第31話 ハッカーと政治。
「現政権の解体を行った。次の首相はどうするつもりですか。鳴瀬颯真」
「これまで通りではいかないだろう。そこでアメリナのスピナ大統領と、ジオパンクの笹原総理にご助力を願っているしだいです」
初対面すると、俺は
俺は政治家ではないが、その代理として存在している。
生まれからなのか、ジオパンクの笹原総理。その側近でもある
まさかの側近で俺も驚いているが、政治に詳しいんだろうか?
とにもかくにも専門家がくるということでひと安心している。
「市民が動揺している。こちらからも働きかけないと」
あまりにも一方的に戦争が終わり、市民の中では動揺と悲しみがにじんでいる。
そんなに大きな変化は迎えないというのに。
現政権を解体したが、一時的に植民地になり、やがて解放される。以前のジオパンクがアメリナに占領された時と同じように。
個人で戦争を行ったのは俺くらいで、世界中を
とはいえ、すぐに切り替えるのは難しく、各国は悩ましく頭を抱えている。
早坂夕芽が宙名の飛行機から降りる。その後ろには笹原総理もみえる。笹原総理に関しては表敬訪問としての意味合いが強い。個人が戦争に勝ったのは例外すぎる。人類史上においてもありえないことだ。
解体した政権である
そんなとき、春海からスマホに連絡が届く。
「なんだ? この忙しいときに……」
「落ち着いて、きい、……て……」
宙名のネットワークが悪いのか、断続的にしか声は聞こえない。
ぶつりと回線が途絶える。
「なんだったんだ。いったい……」
「どうしたんだ? 鳴瀬くん」
「なんでもない。それよりも議会に提出する書類はどうなっている?」
「それならこちらにまとめてます。ご覧になりますか?」
粛々と降伏文書とその受諾のための議会の準備が進んでいる。だが、先ほどの電話、気になる。
後ろ髪を引かれる思いで、会議へと向かう。
※※※
「ダメだ。連絡がとれない……」
「姉ちゃん。どうする?」
「颯真が参加できない以上、私たちでなんとかしないといけないわね」
大輔が逼迫した想いを抱き、斗真が春海に問う。
そこには困惑の色が強く残っている。
「颯真は新しい時代の、元首になっているからなー」
「私がNBCのネットワークに潜り込むわ」
「そんな。危険だよ、姉さん」
斗真と春海が会話をしている間、大輔は悲しげにたたずむ。
「おれには美柑しかいないんだ。父と母はもう死んでいる。あいつは幸せにならなくちゃいけなんだ」
「……分かったわ。そこまでの思い無駄にはできないもの。それにこのまま勝ったなんて、味家ない。直接対決していないもの」
春海はパソコンに向き合うと、アメリナの監視カメラにハッキングを試みる。
「でも、姉さん」
それでも斗真は反対するらしい。
「あの子――美柑さんを放っておくわけにはいかないでしょ?」
「それは……そうだけど。オレにとっても大切な友達だし……」
口ごもる斗真。
美柑よりも春海の心配してくれる斗真が、姉にとっては愛おしいとは思うものの、これは一人の少女の命がかかっているのだ。と鼓舞し、データの海に飛び込む。
最新のAIを駆使し画像認証にかける。そうすると美柑の顔に比較的近しい顔がピックアップされていく。その中でも一致率が高いものを検出。モニターに表示させていく。
と。モニターに爆弾のモーションとエフェクトが表示される。
『なんだ? 鳴瀬颯真のパソコンではないのか?』
送られてくる女の音声に、動揺が広がる。
「鳴瀬颯真の知り合いよ。そっちは誰かしら?」
『マジ? あいつ、いないの?』
「ええ。今は宙名の政治で忙しいわ」
『やっぱりそうじゃないか』
男の声がする。少年のような声にどよめきが大きくなる。
「そっちは誰かしら? 颯真の知り合い?」
『知り合いと言えば知り合い。アタシたちはウルフとケルベロス』
「なっ!? そんな有名人がなんで颯真のパソコンに用事があるのよ」
「有名なのか?」
斗真の疑問も当たり前だ。有名といっても裏社会で、といったうたい文句がつく。
だがハッキングのレベルは群を抜いて高い。世界で一弐を争うレベルだ。
しかも、ハウンドの
そんな彼女らが颯真に何の用があるのか?
『アタシたちは人質をとっている、颯真の身柄と引き渡してくれ』
「そんなの無理でしょ。私たちに何の得があるのよ」
『美柑、ちゃんだけ? この子』
パソコンの映像には猿ぐつわと目隠しをされている美柑が映る。
「美柑!」
その痛ましい姿に悲鳴を上げる大輔。
『あら? そっちのおじさまは知っているみたいだけど?』
「うふふ。私にとって天敵だったのよ。目狐だからね。いなくなってくれれば颯真を独り占めできる」
『ふーん。そう言えちゃうんだ?』
「おい。一ノ瀬、どういうつもりだ?」
「斗真」
「はいよ」
冷静さを失った大輔を引き剥がす斗真。廊下まで追いやると私は会話を続ける。
「私にとってデメリットはなくなったわけだけど、彼女を殺してもたいした被害はないわよ?」
どうする? と問う。
『ふふ。面白いわね。さすがルプスといったところかしら? 確かにあなたには影響がない。でも――』
その顔には確信に満ちた生気であふれている。
『――鳴瀬颯真は、ハウンドはどう思うのかしら?』
「そんなの決まっているじゃない。私を選ぶわ」
『へぇ~自信家なのね。それとも自己陶酔者なのかしら』
皮肉を言っているのは分かる。けどこれは心理戦なのだ。どちらかが負けたら、美柑の命はない。
「あなたには鳴瀬颯真を止めることはできないわ。美柑さんにも、ね」
『それができるのはあなた、一ノ瀬春海さんだけ、と?』
無言で微笑む春海。
『ふーん。なるほどね。そういった関係か。切るわよケルベロス』
『あいよ』
そう言って途切れるネットワーク。
ふぅーっと漏れるため息。
「緊張した~」
「姉さん、終わったかい?」
「ええ。終わったわ」
「美柑はどうなるんだ?」
落ち着きを取り戻した大輔が訊ねてくる。
「大丈夫。すぐには殺さないわ。でも、その代わりに奴らのパソコンにハッキングしないと」
「間に合うのか?」
「颯真があいつらと連絡をとれる状況になったら怪しいわね。本当に殺しちゃうかも」
「なぜ?」
「颯真に絶望を与えるためよ。彼女らはそれだけ美柑の命を重くみているわ」
キーボードを叩く音が止まる。
「このままじゃ、終われないわ」
「おれに手伝えることはあるか?」
大輔は春海に問う。その後ろで困ったように立ち尽くす斗真がいた。
「じゃあ、こっちのパソコンで画像認証をお願い」
「分かった。美柑のためだ」
美柑に負い目のある大輔はいっそうやる気を出してパソコンに向き合う。
「斗真は颯真のもとに向かって」
「オレに何ができる?」
「あなたは筋力に自信があるじゃない。それを活かせるのは颯真だけよ」
「なるほどな。確かに、ここで腐っているよりもいいかもな」
宙名行きの航空チケットをとると、斗真のメールに転送する。
「美柑の件、オレから伝えてもいいのか?」
「ええ。そのつもりよ。それに、こちらからスマホにも送っておくわ」
「了解」
そう言い終えて、斗真はアメリナの部屋を後にする。
その晩、ジョンと恵那が国外へ逃亡した、との連絡が入った。
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