。」

と彼女は答える。

「もう住んでいたアパートは、入院する前に、家賃の滞納で、立ち退きを命じられてしまいましたし。だから、また一からやり直さないと。仕方ないので、今日はホテルとか、そういうところに泊まるしかないかなと。」

「ああ、なるほどね。じゃあ、製鉄所に空き部屋があるかどうか、調べてもらおうぜ。すぐ行動だ。急いでやろう。」

杉ちゃんが、カレーを彼女の前において、そういった。

「製鉄所?鉄をつくるところですか?」

と彼女が聞くと、

「いいえ、鉄は作りません。製鉄所というのは名のみで、実際は、誰か行き詰った人たちが集まって、勉強したり、仕事したりするところですよ。あ、心配いりませんよ。あなたのような、精神を病んでしまった方もいますし。それに、住み込みもできますから、新しいアパートが見つかるまで、いさせてもらったらいい。」

と蘭はそういって、スマートフォンをダイヤルした。幸い出たのは、ジョチさんではなく利用者の一人だったのでほっとする。蘭が今空き部屋はあるかと聞くと、ありますよ、今住み込みのひとは少ないのでという答えだった。利用させたい人がいると蘭が言うと、わかりましたと利用者は快く承諾してくれた。

「じゃあ、カレーを食べたら、製鉄所へ行きましょう。大丈夫ですよ、怖い医者もいませんし、看護師もいません。いるのは優しい人たちだけです。ただ、永住ということはできないというルールだけ守ってくだされば。」

と、蘭がそういうと、彼女はやっぱり困っていたのだろう。ありがとうございますと言って、深々と礼をした。その顔には涙がにじんでいた。

「じゃあ、製鉄所に行く前に、腹いっぱい食べてくれ。」

と杉ちゃんに言われて、彼女はカレーを口にした。そして、

「おいしい!」

とにこやかに笑って言った。

犬養が食べ終わると、杉ちゃんたちは、急いで製鉄所に行く支度をした。再びタクシーを呼び出し、犬養を乗せて、製鉄所へ向かっていく。

そのころ、その製鉄所では。有希と五郎さんが、水穂さんの世話をしていた。

「ほら、食べて。今日は朝から何も食べてないでしょう。昼も食べないし、おやつも食べない。それでは、本当にからだがよわって、何もできなくなっちゃうわよ。」

有希がおかゆを食べさせようと躍起になっているのであるが、水穂さんはおかゆの入ったおさじをもっていっても、食べないのだった。

「い、いったい、ど、うし、て、食べない、んですか。食べ、ない、と、栄養が。」

五郎さんもそういうことを言って、水穂さんを励ますが、どうしても食べようとしないのである。

「じゃあ、な、んで、食べないか、言って、く、れ、ます、か?」

五郎さんがやっとの思いでそう聞くと、水穂さんは

「食べる気がしなくて。」

とだけ言った。

「それじゃあだめよ。水穂さん、食べないと、食べないと、、、。」

有希は、そういうが、その次の語句は怖くて言えなかった。そんなことは、有希は、いうことができない。そういうことが、もし、本当に起こってしまったら、有希は悲しくて仕方ないからだ。

「身罷る、という、ことです、か。」

五郎さんが、そういことを言うので、有希は全身に震えが走ってしまう。

「とにかく食べて!」

と、有希は言うが、水穂さんはやはり食べようとしなかった。ちょうどその時、ゴロゴロとタイヤの音が聞こえてきて、タクシーが一台、製鉄所の玄関前で止まった。

「それじゃあ、ありがとうございました。それでは、帰りもよろしくお願いします。」

と、杉ちゃんがでかい声で言って、タクシーを降りた。タクシーの中には杉ちゃんと、犬養だけが乗っている。蘭は、施術の予約があって、いけないということだったが、実際には、嫌っているジョチさんに会いたくないというのが、一番の理由だった。

「おーい、いるかい。新しい利用者を連れてきたぜ。」

と杉ちゃんは、犬養恵を製鉄所の中に入らせる。有希は、応答するために、玄関先にいった。

「はいはい、新しい利用者さんね。」

玄関先には、杉ちゃんと犬養がいる。有希は、犬養に初めて会ったが、ずいぶん美しい人だと思った。誰でも一度は目を引くような、そんな顔をしている。なんでこんなに、きれいな顔をしている人がやってくるんだろう。一寸いやな気がした。嫉妬だった。

「あたしたち、今、水穂さんの世話をしているんです。あいにくですが、理事長さんは、用事で出かけていて。」

有希はとりあえずそういうことを言ってみる。

「そうか。水穂さんの世話をしているのは、お前さんだけ?」

と杉ちゃんが聞くと、有希は、

「いえ、五郎さんも一緒よ。」

とだけ言った。

「なかなか、食事をしてくれなくて、困っているの。なんでも食べる気がしないと言って、あさから何も食べてないし、おやつも食べてない。」

「そうか。其れなら、一寸、こいつにも手伝わせてやってくれ。人では多ければ多いほどいいんだ。こいつも、長らく竜宮城にいて、玉手箱のせいで、ずいぶん老け込んでしまっているので。」

杉ちゃんは犬養のことをそういう風に紹介したが、有希は犬養がどこにいたのか、すぐ理解できた。自分も短期だけど竜宮城にいたことはあった。竜宮城は、確かに居心地はいいのかもしれないが、やっぱり竜宮城は竜宮城であるし、そこから帰れば浦島太郎と同様、世の中の代わりぶりにびっくりする。有希は短期だけ滞在したが、試験外泊のようなものをして、竜宮城から出た後の、ボケをふさぐ対策をとっていたりしていた。大体の竜宮城はそういうふうに、工夫がされていたが、中には本当に病人を収容して、何十年もそこへ閉じ込めたままで平気でいるという竜宮城もあるのである。しかし、犬養は、杉ちゃんの言う通り、玉手箱のせいで、老け込んでいるという様子には見えなかった。其れなりに美しい容姿をしていたのである。杉ちゃんはそう説明すると、用事があると言って、犬養を残して帰っていった。

「良いわ、とにかく入って。」

と、有希は彼女を部屋の中に入らせた。そして、

「とりあえず、今食事してるから、手伝って。」

と、彼女を四畳半に連れていく。四畳半では、五郎さんが、引き続き水穂さんに食べものをたべさせようとしていたが、水穂さんは何も食べようとしないのである。

「どうしても食べないの?」

有希が言うと、五郎さんは黙って頷いた。水穂さんは、何度かせき込んで、五郎さんに口元を拭いてもらっていた。犬養は、それを見てどうしたらいいのかわからないという顔をしている。有希は、

「あなた、介護した経験は?」

と冷たく犬養に聞いた。

「いえ、ありません。」

と犬養は静かに答える。有希はそれでは、彼女に勝ったという顔をして、

「じゃあ、とにかく、水穂さんの体をさすってやってよ。」

と指示を出した。犬養は、何をしたらいいのかわからないらしく、ただ、枕もとに座っているだけであった。五郎さんが、

「ま、あ、はじめ、て、ですから、そんな、感じ、だと、おもいます、よ。」

と言ってくれたのがよかったようなものである。有希は、黙って、水穂さんの背中をさすったりたたいたりして、内容物を吐き出させてやる。その中身がなんであるのかを見て、犬養はさらに怖いというか、驚いた顔をする。

「今時、、、。」

と思わず犬養がつぶやくと、

「いいえ、其れとは違うわよ!昔の映画などと一緒にしないで!」

と有希はきつい声で言った。なぜかそういう風に怒りの気持ちがわいてしまうのであった。それはいけないことかもしれないけれど、そうなってしまうのだった。なぜか、この犬養に、五郎さんをとられてしまうのではないかという不安が、有希の頭の中をよぎるのだった。この浦島太郎みたいな女性が、なぜか憎たらしかった。もし良ければ、浦島太郎のように、玉手箱を使ってさらに、老け込んでほしかった。

「有希さ、ん。何も、怒る、必、要はありません。こちら、の、方は、これから、覚えてくれれば、いいですから。」

と、五郎さんが言っているのが、一寸いやだった。其れと同時に水穂さんがこれまで以上にせき込み始めた。有希は急いで、タンスの中にしまってあった。痰取り機を準備した。これをするには一寸躊躇することもあるけれど、こうしないわけにはいかないのだった。有希は、急いで、チューブを水穂さんの口に入れて、電源を入れようとするが、痰取り機が作動しない。なんで、と思ったが、どうしても痰取り機は作動しなかった。

「これ、電源コードが入ってませんよ。」

犬養が、急いで痰取り機の電源コードを引っ張って、プラグを穴に入れた。もう一度スイッチを入れると、鈍いモーター音がして、チューブを血液が上がってくる。

「どうもありがとう。」

有希はそれだけ言った。何とかそれだけは言えるような気がした。でも、この人は、五郎さんをとってしまうのではないかという不安を拭い去ることはなぜかできなかった。

「ごめんなさい。私、何の役にも立たなくて。」

痰取り機のモーター音が止まると、犬養がそういって、静かに頭を下げる。

「い、いいん、ですよ。これから、覚えておけばいいんですから。それにしても、有希さんと同じ、障害、を持った方、なのに、なんで敵同士、み、たいに、なっちゃうんですか。」

と、五郎さんがそういう言葉を返した。有希は、答えが出なかった。


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浦島太郎のような 増田朋美 @masubuchi4996

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