第25話 ハッカーと対面。
俺がアメリナに引っ越して一ヶ月が経とうとしている。
アメリナについて、最初の仕事はTTTの壊滅。徐々にTTTの求心力は落ち、今では煙すら立たないほど、縮小していた。それは奇しくもジオパンクにもいい影響を与えていた。ジオパンク国内にいたTTTの下っ端が捕まったのだ。
それまでは島国のジオパンクはどこか閉鎖的だった。だが、今回のハッカー騒動で表沙汰になった。氷山の一角かもしれないが、それまで顔を見せてこなかった裏社会の住民が表にでたのだ。
ハッカー仲間からは死んだことにされている俺。唯一ルプスだけが生きていると知るが、未だに連絡の一つもよこさない。
春海はどうしているのか。そう思っても、こちらから探るわけにはいかない。生きていることがバレてしまう。
『すばらしい。今月の死亡率が2.3%減少した。これはテロ行為の抑圧という形で成功している』
「お役に立ててなによりです」
言葉は通じないが、ヒューズが翻訳してくれている。女性だから、黒人だからと差別することなく、彼女は俺とスピナ大統領の橋渡しをしてくれる。これも時代の流れか。でもまだ温暖化や人口爆発などの問題は解決できていない。氷河が一割現象した。南極大陸の氷が二割減少した。確実にむしばんでいる温暖化になす術もない。
その影響で海岸線の海面が2%ほど上昇し、世界各地で高波の影響を受けている。
世界のいざこざよりもそっちを優先してほしいと思うのは俺だけだろうか?
とにもかくにも大統領に言えるチャンスなど、今しかないのだ。
「温暖化についてはどうするのですか?」
『それを考えるのは私の世代ではないよ。それよりもキミには次の指令に付き合ってもらう』
「どういうことですか?」
世代ではない、なんと無責任な答えか。
『宙名の動向を探ってほしい。できれば無力化したいのだが』
「分かりました。宙名なら、俺が止めてみせますよ」
アメリナよりのジオパンクにも良い影響を与えるだろう。
『期待しているよ』
それを終わりの言葉にし、大統領との通信が終わる。
「それでどうするネ」
「これからは派手に動けないからな。まずは宙名のSNSから探ってみるか」
一般ユーザーが使用するSNSをたぐり寄せて、どんな傾向にあるのかを分析する。その中には〝戦争〟の二文字が存在する。
戦争をし、相手の領土を奪い、人口を減らすことで温暖化や食糧問題、人口爆発を叶えようとしている。つまり、人がいなくなれば、これらの問題は解決できてしまえるのだ。
だからこそ、排他的な考えがまかり通ってしまう。
宙名のデータを調べること、二日。全体の動きは把握できたが、宙名のトップは戦争など考えてもいないのが
「うーん。どうしたものか……」
俺はコーヒーをすすり、伸びをする。
「どうしたのですカ?」
「い、いや。なんでもない」
相談できる相手がいない。こうしたときには春海にでも相談したいものだが。
身近に相談相手がいないというのは、大変困る。
このまま、宙名の武装を乗っ取るのが良いか。だが、そんなことをすれば大規模なハッキングになる。俺が生きていることがバレるかもしれない。
生きているのがバレれば、またもや命を狙われるかもしれない。
「それもやむなしか……。分かった。宙名を独占する」
俺は宙名の支配している武器・武装に次々とハッキングし、特殊なウイルスを流しこむ。
暗号化されたパスワードを解析し、パスワードを入力。あるいは機械言語化された言葉を分析・再構築することでハッキングを可能としている。
こんな方法をとるのは俺と春海くらいなものだ。普通じゃできない。
「しかし、データ量が大きいな。どうなっているんだ?」
ハッキングをしている武器のデータがやたらと重い。手短にあるデータを解析、読み解くと、ウルフとルプスからデータの断片を探られていることに気づく。
「マズいな……」
「どうしたんですカ?」
「俺が生きていることがバレるかもしれない」
「それはマズいですネ。対策はありますカ?」
「ハウンドの名前を捨ているから、ある程度は消せているが、どうしてもクセが出てしまう」
「クセ?」
「ああ。ハッキングの順番や言葉選びで特定の人を探し出せる」
「それってまずいのではないですカ」
「ああ。だからマズいって……」
ピーッと電子音が鳴り響き、俺のデータに忍び込んだ者がモニター越しに現れる。
※※※
「やった! 動いた!」
「やはり生きていたのか。ハウンド……」
ジョンが確信めいたことを言っているが、そんな余裕は恵那にない。
回線をたどってみると、ハウンドの居場所が分かる。アメリナのホテル。それもVIP待遇を受けている、と。
そのモニターにカメラ越しの恵那を写す。
「!? なにをやっているんだ?」
慌ててジョンが立ち上がるが、もう遅い。
「やっほー。元気? アタシはウルフだよ」
『知っている。どうやって嗅ぎつけた?』
「あはは。面白いね! でも簡単だよ。機械言語から直接読み取るんだから」
『読み取る? 情報特化のナノマシンでもなければできないだろ』
「え。アタシできるけど?」
『まさか。冗談も休み休み言え』
「なんで信じてくれないのかな? アタシも、ケルベロスも同じようにやっているって」
『! ちょっと待っていろ』
「はい。待ちまーす!」
「こっちの情報を与えてどうする。ウルフ」
「え。いいじゃん、このくらい」
『……あんたら宙名のNBCに所属しているんだな。なるほど。合点がいった』
「え。なになに?」
こちらに興味を持ってくれたのが嬉しいのか、ハイテンションになる恵那。
『あんたら改造人間だろ。それも情報系のナノマシンを投与されている。危険な代物だ。よく身体が持つな』
ナノマシン。
それは科学の結晶とも言うべき発明品だ。電気的な信号を直接的に解釈し、読み取れるようになる。だが同時に大きなリスクを伴う。本来ならその情報量に負けて脳が焼き切れるのだ。いつオーバーヒートしてもおかしくない。
それに中毒性があり、切らすと禁断症状がでる。数十年も生きるなど、前代未聞なケースなのだ。
「なになに。アタシたちのすごさに気がついた? もう一度殺してあげるわ」
「バカ、どうやってするんだよ」
ケルベロスが思わず口にする。
『なるほど。そこにいるのはケルベロスか。恵那よりも理知的なんだな、ジョン・ダウナー』
「こいつ、僕の名前までも!」
よくも読み取ったな! と憤慨するジョン。
『あんたらの事情は分かった。俺がその施設を破壊する。だがお前たちが助かるかは保証できないぞ』
「あはは! なにそれ、宣戦布告のつもり?」
『ああ。そのつもりだ。これより宙名NBCの敗北が終わるまで戦いぬく!』
「なにそれ、笑えないわ。こっちの言い分も分からないくせに! こっちだってあんたに邪魔されて迷惑しているんだから!」
「落ち着け」
きーっと向きになっている恵那をたしなめるジョン。
「キミは僕たちをどうしたいのさ?」
『できれば生かして捕まえたいが、それが無理なら……殺す!』
殺す。その言葉の重さを知っているものの言葉だ。恐らく両親や親族を亡くしているのだろう。その目つきから、真剣さがうかがえる。
「それ冗談で言っているなら最悪だわ。本気ならもっと最悪だけど」
『悪いが冗談ではない』
「僕もそう思う」
「! あんたまで?」
「そうだ。こいつは本気で言っている」
「それがなんで分かるの?」
「声のトーンと表情だ」
「……そっか。だからアタシはパソコンが好きなんだ」
なにかを思い浮かべるようにうわごとを言う恵那。
その言葉の意味を知るは恵那しかいない。彼女は対面でのコミュニケーションが苦手だったのだ。その代わりにパソコンでの、間接的なコミュニケーションが得意だったのだ。だからパソコンが好きなのだ。
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