第61話:「……プレゼントした途端に付け始めたら可愛くないですか?」

「あ、ちょっと待って。トイレ行ってくる」


 店を出ると、左手で口元を隠しながら芽衣めいが右手をげる。


 ショッピングモールなので、お店の中にトイレがなく、大きなトイレが中心部分にあるような構造になっているのだ。


 ……ていうか。


「なんでいきなり口隠してんの?」


「……青のりついてたら恥ずかしいから」


 なんじゃそりゃ。


「いや、今の今まで普通に向かい合って喋ってたじゃん」


「今気づいたの!」


「ああ、そう……? ついてなかったけど?」


勘太郎かんたろうのチェックは甘いんだよ……! じゃあ、ちょっと待ってて。ちょっと時間かかるかもしれない」


「ああ、ごゆっくり……?」


 ごゆっくりであってるのかはよく分からないが、そそくさと芽衣がトイレの方に立ち去る。


 時間がかかると言われたしとりあえず待ってるかと、ちょっとひらけているところのベンチに座ってみた。


 ……なんかこの、『女子のトイレを待っている』と言う状況がデート感があってそわそわするな。


 落ち着かない腰をすぐに上げて、手近てぢかにワゴンで出ている出店でみせ物色ぶっしょくすることにした。


 そこは女性向けの小物が置いてあるお店みたいだった。


「何かお探しですか?」


 黒髪セミロングの美人の店員さんに声をかけられる。


「いや、えーと……」


 見てるだけですというのも失礼な気がして言いよどんでいると、


「プレゼントですか?」


 と質問が追加された。


 結構ぐいぐい来てる気はするのだが、なぜかあまり威圧的いあつてきな感じはなく、純粋におれを助けようとしてくれている感じがする。


「プレゼントとかでは……あ、いや、プレゼントです」


 よく考えたら、芽衣に今日付き合ってくれたお礼に何か買うなら、チャンスは今しかないのでは……!? と思い至り、返事の途中で方向転換をする。


「そうですか!」


 お姉さんが嬉しそうに手を叩く。


 う、期待させるほどの買い物は出来ない気がする……!


「あ、いや、えっと……プレゼントって言うとちょっとおおげさなんですけど。ちょっとしたプレゼントっていうか、なんていうか、ちょっとしたお礼的な……」


 おれは言い訳がましく店員さんの期待値を下げる。


「素敵ですね。女性への贈り物ですか?」


「はい、女性へ……。あ、でも、彼女とかじゃなくて……その……幼馴染っていうか……」


「あはは、なんとなく分かりました」


 さっきから聞かれてもないのに勝手にしどろもどろになっているな……。


 それでも余裕の微笑ほほえみをたたえている店員さん。胸元には「MIZUSAWA」とローマ字の名札なふだが留まっている。


「ご予算は?」


「んー……1000円以内くらいだと……」


 本当は500円くらいだけど……と思っていると、また見透かしたように、うふふ、と笑を浮かべる。


「それでは、1000円は絶対に超えない、という形で探してみましょうか。うーん……。無難ぶなんなものがいいですよね。当店おすすめのお花のヘアピンとかどうですか?」


「ヘアピン?」


「はい、女性ならあって困るものでもないですし」


「はあ。でも、そいつがヘアピン付けてるところ見たことないんですけど……」


 おれがほほをかきながら言うと、店員さんがちょっと悪戯いたずらっぽく笑う。




「……プレゼントした途端とたんに付け始めたら可愛くないですか?」




「ど、どうですかね……」


 なるほどですね! それはめっちゃ可愛いですね! と、心の中で大きく賛成するものの、自分をさらけ出し過ぎるわけにもいかないので、あえてぼんやりと返答する。でも本当それはめっちゃ良いと思います!!


「当店、お花の飾りのついたヘアピンの種類が豊富なんです。花言葉に意味を添えてさりげなく身につけたり出来てお洒落しゃれなんですよ」


「へえ……」


「例えば、これはツルニチニチソウ、花言葉は『幼馴染』ですね」


 店員さんが手近にあったヘアピンをして説明してくれる。言われて見てみると、それぞれのヘアピンの脇に花の名前と花言葉が書かれている。


「つるにちにちそう……。聞いたことない名前のお花ですね……」


 まあ、別に花に詳しいわけでもないんだけど……。


「ですよね、私も最近知りました。まあ、他にもたくさんありますので、何か贈りたい花言葉とかあれば」


「あー……」


 そう言われるとメッセージ性が妙に強くなってしまってちょっと選びづらいな、と思っていると、


「ああ。もちろん、その方に似合うかどうか、色味とか形で選ぶのが良いと思いますよ。花言葉は不吉なものでさえなければいいんじゃないでしょうか」


 と選びやすくなるようにフォローしてくれた。この人、おれの気持ちを分かってるな……?


「じゃあ、見てみます……」


「はい、ごゆっくり!」


 とはいえ、あんまり時間をかけると、芽衣が出てきてしまう。


「じゃ、じゃあこれで」


 少しだけ見て、芽衣に似合いそうなものがあったので指差す。


「はい、こちらですね! お包みしますか?」


「いえ、大丈夫です。ちょっとだけ急いでいるので、このままで」


「そうなんですか! では、値札だけ剥がしておきますね」


 すごい手捌てさばきで値札をがしてお店の袋に入れてくれたのを受け取り、カバンに入れる。


 うん、良い買い物をした気がする。と思って、トイレのほうに歩き出すと。


「あれ、勘太郎くん?」


「んな……!」


 赤崎あかさき七海ななみと見知らぬ小柄こがらな女子がそこに立っていた。


「ななちゃん、この方は?」


「えーっと、私のクラスメイトの諏訪すわ勘太郎かんたろうくん」


「どうも……」


 見知らぬ女子へ紹介されておれがお辞儀じぎする。


 それで、こちらの方はどなた……? と赤崎にアイコンタクトをすると、赤崎が「分かってる」とばかりにうなずきを返してくれた。



「それで、こっちの女の子は私の従姉妹いとこの……」



 赤崎が彼女をおれに紹介してくれようとすると、その女子自身が人懐ひとなつっこく笑って、一歩前に踏み出す。










「はじめまして、小佐田おさだ菜摘なつみと申します!」



===

<作者コメント>

 いつも本作品を読んでいただき、ありがとうございます! 小佐田菜摘とは誰なんでしょうか……。


 と、ヒキを作っておいて(ヒキになっているかは微妙)、大変恐縮なのですが、今後の更新頻度についてご報告とお願いとお詫びがございます。


 ここまで約2ヶ月間毎日更新をしてきた本作品「ずっと片思いしてる幼馴染がうちに居候することになった」なのですが、本日以降、隔日連載とさせてください。


 先日、第26回角川スニーカー大賞にて優秀賞をいただいた拙作「宅録ぼっちのおれがあの天才美少女のゴーストライターになるなんて。」の書籍化に向けた改稿作業や、書籍が出る前に公開したいと思っている続編(第4曲目)の制作などを並行してやっていきたいというのが理由です。


 当初はこれくらいの時期には文字数的にもいったんの結末を迎えている気がしていたのですが、計画を立てずにやっていたら勘太郎たちの時空では一週間しか経っておらず、ここから無理やり終わらせるのもな……と思って、かといって不定期更新にするとサボりそうなので、隔日更新という形をとらせていただきます。


 毎日の楽しみにしてくださっていた方は申し訳ございません。ちゃんと一つの結末を迎えるところまでは続けますので、ご理解いただければ幸いです。


 ということで、次の更新は24日(火)23時の予定です!


 これからも何卒よろしくお願いいたします。

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