第11話 ハッカーとTTT。
得意のハッキングで専門家会議を覗きみるが、最近はハッカーへの対策として書面でのやりとりか、独立端末での入力が増えているせいか、データはあまり届かない。
そんな時はテレビやラジオに集中するしかない。とはいえ報道陣のネットワークから盗みみる方が早いが。
報道陣のネットワークを漁ると、いくつかの文言が飛び交う。
《ハウンドは物として扱う》と。
こちらにとっても予想外だった。
本来、人権は放棄できないものとされている。だが、今回は法の解釈の違いにより、人権の放棄を可能としている。まるで俺を逃がさないためにしているように。
実際にそうなのだろう。
俺をジオパンクから逃がさないため、俺を閉じ込めておくため、今回の発言にそうよう解釈を曲げたのだ。
かなりの博打ではあるが、これ以上の人口流出は避けたいジオパンク。バブル時代に優秀な技術者やクリエイターたちがバブルの終わりに他国で力を振るうため、流出していったのだ。
その経緯を逆説的にとらえ、技術力のある者、力のある者はこの国から逃がさないため、ありとあらゆる手段を
でなければ死刑で一生、外にでないようにするつもりだったのか。
とにもかくにも、俺はジオパンクのお偉いがたに好かれているのだ。
「命令だ。まずはTTTの動向を探ってもらう」
「あいよ……。それも笹原総理の提案か?」
「ああ。おれとの合同作業になるがいいか?」
「へっ。足手まといになるなよ」
「言うな」
俺がパソコンを操作し始めると、大輔はスマホを手に外にでていく。
「それにしても、綺麗ね。私がいたときはこんな風じゃなかったのに……」
「それはわたしが片付けたの。それができるのはわたしだけ!」
「そ、それは……でも、パソコンでフォローできるのは私だけなんだから」
それは本当に得心いく。彼女がいなければ、俺のハッキング人生もなかっただろう。
「なんで小姑気取りなの」
ひき気味な美柑に、斗真が口を挟む。
「たく、なんで競っているのか、分からないが、姉さんも自重してくれ」
「むぅ。弟がいじめてくる」
「いじめてはいないだろ」
口を尖らせる春海に、困惑する斗真。
「言うてやるな。春海ねえも、片付けが得意ではないからな」
「あら。そうなの。ごめんなさい」
いきなりの謝罪とどや顔を見せてくる。
「なんで謝られているのかしら?」
「あなたには、わたしみたいな女子力が足りないみたいなの」
「女子力とか、死語を使うわね。私にもできることがあるわよ」
相変わらず二人がいがみ合っている中、俺はモニターに向き合う。
データの海の深いところにTTTの動きを探る。
「アメリナ大陸の、西ロムーンゼルスにて大規模集会の動きあり」
「本当か。それは」
「ああ。間違いない。確定情報だ。期日は六月五日」
大輔は慌ててスマホを操作し、伝える。
「しかし、こんなことをしていたんだな。お前は」
「意外か? 斗真」
「まあな。お前らしくはない。もっと楽に生きているかと思ったぜ」
筋肉をもりもり動かしながら訊ねてくる斗真。
国会での出来事から二日。
専門家会議が終わり、その内容を国民に知らせると、今度は海外からの揶揄が始まった。
特にアメリナとノースアーチ、
宙名はジオパンクとの関わりも大きく、大規模な休みがあると、ジオパンクへ出掛け大量に商品を購入――つまり爆買いをしているのだ。
物であるのなら購入できるはず――とのことで、ジオパンク政府に圧力を強めているのだ。
だがジオパンクは俺を購入直後、一切表に出さないと決めた。
俺は裏でこそこそと調べ物をするのは得意だった。だから宙名とアメリナ、ノースアーチの懐事情も掌握している。他国の裏で行われている密輸や違法売買などを調べているのだ。
それを盾に、ジオパンクの利権を維持しているのだ。利権を争っている中で俺が天秤のはかりを重くしたのだ。
「俺って最強~」
『それさえなければ、完璧なのに……』
チャットの欄にルプスの名前で飛んでくるメッセ。
「うるせー。俺は俺のために生きているんだよ」
『らしいわね』
「ちょっと! 何を調べているのかな!」
俺は悲鳴をあげて〝履歴〟と〝会議フォルダ〟をブロックする。
「なんでこんなときに限って修復プログラムが起動するかな!」
消したい履歴とフォルダなのに、消えてくれないのだ。
『性癖まで歪んでいるのね』
「うるせーばーか」
「なにをそんなに騒いでいるの? 颯真」
チャットをしながら叫んでいたら、後ろから声がかかる。
美柑が柔和な笑みを浮かべて包丁を持っている。
「いや! それは置いてこい!」
「あ。ごめんね。ついあいつの声が聞こえたから」
音声チャットだからか、美柑にも聞こえていたらしい。
チャットのボリュームを下げると、TTTの捜査に戻る。出てきたデータは全て大久保大輔に送っている。
彼が仲介役となり、国内外のTTTを滅ぼそうとしている。
しかしTTTは組織というよりも主義者だ。古き良き伝統を重んじ、格式高い習わしを大事にする。を題目に古い伝統を求めて活動するのがTTTだ。
昔の奴隷制度や、皇帝制を戻そうとしている割には、銃やミサイルも扱うので、危険極まりない。
「ヒット! TTTのメッセが入ってきた。アメリナと宙名」
『了解。大久保大輔捜査官にメッセする』
「おし。ありがと」
そう告げると、今日のハッキングを終了する。
視線をリビングに向けると、不満そうにしている美柑が立っていた。
「むぅぅうう」
「どうした? 何かあったのか?」
「あいつには言うのに、なんでわたしには言えないの?」
「何の話だか」
「ありがと、って言ってもらえないから……」
頬を膨らませて不満を募らせる美柑。
「あ~。いつも掃除ありがとな! あとは帰っても大丈夫だから」
「なんで、そんな態度なの~~!」
怒りを露わにする美柑。
『相変わらず、女心は分かっていないようね。颯真』
「うるせー。そんなの分かっているのなら、困っていないつーの」
『ということは女の子には興味あるんだ』
「うるせー。今はTTTの動向だろ。そっちを優先しろ。このタコ娘」
『タコで悪かったわね』
言ってから気づくが、今どきタコなんて
しかし、TTTの連絡網33%独占か。あとの66%はどうしたものか。
「おい。ハウンド」
「なんだ。大久保捜査官」
「今、ネヴァ=ヒューズ捜査官から連絡があったが、確かにお前さんの言う通りTTTのメンバーと思われる三名を拘束、そのうち一名が爆弾を所持していた。そうだ」
「そうか」
「なぜ。分かった……?」
大輔捜査官は興味津々といった様子で訊ねてくる。
「簡単だ。今回の場合は検索履歴からたどった」
「履歴……?」
ああ、と頷く。
「履歴によると〝爆弾〟と〝TTT〟というワードだ。それから〝犯罪〟などの過去データから引き抜いてきた」
「そんな手間をこの短時間で?」
「ああ。それに、このチャットの書き込み。これが決め手になったな」
「なるほど。書き込みにあるとおりなら、自爆テロを行おうとしていることが明確だな」
「その通り。これによりイエローからレッドになった」
「レッド?」
俺たちの間では危険レベルにレッテルを貼っている。それは過去数十年にわたり、その人の記録をとり続けその中でもとりわけ危険認定されている者がグリーン、イエロー、レッドの三種類に分けている。
他にも危険レベルを数値化した危険度指数なるものもあるが、今回に至っては色で危険度を表した。
そのために、TTTのテロ行為を未然に防ぐことができた。
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