第16話 ハッカーと捜索隊。
「資金もそうだけど……。どうしたら落ち着くかしら?」
今回のアメリナの軍事介入、それに人権の放棄。これらの問題を解決するには、おおもとであるアメリナに対しても、何か手立てを考えなくてはいけない。
「そうだな。まずはアメリナに対しても有益なことを示すか」
「どうやって……?」
「俺がTTTの情報を提供する。スピナ大統領とて、目の上のこぶだろうからな」
「なるほど。確かにテロリストの中でもダントツな組織だもんね。オッケー。了解よ」
俺の発言に嫌な顔せず付き合ってくれるのはありがたい限りだ。美柑なら陰りを見せていたところだ。
しかし、こんなことをしていて、本当に大丈夫だろうか。いつまでもハッキングで稼いでいけるわけじゃない。
別の稼ぎを考えなくてはいけないのではないか。それこそプログラミングのように。
「この業界やめようかな……」
ガタッと立ち上がる春海。
「な、なんだよ。どうしたんだ?」
信じられないものをみた、と言いたげな顔をこちらに向ける春海。
「いや、だって。急に変なことを言うから」
「変か?」
「変よ。あなたはこれからもずっとハッキングをすればいいのよ」
「そう言われてもなー。俺、春海ねえから教わっていらい、ずっとパソコンをいじっているけど」
「そうよ。それでいいの」
斗真と一緒に幼い頃から一緒に遊んでくれたのは春海だ。春海は幼くしてパソコンの組み立てや、プログラミングの知識を得て、教えてくれた。そしてここまで来た。
政治とかはよく分からないし、春海のせいにするつもりもないが、今の生き方に息苦しさを覚えているのは事実だ。
もっと普通に高校生活を送るのが夢でもあったのだ。
※※※
セミの声を聞いて、また夜が明けたのを知る。
ここんところ、楽しいことがない。あの白熱するようなバトルができないのだ。アタシのライバル、ハウンドが息の根を潜めている。
あるとしたら、宙名の衛星兵器を止めたことくらいか。
その秘密を調査しているだけで、あまり目立った功績は挙げられていない。だが、組織からの体罰も減っている。
それは嬉しいのだが、何か嫌なことが起きているような気がする。恵那はそういった性格なのだ。普段から嫌な方向へと考えてしまうクセがある。
「あ~あ。逃しちゃったかな……」
「ふん。そんな奴ら放っておけばいいのさ」
「ダメよ。ハウンドとルプスは組織からの依頼なのよ。それでいいのよ」
「そうは言っても、ここんと息を潜めているじゃないか。このまま引退なのさ」
きっと、と付け加える男。
彼はジョン・ダウナー。恵那の同僚で、碧を基調とした衣服に身を包んでいる。パソコンの色も碧となっている。
「ボクの計算が正しければ、そろそろ引退だよ」
「どんな計算よ。アタシには分からないわ。それにこんなに楽しいこと、やめるわけないじゃない」
「ボクは一度も楽しいと感じたことはないけどな……。なんだか、キミもおかしいよ」
恵那と違い、ジョンはハッキングを楽しいと感じたことはない。彼にとって食事以外は楽しくないのだ。
今もボリボリとポッキーをかじりながらキーボードを叩いている。
「それ、やめない?」
「嫌だ。食べるのはボクの生きがいなんだ」
「なにそれ。アタシはそう思わないけどね」
ショッキングピンクのパソコンとキーボードを叩く恵那。キーボードもマウスも有線式を使っており、途中での電池切れを警戒していての仕様だ。
「それよりも宙名の衛星兵器の二番基が打ち上げられるそうね」
「あ~。それはやめておいた方がいいのに」
「なんで?」
「それこそ、ハッカーの狙い目でしょ。ボクらに乗っ取られて、終わりなのさ」
それもそうか、と納得する恵那。
「しかし、そうなるとハウンドとルプスが再び動きだすのかもしれないのさ。きっと」
「そうね。確かに!」
恵那は
勢いよくキーボードを叩き始める恵那。それに付き合うように叩き始めるジョン。
「しかし熱いねー」
「夏だからな。たぶん」
心配性なのか、ジョンは語尾に「たぶん」や「きっと」と言った曖昧な言葉を使いたがる。
※※※
七日前。
「いない」
「こっちにもいないの」
大輔と美柑が驚愕の顔でホテルの部屋を見わたす。
おれと美柑を巻いてまで逃げ出したのだ。
慌ててか、私服や私物を放っておいてある。
「おれが捕まえにいこうとした矢先にこれか……」
自分への叱責をやめない大輔。
笹原総理からの勅命でハウンド――颯真の身柄を確保するつもりだったが、その命を受ける間に逃がしてしまったのだ。
ちょうど美柑が買い物をしている間を狙っていたように感じた。
その証拠にこのホテルの監視カメラの一部がハッキングされた形跡が残っていた。データの一部が欠落していたが、それがハッキングの証拠らしい。
「マズいな……。早く捜索しなくては……」
ネヴァ=ヒューズからも重責を背負っている大輔。
彼がハウンドとの橋渡しとなっていたことにより、その責任は重い。
笹原総理からは、「絶対に見つけ出すように」と再三言われている。
「すぐに見つけなくては……」
「兄さんも大変だね」
久しぶりに口をきいた妹に感動を覚えつつも、おれはハウンドの行方を探る。
大勢の警官隊を総動員しても、捜索ができない。
オートパイロットを搭載した車を見つけたが、倉庫街で止まった記録しかでてこないのだ。
そこから先は行方不明。
近所にある監視カメラは全てハッキングされており、データが破損していた。恐らくは逃亡を手助けしたものがいる。それも、かなりの実力者だ。
となると、手助けしたものはルプスの可能性が高い。
裏の世界には多くの人間が関わっている。特に反社会的な組織が大きい。ハウンドまでいくと、周囲の人間は放っておけないのだろう。だから闇組織に拾われやすい。
このままでいくと、アメリナとジオパンク、両方から極刑にされる。
それが嫌なら、アメリナへの亡命を行わなくてはいけない。
笹原総理はハウンドの身柄を引き渡すのを決意したのだった。これが破られたら、笹原総理はテロとしてハウンドの身柄を拘束しなくてはならない。
そしてアメリナのスピナ大統領も同じくテロ行為とみなし、ハウンドを捕らえようとしている。
「しかし、あんな子どもが世界の行く末を決めるなんてな」
「わたしも思っていなかったの。でも、いい旦那さんになりそう。わたしもお金に困らなさそうだし……」
「おれには、お前の将来が心配になるが」
「心配? なんで?」
「いや、お金の心配ばかりだからな」
「? なんでなの? お金は大事だよ。裏切らないし」
「そりゃそうだが……」
美柑が生まれてから、二人の子どもを育てるために、お金を切り詰めていった結果、美柑のような子どもが生まれたのだ。
おれは一心に親の愛情を受けたので分かるが、美柑の境遇は冷たいものだった。
そんな美柑を可哀想に思うのはおれだけだろうか。
確かにお金は重要だ。なければ生活もできない。
そう言った意味では颯真を選ぶのは当然だ。彼は金に困ることはないだろう。政府からの支援か、あるいは反社会的な組織に優遇されるか。
でも、兄として美柑の考えは否定したい。もっと幸せな家庭が築けると思うのだが……。それをどうやって理解させるのか。頭の硬い妹にどう伝えればいいのか。
悩んでも、苦しんでも、答えなんて見えないのに、やっぱり悩んでしまう。
病気や怪我を負う時も相手を好きでいなければならない――というのが心情だ。
美柑の将来を案じる大輔だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます