第62話:「幼馴染とはなんたるかを考えているんです」
「はじめまして、
そう名乗った彼女は栗色のショートカットの髪を揺らして快活に笑う。
「おお、はじめまして……!」
見たところ年下のようだが、初対面の相手にもまったく
うちの親含めて大人のよくいう、『人の
いや、でも、この人
「勘太郎くんのその表情は何……? なんか失礼な目をして私を見てない?」
おれが気を引き締めるべく赤崎の方を見ていると、呆れたような目で見返してくる。
「いや別に、赤崎のいとこにしてはちょっとキャラが違く見えるなあと思って」
「大丈夫。なっちゃんは、ちゃんと良い子だから。まあ、裏がないとは言わないけど……。いや、というか私も別に悪い子じゃないんだけどな……?」
「悪い子じゃないけど
「ひどいなあ、もう。怒るよー?」
上目遣いであざとく頬を膨らませる赤崎。そういうとこだよ……。
「それで、勘太郎くんは一人?」
「えーっと……」
表情を戻した赤崎の質問におれはつい目を泳がせる。
今を乗り切るだけなら一人ということにしておいた方がいい気もするが、この
「……実は、芽衣と」
「へ、芽衣ちゃんと……?」
赤崎の目が丸くなる。おれは芽衣の印象を落とすわけにもいかないので、すぐに弁解を追いかけさせた。
「って言っても、芽衣が思わせぶりな態度を取ってるとかじゃなくて、おれが頼みこんで拝み倒して一緒にきてもらってるだけだから」
「へえ、勘太郎くん、やることはちゃんとやってるんだね……!」
「なんだそれ?」
思ってなかった反応が返ってきて、今度はおれが眉をひそめる。
「ううん、芽衣ちゃんへのアタックは
サポートっていうのは、赤崎と別れた後にしてくれると言ってるやつのことだろうか。それはどちらにせよ要らないというかされても付き合えないわけだが……。
「ななちゃん、芽衣さんという
話に置いてけぼりになってしまった小佐田さんが赤崎に質問した。
「ああ、えっと……おれの幼馴染」
「幼馴染!!!!」
赤崎に任せるとなんと説明されるか分かったものではないのでおれが教えてやると、小佐田さんは瞳をぱぁぁっと輝かせて見上げてきた。
「あ、うん……」
たじろぐおれを見て赤崎がため息をつく。
「はあ……ごめんね勘太郎くん、この子、幼馴染の恋バナが好きで……」
「幼馴染の恋バナ……?」
「はい、お恥ずかしながら……」
と照れたように返してくる小佐田さん。
「えっと……恋バナが好きなんじゃなくて? 幼馴染の限定ってこと?」
世の中には不思議な
「はい、幼馴染だけというとちょっと
「専門分野……? そんな研究者みたいな」
おれが半笑いでツッコミを入れると赤崎が諦めたみたいに首を横に振る。
「なっちゃんは研究者なんだよ、勘太郎くん」
「ええ、言っちゃうの!?」
小佐田さんが驚いたように身体を
「言っちゃうも何も今ほとんど自分で言ってたでしょう……? なっちゃんは幼馴染の研究をしているの」
「研究? あれ、もしかして大学生でしたか?」
「いえ、高校一年生です」
見た目で判断してタメ
「ああ、良かった……。いやいや、よくないよ。なに、幼馴染研究って?」
「幼馴染についての研究ノートや実習課題を書き溜めて、理想の幼馴染シチュとか幼馴染とはなんたるかを考えているんです」
「実習課題……?」
ぽんぽん疑問が生まれてくる。なにこれ、おれが悪いのか?
「わたし、漫画や小説なんかで使われている幼馴染っぽいシチュエーションを実行してみて、実際にどんな風に感じるかとか、本当に幼馴染はそういう行動を取りそうか、とかを調べるんですけど、その課題が実習課題ですっ!」
「はあ……?」
おれがなおも理解できずに首を傾げると、小佐田さんがすぅ……と息を吸い込む。
「例えば、『他の人のことは名字でしか呼ばないのにお互いのことを下の名前で呼ぶ』『お互いの家でご飯を食べる』『風邪を引いた時に看病する』『お互いの家の合鍵を持ってる』『朝、家まで迎えにきて起こしてくれる』『学校で「夫婦」と冷やかされて「腐れ縁です!」と二人で
「はい。了解しました。ありがとうございました」
人は、自分の理解を超越したものが目の前に現れると、防衛本能からか理解をしようとすること自体を諦めるらしいということを学んだ。おれには無理だ。よっぽど
「はっ、わたし、ななちゃんと話してたばかりだからスイッチが……。すみません……」
「赤崎とはこういう話するんだ?」
頭を下げる小佐田さんに苦笑いだけど笑いかけると、
「はい、今日も研究成果をななちゃんに聞かせるために……」
と説明をしてくれた。
「えっと、いつもこれを……?」
おれが
「……聞かされてるの」
「へえ、『聞かされてる』んだ……?」
「そ、そう……」
ジト目で小佐田さんが赤崎をみて、赤崎がその視線をかわすと、そこに誰かを見つけたらしい。
「あ、芽衣ちゃん」
振り返ると、ぎくりと肩をはねさせる芽衣。
「こ、こんにちは
「えーっと……、今おれが芽衣に頼み込んでショッピングに付き合ってもらってるって話をしてたところ。この人は赤崎のいとこの小佐田菜摘さんだって」
「はあ……」
おれが口裏を合わせやすいようにやや説明口調で話すと。
「あの!」
「もしよろしければ、お二人のお話を聞かせていただけませんか?」
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