第6話 ハッカーとデート。

「TTTの動向を探れ……か」

『もうほとんど解決したも同然じゃない』

(そうじゃない。奴らは組織というよりも主義者だ。いつまでも湧いて出てくるぞ)

『じゃあ打つ手ないじゃない』

 俺と春海は困ったように呟く。

「それよりも勉強しないと!」

 美柑が訴えてくる。

「ああ。そうだったな」

 今日のテストでも手応えがあった。

 これもひとえに大久保おおくぼ美柑みかんとの勉強会のお陰だ。

『むぅ。颯真のクセに……』

 恨み言のひとつも呟きたくなる一ノいちのせ春海はるみだった。

「ここはX二乗だから……」

「あ。そっか。先にこっちをやらないといけないのか」

「そうそう! うまく言っているの」

 勉強もプログラミングと一緒でコツコツと積み上げていけば、うまくいくということが分かった。

 数学に関してはプログラミングに使われている数式も多く、すぐに呑み込むことができた。

「で、お前はどっちの女の子が好きなんだよ!」と、一ノいちのせ斗真とうまがしゃしゃり出てくる。

 その手にはグラビアアイドルの写真集が握られている。

 片方はのんびりアイドル系、片方はスマートな長身アイドル系。

「って、どうでもいいな」

「そうか? オレにはどっちもいけているけどな」

「いやいや、なんでアイドルなんだよ。それよりも勉強だ」

「そうなの~。明日の期末テストに向けて頑張るの」

 のんびりとした口調で呟くのは美柑。

『私もまぜなさいよ!』

 と怒りを露わにするのが春海。

 確かに二人ともアイドルに負けず劣らずの可愛い系だが、それを考えて写真集を取り出したのか。いやいや、そんなはずはないな。

 なんせ斗真だしな。うん。

「しかし、こんな計算はパソコンでやらせればいいんじゃないか?」

「そのパソコンが壊れていたら、自分で計算するしかないの」

「なるほど。パソコンが計算ミスをしていないかを知る必要があるのだな!」

 斗真がどや顔で話すが、聞く耳を持たない俺と美柑だった。

「そうそう、そっちに代入するの!」

「よし、だいたい分かった。次の問題にいくぞ。斗真も勉強しろよ」

「へへ~ん。オレは姉ちゃんに言われてきただけだぜ? そんなことするかよ」

 バカがいる。

 どうせなら、一緒に勉強すればいいのに。遊びにきているのと同じ感覚なのだ。

「それにしても、春海ねぇは今年受験か」

「そうだな。オレのカンだとけっこうピンチっぽいな」

 斗真の言う通りだろう。

 春海はハッカーとしては優秀だが、俺と同じく、他を犠牲にしてハッキングの知識を得ている。

 好きこそ物の上手なれ、ということわざ通りの人生を歩んできた人だ。それは間違いないのだ。それにしてもプログラミングをしているとパソコンと英単語、数学に強くなるらしい。

 勉強会が終わると、俺はパソコンに向き合う。

「さてと。そろそろWNAEMの会合が開かれる……か」

 春海と勝負しているのだ。久しぶりにマスコミにリークして稼ぐか。

 早速、WNAEMのパソコンにアクセスすると、情報を引っ張り出す。

「なるほど。アメリナとノースアーチ、ノシアが軍事同盟を発表か……」

 これは高く売れるぞ。

 マスコミのパソコンに接続し、情報を提供する。その代わりに金をもらう。

「よし。これで今月も生きていける」

 それに春海に勝てた。

『ちょっと! どんな速度で接続しているのよ』

 噂をすればなんとやら。

 すぐに春海から連絡がくる。

(本気を出せばこんなもんよ)

『これじゃあ、私が命令できないじゃない』

「ご愁傷様」

『でも、間違いがあるようだね。今はまだジジアンの参加が発表されていないわ』

「なに!?」

 慌ててアクセスすると、ジオパンクとジジアンも参加する意向を示している。

 情報が早すぎたのだ。

 データ入力が始まる前にデータをリンクしてしまったのだ。

「これはマズいな。マスコミに追加情報を与えないと」

(これで私の勝ちだね。颯真)

『ああ。負けたよ。完敗だ』

(では、今度私に付き合いなさい)

『分かった。テストが終わってからな』


※※※


 テストが終了し、久々に斗真の姉・春海と会うことになっている。

 場所は駅前のナナ公前。子犬が七匹いる石像の前が集合場所になっている。

 俺は黒いTシャツにジーパンというラフな格好できた。

「それにしても、どうしたらいいのか……」

 俺に好意があるのは二人だ。なにせ、俺はかっこいいからな。

「お久しぶりね。颯真くん」

 時間ぴったりに現れる春海。

 170はある高身長に、華奢な手足が伸びている。白い肌は透明感を持っており、ガラス細工を思わせる。

 衣服は白いTシャツに赤いフレアスカート。シンプルだが、彼女のスマートさにはよく似合っている。髪飾りがワンポイントアクセントになっており、かわいらしさを表現できている。

「いやいや、さんざんチャットしてきたでしょう。春海ねぇ」

 春海とは幼馴染みにあたる。弟・斗真の義理の姉にして、頼れる存在であった。ちなみに俺がハッカーになったのも、彼女の影響である。今でこそ、俺の方がわずかばかり優秀ではあるが。

「うふふ。それでも久しぶりに会うのは嬉しいものよ」

「そういうものか?」

「そういうものよ」

 くすくすと笑いながら歩き出す春海。

 その先は改札に向かっている。

「付き合って、と言われたが、どこに向かうんだ?」

「隣町にできたショッピングモールAOBAよ」

「AOBAか。初めて行くな」

 おしゃれなお店がたくさん並んでいると聞く。その数約二百店舗。アパレルショップの他。レストラン、カフェテリア、靴屋、ゲーセンまであるという。

 隣町まで電車で五分ほど。途中、満員電車になり、春海が潰されないよう手を置いて空間を確保したのだ。これで惚れない女はいない。

「ありがと……」

 頬を赤くし、呟く春海。

 惚れたな。と確信を抱くと、俺は内心ガッツポーズをとる。惚れさせれば、俺に貢ぐようになるだろう。

 美柑といい、チョロい女の子が多いな。

「着いたわ」

 目の前には大きな施設がある。全長75mほどの施設だ。向かいにも同じくらいの施設があり、そちらはプールやボウリングなどの複合レジャー施設だ。

「しかし、春海ねぇがショッピングをしたがるとは」

「いいじゃない。たまには外に出るのもいいものよ」

「そんな精神論は受け付けないぞ」

 出不精な俺にとっては外に出るのは苦手なのだ。それに人が賑わっているような場所も苦手だ。だから二つの意味合いでショッピングモールは苦手だ。

「でも運動はしないと身体に悪いわよ」

「うっ。それは、そうだが……」

「というわけでいきましょ!」

 テンションの高い春海に連れられてAOBAの入り口をくぐる。

 中には老若男女の人混みが多く、とてもじゃないが、目が回りそうな光景だった。それに店内BGMなどが響いており、情報量の多い世界に困惑する。

「なんでこんなにいるんだよ」

「テスト終わりの日曜だからね。まだまだ増えるわよ」

 よく見ると、同じ高校の制服を着ている男女がけっこうな数いる。男子だけのグループや男女のカップルまでいる。

 となれば、当然二人できている俺と春海もカップルに見えるわけで……。

「気にならないのか?」

「え。なにが?」

 ポカーンとしている春海に対し、意識してしまった俺が恥ずかしくなる。

 とはいえ、デートのお誘いをした春海だ。意識していないわけがない。でももしかしたら、弟の友人――幼馴染みの友だちていどにしか意識されていないのかもしれない。

 そう考えると顔面蒼白になる。

 意識していたのは俺だけで春海はそんな気持ちはない。にもかかわらず、俺だけが意識してしまっている。

 なんともまあ恥ずかしい話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る