第59話 スルーしたい話題

「こいつ、実はめちゃくちゃブサイクなんだよ。それを恥ずかしがって、ブサイクな顔を隠すために仮面を被ってるんだぜ。笑えるだろ?」

「へぇ、そうなんですか。ですが私は、彼が仮面を外した素顔をまだ見たことがないので何とも言えないです」


 急に会話に割り込んできて、馬鹿にしたような笑みを浮かべて放った言葉。そんな俺の評価を下げる発言をする男子生徒。しかし彼が放った言葉に対して、興味がないというような無表情で答える転校生の少女。


 彼女の返答は予想外だったのか、眉をひそめムッとしたような不機嫌そうな表情を浮かべる男子生徒。これはマズイかもしれない。このまま会話が進めば、俺の素顔を確認させてみようぜ、というような話になって最終的に仮面を外せと言われてしまうかもしれない。


 俺は黙ったまま、2人の会話を傍らで聞くだけ。なるべく関わり合いにはならないように、やり過ごそうとしていた。だが、これは自分で何とかしないとダメなのか。


「いやいや、神本さんは可愛いんだからさぁ。友達として付き合うにしても、こんな奴とは釣り合いが取れないよ。もっとちゃんとした人を選んで、付き合うべきだね」

「釣り合いが取れないとか、よく分かりません。ですが、友達として付き合う相手はちゃんと自分で決めますよ」


 理解できないというように首を傾けている神本さん。彼女の反応と言葉に、さらに機嫌が悪くなっていく男子生徒。無理やりテンションを上げようとしているけれど、本心の表情は隠しきれないようだ。


 もう俺の話は、終わってくれないか。男子生徒は素直に、親しい関係になりたいと言えばいいのに。俺をだしに使って、彼女に近づこうとする気持ちがバレバレだ。


 俺としては、どうにかして仮面を外すようなことは回避しなければならなかった。だけど、どうしよう。悩んでいると、再び会話に割り込んでくる女子生徒が1人。


「ハハッ! それじゃあさ、実際に奴の仮面を外して確認を……」

「ねぇねぇ、そんなことより! 私は、神本さんの事がもっと知りたいなぁ。どこの県から転校してきたの? 皆も気になるでしょ?」

「私のこと、ですか?」

「そうそう、もちろん! 神本さんの話、聞きたいなぁ!」

「えーっと……?」


 華梨の強引な一言で、皆の意識が別の話題に移った。困惑気味の神本さん。だが、お構いなしに華梨は話を続ける。


堀部ほりべくんも気になるよね?」

「え!? あ、あぁ、うん。そうだな」

「ほらほら。次の授業が始まるまで、ちょっとしか時間が無いから。話そうよ」


 男子生徒にも声を掛ける。そうだ、彼の名前は堀部という名前だったか。いつも、流川の友人として見ていたから名前をど忘れしていた。そんな彼も、華梨が無理やり別の話題に巻き込んでいく。


 転校生である神本さんの腕に抱きつくようにして、自分の腕を絡ませていた華梨。それから、女子友達が居る方へと引っ張っていく。俺が座っている席から、どんどん離れてくれた。助かったと、小さく一息つく。


 助けに入ってくれて、本当にありがとう華梨。心の底から、俺は彼女に感謝した。気持ちの込めて視線を合わせると、華梨は神本さんの背中に隠れるようにしながら、俺にだけ見えるようにウィンクをした。


 華梨のお陰で、今の会話は上手くスルー出来た。だがしかし、転校生との距離感をなるべく離しておく必要がある。じゃないと、面倒なことが起こってしまいそうだと思った。


 しかし、なぜ俺にあんな興味を持っていたのか。やはり、こんな変な仮面をずっと被っているからなのか。

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