第29話 ハッカーとニュース。
回線を切ったあと、俺は宙名の
彼女らも政府関係者のデータを持っていたのだ。恐らく自衛のためだろう。
しかし、これから春海を救うにはどうしたらいいか。
考えはある。
だが効果的に使うには、まだ早い。
「どう? おいしい」
「ああ。うまいな」
美柑が作ったハンバーグにかじりつく。俺の好みを知っている彼女の頬は少し赤い。
「斗真はどこにいるかな。斗真の分も作ってやったのに」
「こら、女の子がそんな言い方するもんじゃない」
「ご、ごめん。でも……」
「あいつなら外にでていったぞ」
「うん。分かった」
美柑が外に向かって走り出す。
ヒューズと大輔は未だに時間を粘っている。
「分かった。宣戦布告するのは三日後にしよう。まあ、その前に宙名が戦争をしそうだが?」
憎たらしく笑うジオパンクの笹原総理。
「そうか、三日後に決意する。だが、我々は自衛権を行使することになるだろう」
と悲しげに微笑むスピナ大統領。
「それだけ引き延ばせれば
俺はそう告げると、パソコン前に向き合う。
「どうだ? 姉さんは取り返せるか?」
「ああ。お前は一度、宙名の国際空港に向かってもらう」
「オレが、か?」
「ああ。お前以外に適任者がいない。春海ねえを救うのはやっぱり家族であるお前だけだ」
「何を言っているんだ。颯真も家族のひとりだろ」
「! ……そうか。そう言ってもらえるとありがたいが」
颯真に家族はいない。少なくとも彼はそう思っていた。だから、そんな言い方をすれば颯真が揺れるのは斗真も知っている。
「まあ、家族を救いに行ってくるよ」
「……? 美柑はどうした?」
「は? 何のことだ?」
「いや、斗真を探しに出ていったのだが……?」
「オレはあってないぞ」
「マジか」
「マジだ」
俺は慌ててスマホを開く。そして美柑と連絡をとる。
数回のコールで美柑が出た。
『もしもし。颯真? ちょっと用事ができたから待っていて』
「それはいいが、どこにいる? 大輔を迎えにいかせようか?」
『大丈夫。今からそっちに向かうから』
「そうか、ならいいんだ」
他でもない本人がそう言っているのだ。間違いなんてないだろう。
「ただいま」
そう言って帰ってきた美柑の顔が、青ざめているのには気がつかなかった。
「「お帰り」」
俺と大輔はその姿に安堵する。
「だが、ここに残るのは俺だけでいい」
そう言い、斗真、美柑、大輔、ヒューズを自宅へ帰す。
夜まで時間を潰すと、宙名の国会が写しだされる。
「これよりテロ行為を行っていたジオパンクの国民を軍事裁判にかける」
《罪状は明らかにされていませんが、これが本当なら宙名の国民感情に火がつくのはまず間違いないです》
アナウンサーが必死の声で状況を説明する。
「軍事裁判にかかるのは、ネットでルプスと恐れられた伝説的なハッカーです。彼女はこちらのミサイル衛星をハッキングし、落としたのです」
「罪状は明らか。これより判決を下す――」
そのタイミングで俺は通常回線を開き、宙名の国会を支配する。そこにあるすべてのパソコンにアクセスしたのだ。
「そいつは俺の言うことを聞いていたにすぎない。そんな奴を殺してなんになる?」
「誰だ?」
宙名のトップ・
「分からないのか? ミサイル衛星にアクセスしたのは俺だ。今からその標的を変えることだってできるぞ」
誰でも分かるような脅し文句にうろたえる
宙名の
「何をした!?」
「ハッキングですが」
何か問題でも? と言ったニュアンスで言う。
「そんなバカな……!」
《大変なことになりました。ハッカーと明かしたのは見ず知らずの少年です》
アナウンサーが告げるなか、俺は自分のハッカーとしての経歴と写真をネットにあげたのだ。
「全ての責任を背負うつもりか? 颯真」
大輔の声を無視し、俺は国会に音声を流し続ける。
「これで分かったでしょう。俺は〝ハウンド〟。そこにいる女はただの下っ端です。処刑するのなら、俺を殺してみせろ!」
自動運転車はうなりをあげて、国会の中央まで走り込む。何人か、逃げ出していたので怪我はないだろう。
「これで分かっただろ? 俺がハウンドだ。この宙名を
自動運転車を操作し、春海のもとに向かう。
「ひぃ」と悲鳴をあげ、春海のそばにいた軍人が一歩下がる。車には機関銃が搭載されいたのだ。それを撃ちながら近づけば、軍人でも引き下がるしかない。
春海の前につけると、後部座席をあける。
「ルプス、乗れ」
無言のまま、車に乗る春海。
そしてそのまま国会を後にする。
「分かったろう? これは〝ハウンド〟からの挑戦状だ。俺はアメリナにいる。だが、攻撃はするな。繰り返す。攻撃はするな」
「何を寝言を!」
そう叫んだ議員に向けて機銃を放つ。その議員は慌てて逃げる。
威嚇射撃だったが、下手に動き回るので、外すのが難しい。
※※※
「やってくれたね。アタシらウルフとケルベロスを助けるんじゃなかったの?」
「ああ。それについては僕も同意だ。なぜわざわざ騒動を起こすのかな。なにか狙いがあるのだろうか?」
ポッキーをかじり、パソコンに向き合うケルベロス――いやジョン。
「今回の中継はいったん切れるみたいね。それでも国会にある防犯カメラで追えるけども」
「そうだね。これからは僕たちの出番だよ」
パソコンを動かし、ハウンドがハッキング・クラッキングをした車に介入する。……が、
「プロテクトが硬いな。それに暗号パルスもおかしな値を示している。どうなっているんだ?」
嘆くジョンに薄目になる恵那。
「そうね。こっちのプロテクトは楽勝なのに」
「それ、危なくないか?」
「え。あ! これは囮!?」
ハウンドの持っていたパソコンにすんなりと入れると思ったら、攻撃プログラム――コンピュータウイルスが感染させてあったのだ。それもルプスの使用していたプログラムだ。
これじゃまるで本当にルプスはハウンドの命令で動いていたことになる。
すべてが〝ハウンド〟の劣化。なら、似た手口を行う〝ルプス〟は本当に手下でしかないのだろうか。
その疑問が生まれただけでも、ルプスに焦点が当たらなくなる。それをも計算しているのか? いや、考えすぎか。
恵那は考えをまとめると、新しいパソコンを用意する。OSまで破壊されたパソコンはただの鉄くずだ。
「なにがどうなっているんだか……」
「あいつの手下が国際空港についたらしい。どうする?」
「あいつらの鼻の穴を空かす。軍隊を派遣する」
恵那はニヤリと怪しげに微笑む。
「
「本気か? ニュースを見ろ」
「なに?」「いいから」
恵那はパソコンを起動させている間にTVを見る。
《これはどういうことでしょうか? 支援者と思われる者が国際空港に向かっております。これが宙名の仕組んだことなら、拉致をしていたということでしょうか?》
背景が代わり、ジオパンクの国会が映る。
《ジオパンクの市民は怒りで国会議事堂に詰めかけています。すさまじいデモに、歩くのがやっとです》
国民の怒りを買った。
春海という少女が無実の罪をきせられて、怒りを覚えたジオパンクの国民がデモを行っているのだ。
それに加えて《アメリナにいるハウンドを捕まえろ! それですべて解決する》
そう。今の俺はひとりで宙名に宣戦布告をしたようなものだ。
アメリナ・ジオパンクが宣戦布告をするのなら、俺が先にすればいいのだ。
「俺は個人の意思で、宙名に宣戦布告をする。まずはNBCの解散を要求する!」
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