第57話 転校生
徒歩で学校に来るなんて、朝から慣れないことをするもんじゃないと後悔しながら自分の席に座っていた。今は、ショートホームルームが始まるのを待っている。
担任が教室に入ってきた。いつものように、いつくか連絡事項を伝えられて午前の授業が始まる。そう思っていた。
「よし、ホームルームを始めるぞ。皆揃ってるな」
ざわついていた教室が静かになって、担任の先生が話し出す。ぐるりと教室の中を見回して、生徒たちが居るかどうか確認していた。
「いきなりだが、転校生の紹介だ」
ん? 担任の言葉に自分の耳を疑った。担任の先生が放った、転校生という言葉に教室内が騒がしくなる。嫌な予感が脳裏をよぎった。いやいや、そんなはずは無い。
「落ち着け、お前ら。……よし、
「はいッ!」
扉の向こうから、聞いた覚えのある声が耳に届いた。今朝、聞いたばかりの声だ。彼女の学年は下だと思ったのに。ガラッと扉が開かれた。聞き間違えじゃなかった。そこには、さっき別れたはずの彼女が立っていた。
「ほらほら。落ち着けお前ら!」
女の子が教室に入ってくると、クラスの男子が沸いていた。そんな中、俺は視線を逸した。窓の外を見ている。
「
チラッと視線を向けると、自己紹介をして頭を下げる彼女が見えた。学校まで案内したけれど、今後はもう関わることは無いだろうと思っていた相手がクラスメートになるとは。関わらないと思ったのが、フラグになってしまった。
でも、ちょっと学校までの道のりを案内しただけ。到着するまで、そんなに会話も弾まなかったし興味も持たれなかったと思う。だけど。
「……」
「ぅ」
顔を上げた瞬間に、バッチリ彼女と視線が合った。コチラを凝視している。慌てて視線を逸した。見られていた。興味を持ったような目を向けられていた気がする。
「じゃあ、神本。あそこの空いている席を使ってくれ」
「わかりました」
良かった。席は、ちょっと離れた場所にある。神本という女子生徒が席につくと、近くに座っていた生徒たちが彼女を歓迎するように声をかけていた。あっちで親しいグループを作って、俺のことは忘れてくれると助かるんだけど。
「ねぇねぇ、よろしくね。神本さん!」
「はい。よろしくおねがいします」
「もっとラフに行こうよ。クラスメートになったんだから、さ」
「はい。でも、男性の方と話すのは慣れて無くて」
「いいじゃん。これから仲良くなっていこうよ」
「そうだね。もう私達、友達じゃん」
「うん。えっと、よろしくね!」
「お前たち。転校生と仲良くするのはいいが、授業担当の先生が来たらおしゃべりを止めて、ちゃんと授業を受けるんだぞ。わかったな?」
「「「はーい」」」
神本が座っている席の周りに居るノリの良い生徒たちが、元気よく返事していた。その調子で彼女とも仲良くしてくれ。俺は、関係ないフリを続けて過ごそう。
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