第56話 迷子の女の子

 身体が当たって、倒れそうになった女の子を受け止める。その瞬間、咄嗟に片手で自分の顔を触って仮面が着いたままなことを確認。無意識のうちに、外れていないかどうかを確かめていた。前回、それで素顔を見られてしまったから慎重にもなる。


「ご、こめんなさい!」

「いえ、大丈夫です」


 謝られたので、大丈夫と返す。その後すぐに女の子から距離を取った。変な誤解を招かないようにして、そのまま関わらないように足早で立ち去ろうとした。けれど。


「あ、あの。北田辺高校の生徒、ですよね?」

「ッ。えぇ。そうですけど?」


 残念ながら、離れようとする前に呼び止められてしまった。しかも、学校がバレている。俺が今、着ている制服を見られたようだ。残念ながら彼女も、俺と同じ学校の生徒だったらしい。女性用の制服を着ている。なんて運の悪い。


「あの私、道に迷っちゃって。学校まで行く道を教えて下さい、お願いします!」

「わ、わかったから。頭を上げて」


 ウルウルした瞳で事情を話し始めたと思ったら、学校までの道のりを尋ねられた。頭を下げてお願いされると、この場面を誰かに見られたとしたら、印象が悪すぎる。何だか勘違いされそうだし。急いで彼女に頭を上げさせる。


 どうやら女の子は、迷子らしい。ゴールデンウィークもとっくに過ぎて、夏休みが近い今の時期に学校までの道を尋ねるとは。もしかすると、転校生なのかな。


「あのぉ、学校までの道を」

「わかった。教えるよ」


 潤んだ目で再度、お願いされてしまうと断れない。


「学校までは、ここの道をまっすぐ進んで、少し行った途中にクリーニング屋があるからそこの道を左に曲がって」

「えーっと……」


 彼女に説明してみるが、ダメそうな表情を浮かべて理解しているのか分からない。道順を教えるだけでは辿り着けないかも。ここから学校まで案内するしかないのか。


「わかったよ。学校まで案内する。ついてきて」

「ありがとうございます!」


 転入試験とか、転校手続きのために一度ぐらいは学校に行ったりしなかったのか。迷子になって初日から遅刻したら、絶対にイジられるだろうな。俺だったら、事前に調べて行くけど。でも可愛らしい見た目の女の子だったから、イジられたりはしないのかな。そんな事を思ったが、その女の子には俺の考えていることは言わない。


「こっちです」

「はいッ!」


 俺が歩き出すと、素直に元気よく返事をして一緒についてくる。幼く見えるので、おそらく1年生だろうと思う。となると俺とは学年が違うだろうから、もう彼女と、学校で顔を合わせることも少ないだろう。




 あまり彼女と関わりたくないと思ったので、自己紹介もしないで薄っぺらい会話と学校までの道案内だけ。それだけで学校に到着した。向こうからもは、特に質問とかされなかったので何の話もせずに道案内だけして無事に完了。


 名前も知らない彼女は1人で職員室に向かって、俺はいつもの教室に向かった。

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