第3話:「寝癖、すごいよ?」
月曜の朝。
スマホのアラームを止めてあくびを一つ。
階段を降りて
ラッキースケベ的なことがないよう、浴室に入る時には洗面所の鍵を閉めるようルールを定めたのだ。ていうか、普通そうするよな。
「あ、おはよう、
「お、おはよう……!」
それにしても、うちにいる芽衣は何回見てもドギマギしてしまう……。いや、朝、うちにいるの芽衣を見るのはまだ2回目なわけだけど。
「おじさんとおばさんはもう会社行ったよ。いつもこんなに早いの?」
「うん」
「そうなんだ、すごいね。うちはあたしの方がお父さんよりも家出るの早かったから」
うちの両親は共働きで、同じ会社で働いている。
「ていうか、芽衣も早いな。もう
「うん、勘太郎とシャワーの時間がかぶったら困るし。勘太郎が起きてくるまでにって思って」
「それはそうだな……助かる」
鏡を見ながら芽衣が説明してくれる。後半の『勘太郎が起きてくるまでに』ってところはよく分からないけど、寝てる間が一番安全的なことなのだろうか。
「でも毎朝芽衣が先に起きるの大変だろ。おれが早く起きようか?」
「いいの! だらしない姿見せたくないし」
「まあ、それはいいけど、あんまり気を張りすぎるなよ? これからまだ一年以上住むんだから、自分の家だと思ってくつろがないとストレスで倒れるだろ」
「別にそう言う話じゃないんだけど……」
芽衣は少し口をとがらせながらつぶやいたあと、
「あ、そうだ」
と、何かを思い出したような顔をして、おれに向き直る。
「ん?」
おれが首をかしげると、彼女は「ぷっ」と吹き出した。
「あはは、
にやにやと笑う。
「ああ、うん……?」
おれはくせっ
「いいよいいよ気にしないで、あたしも人のこと言えないから」
「そうなの? いつもさらさらじゃん」
「あはは、ありがとう。努力の成果なんだー」
自分の髪を触りながら嬉しそうにする芽衣。多分、昨日から洗面台に置かれ始めたアイロンのハサミみたいなその機械が関係あるのだろう。
「え、それで何? 寝癖の話をわざわざしようと思ったの?」
「あ、そうだ。ごめんごめん、違う違う。ちょっと衝撃的な髪型してるからそっちに目がいっちゃって。そうじゃなくて、あたしがしたかったのは学校の話」
「学校?」
「うん」
芽衣はうなずいてから、少し言いづらそうに口を開く。
「その……学校のみんなには、あたしが
「ああ、そういうこと……」
たしかに、今日がこの状況になって初登校になるわけだから、そこらへんのこともちゃんと決めておいた方がいいか。
「別に、勘太郎のことがいやだとかじゃなくてね? その…………変な
「変な
「その、からかわれるっていうか……」
「まあ、それはもう今さらって感じもするけどな」
おれと芽衣は小さい頃から一緒にいるから、高校に入りたての時は何回も『
「そ、そうじゃなくて、そうなんだけど、一緒に住んでるってことになると、付き合ってるとかよりももっと、なんていうか、深いお付き合いというか……」
「ああ、そういうこと……」
「うん……」
朝っぱらから二人して赤面してしまう。
そりゃ、そういう
「でも、住所変更? とか、どうすんの?」
「そりゃするけど。先生には正直に話すしかないかなあ……。その上で黙っておいてもらう」
「まあ、そうか」
どの道、同じ住所で二人の生徒が登録されていたら、そのうちバレるだろう。クラス一緒だし。
「わかった。じゃあ、少なくとも別々に行って別々に帰るって感じだな」
「うん……ごめんね」
「謝られるとなんかおれが一緒に行って一緒に帰ることを期待してたみたいだからやめてほしいんだけど」
「たしかに、それあたし恥ずかしい感じだな……。別に勘太郎のこと嫌いだから言ってるわけじゃないってことが言いたかっただけ」
「はいはい」
「ということで、あたし先に家出るから!」
そう言ってもう一度鏡を見て自分の顔に変なところがないかを確認すると、洗面所を出ていこうとする。
「じゃ、遅刻しないようにね、勘太郎! 行ってきます!」
「ほい、行ってらっしゃい」
その後ろ姿を見ながら、思う。
『謝られるとなんかおれが一緒に行って一緒に帰ることを期待してたみたいだからやめてほしいんだけど』
いやー、思いっきり期待してたんだよな、おれ……。
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