第67話:「勘太郎、上、脱いで」
「
あの二人は目当てのものを見つけられたんだろうか、まだあそこに『Everyday is good!』のパーカーは吊り下がってるけど……などとぼんやりと考えていると、芽衣が真顔で詰め寄ってきた。
「……え? ここで?」
「ここでに決まってるじゃん。他にどこが?」
「い、家とか?」
「はあ……?」
真顔が
「何言ってるのかよくわかんないけど、とりあえず、これ」
そう言って差し出されたのは前が
「ああ、そういうことか……」
要するに、上(着)を脱いでその代わりにこのパーカーを試着してみろということなのだろう。
「なんだと思ってたの?」
「なんだろう、と思ってた」
「……いやらしい」
「うん……そうね……」
ジトっと見られて、残念ながらうなずかざるを得ない。ごめんね芽衣ちゃん……。
おれが
「ん」
と両腕を差し出してくる。
ハグを求めているようにも見えるその
「……コート持ってあげるから貸して、そんでパーカー取って」
と説明してくれた。
「ああ、そういうこと……」
「な、なんなの。このお店にきてからいきなり
「いや、たまたまだよ……」
芽衣に
受け取った赤いパーカーを着てみて鏡に向かうと。
「うん、やっぱり良い感じだね!」
鏡の中で、おれのコートを抱きかかえた芽衣が満足げにうなずく。おれはどちらかといえばコートを抱きかかえてくれてるのがなんだか嬉しくてそっちに目がいってしまった。
「勘太郎?」
「あ、ああ……赤いの、目立ち過ぎないか?」
「んー、そう?」
「うん、戦隊モノのリーダーみたいっていうか……」
「あはは、そんなことはないけど。でもまあ、気になるならさ」
苦笑いした芽衣はそう言って、おれのコートを広げておれの背中側に回る。パーカーの上からコート着てみろということらしい。
「うんうん。そんで、フードを出します」
おれが
「ほう……」
「わあ……! これでどう?」
「……いや、緑に赤のこの
「可愛いよー?」
にひひ、と笑う芽衣。
「可愛い、でいいのか? それ褒め言葉?」
「あはは、かっこいいかっこいい」
本当に、この人は……。でもこんなに芽衣が嬉しそうにしている理由は
「……芽衣は、クリスマスが本当に好きだな」
「うん、大好き!」
おれのクリスマスカラーになったコーディネートを見ながら
「あれ、だめだった……?」
少し残念そうにする芽衣を横目におれは歩き出した。
「いや、買ってくる」
「ほんと!?」
歩きながらチラリと値段をみると、4800円+税。
税込で
……いや、安くはないけどさすがに今戻したらカッコつかないもんなあ……。
「日が短くなったねえ……」
散々歩き回ってなんとか
「そうだな、まだ5時なのに、もう真っ暗」
「ね」
ほおーっと芽衣が息を吐いて、
「ほら、白いよ」
と笑う。
「芽衣」
「ん?」
おれは、
「……これ」
「へ?」
「着ろよ」
そして、赤いパーカーを芽衣になかば押し付けるように差し出した。
「え。でも、これ、今買ったばかりじゃ……」
「いいから。寒いんだろ?」
「どうして……?」
「
「うそ」
芽衣が鼻を両手で隠す。
芽衣は昔から、寒いと鼻がまず赤くなる。
芽衣の両親がよくからかっていて、芽衣がいじけていたのでよく覚えている。中学を卒業して反抗期を終えたあたりからは、可愛がられてるだけだと気づいたみたいで、別にそのことをなんともいわなくなったが。
「隠さなくていいって」
「……なんで」
「何百回も見てるから。ほら」
受け取られずに宙ぶらりんになったパーカーが気まずくて、おれはそっと芽衣の背中側からパーカーを半強制的に
「う、うん……ありがと……」
内側から
「ちゃんと腕通して良いから」
「わかった……!」
うつむき気味に芽衣が腕を通して、前のチャックを全部閉じた。
「……
「手袋ないからちょうどいいだろ」
「……値札まだついてるんだけど」
「新品だって分かっていいだろ」
照れ隠しなのかなんなのか、ぼそぼそと文句を言ってくるのでおれもとりあえず言い返してみた。
「……予算オーバーしてるんだけど」
「欲しかったんだからいいだろ」
芽衣があんなに目をキラキラさせたせいだ。
「……ばか」
「……なんだよ」
おれがジト目を作って芽衣の方を見ようとすると同時、隠れるようにささっとフードをかぶる芽衣。
「……今の顔、見ないで欲しいんだけど」
「……はいはい」
それでもちらっと見えてしまった横顔は、鼻先だけじゃなくてその頬まで、パーカーと同じ色をしていた。
「……あったかいっていうか、なんかちょっとあついんだけど……」
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