第30話 ハッカーと最後通告。
「俺は個人の意思で、宙名に宣戦布告をする。まずはNBCの解散を要求する!」
俺はそう告げると宙名の国会は混乱なのか、相当慌てている。
モニターの端に見慣れた顔が映る。
「やってくれたね。このアメリナは大混乱だよ」
スピナ大統領は沈痛な面持ちで呟く。もちろんヒューズの翻訳あってのことだが。
「それでどうするつもりなのかね?」
「俺はここを出ていきますよ。あとは追わないでくださいね」
「何をする気だ?」
「この通信も傍受されている可能性があります。通信終わり」
無理やり回線を切ると、スマホ片手に家をあとにする。
「ヒューズさんもここにいると危ないですよ」
「分かったネ。ミーも出ていくヨ」
スマホのラインに斗真からの連絡が届く。
「春海ねえは無事か。良かった」
安堵の吐息をもらすと、俺は呼んでおいた自動運転車に乗り込む。
行き先はアメリナ国際空港。そこから旅立ち、宙名に向かう。
宙名の国会は混乱の一途をたどっている。それはどこの国でも同じで、ニュースは連日のように俺の宣戦布告を報道していた。アメリナの国会も対応におおわれている。
俺は宙名の国際空港に着くと、近くの宿屋に向かう。予約をとってあったホテルに入ると、椅子に身体を預ける。
「よし。明日から本気だす」
そう呟き、ベッドに倒れこむ。
疲れたので眠る。それは本能的な行動だ。
そう思いながら就寝する。
朝起きると、俺はさっそく持ってきたスマホを開く。ホテルの近くにあるネットカフェに向かう。
パソコンがあればどこでも良かった。どうせ俺の居場所はバレていない。あのアメリナに設定されている。そのからくりに気がつくのはいつか。
明日にはバレてしまうかもしれない。それまでに宙名の兵器にハッキングをしなければならない。
ドアを開ける音が響く。
「待たせたな。
「ホントっすよ。なんで私だけ呼ばれたんですか?」
「漏洩したデータの中に、キミは入っていなかった。つまりは誰にもマークされていない証拠だ」
「なるほどっす。それで隠れて行動のできる私を呼んだわけっすね」
「ああ」
鷹揚に頷くと、俺は振り返ってみると、佐倉捜査官は困ったように顔をしかめる。
「まずは宙名の
「よくご存じで」
「それも宙名にホームステイ・滞在していた期間があるな」
「そこまでご存じなら私を呼んだのも納得っす」
『やってくれたね。国会は大騒ぎだよ』
「そうでしょうね。一発目の攻撃は届きましたか?」
衛星兵器であるミサイル衛星から一発だけNBCに向けて発射したのだ。
NBC。
それは宙名から独立を叫ぶ、自らを独立国家として機能していると叫んでいるのだ。
そんなNBCに向けて放たれた一発のミサイル。特にNBCにある施設を狙った攻撃に宙名は混乱状態に陥った。
『まさか、本当に掌握しているとはな……』
「これでおわかり頂けたでしょうか。こちらは徹底抗戦の用意がある」
『貴様ひとりに核を使うのもおかしな話――つまり、貴様を狙うなら特殊部隊でも送りたいものだ……』
苦々しい顔で呟く
宙名のミサイル衛星が本国を攻撃するのも時間の問題だ。となれば、早急に停戦同盟を結ぶべきなのはハッキリしている。
そのための回線を開いたのだ。
「降伏してください。これ以上の攻撃は無意味です」
『……宙名のプライドを甘くみているな』
「そちらの都合だけで戦争を継続するつもりですか?」
『市民感情は戦争に向けて動いている。それも、ハウンド。いや
「それが不可能なら逆に叩き潰すことになりますよ」
『貴様は本気で言っているのか?』
パソコンで少し操作をする。
画面越しの
『なにをした?』
しばらく経った
「なに。各地にある兵器をちょっとばかり動かしただけですよ」
ドローン。戦闘機。潜水艦。戦車。武装ヘリ。ミサイル。すべてをネットワークにつなぎ、遠くから操作できるホットラインすらも掌握している俺には無駄な話だ。
『貴様に抵抗するのは無意味と?』
「その通りです」
『だが国民は納得しない』
「でしょうね。怖いんだったら逃げ出してください。国民を焼きます」
『その国民を守るのが私たち政治家だ』
臆することなく告げる
「その敬意に祝福する」
俺はパソコンを操作し、核兵器以外のすべての兵器を起動させる。
「なるべく市民は傷付けないように……となれば軍事施設か」
各地、軍事施設にあるミサイルを自動爆破させる。
戦車や戦闘機、潜水艦は自動的に互いをつぶし合う。
宙名の国民からしてみれば地獄絵図だろう。
軍事施設の周りには民家もある。祖国を守るため、家族を守るため、軍人になった人も大勢いるだろう。そんな彼ら、彼女らを焼くことにになるがしかたない。
これもバカな市民に見せつける必要がある。戦争を忘れた人々にもう一度、戦争の恐怖を植え付ける必要がある。そのための犠牲、というわりには悲惨な光景だ。
パソコンを操作する手が震えている。
今のご時世、俺は希代の殺人者だ。被害にあった軍人は撃たれる覚悟があると信じたい。
まあ、
『分かった。もういい。降伏する』
諦めと怒りをない交ぜにしたようような顔を見せる
「分かった。降伏を認めよう。最後通告だ。現政権の解体、武装解除・解体を要求する」
なぜ宙名に潜伏したのかというと、ウルフ・ケルベロスにバレないようにするためだ。
そんな彼女らは今頃どうしているのだろう。
※※※
「まったく、どうなっているのか」
驚きの声を上げる恵那。
「このまま宙名が解体される、なんてことないよな? きっと」
「それよりヤバいかも。ハウンドが首相になってこのNBCにも影響を与えるかも……」
それは恵那とジョンにとって最悪なこと。
「せっかく捕らえた
ジョンが怪訝な顔で訊ねる。
「奴らの中でもっともひ弱な奴をとらえたのに、これでは、な」
ジョンは苦々しいものを吐き出すように呟く。
「アタシは大久保を囮に、ハウンドを叩き潰す。ハッカーに政治ができないわ」
「それもそうか。でももしかしたら……というのもあるのでは?」
「……その前にこのNBCを立て直す必要があるのかも」
宙名の敗北宣言にNBCの市民がまず間違いなく声を上げるに決まっている。
「一般のマスコミに知られるまでの時間は?」
「宙名は共和国性だから、それなりにかかるかと」
「それなりじゃ困る。何日ある?」
「二日、いや一日はかかると思うが」
ジョンが険しい顔で答える。
「よし、それまでにこちらも準備を整える」
「準備って?」
「それはハウンドを葬る方法と、NBCの軍事力を持って制圧する」
「でも、ハウンドにハッキングされるのでは?」
「だから今からすべてを独立端末に切り替える。その手伝いだよ」
「それができたら苦労はしないだろ……」
「ふふーん。アタシにはまだ使っていない手があるのだよ。ワトソンくん」
誰がワトソンだ、と呟くジョン。
「なに。大久保がこちらにいる限り、あいつに手出しはできないさ」
自信満々の顔で宣言する恵那。だが不安が拭いきれないジョンが、ため息を吐く。
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