第54話 見送られて

 夕食までご馳走になってしまい、予定よりもだいぶ遅くまでお邪魔してしまった。家に入る前、祐一とは早めに切り上げようと言っていたけれど無理だった。


 もうそろそろ、家に帰らないと親に怒られてしまうかもしれない時間になった時、祐一が少々強引に帰ります、と言ってくれた。私も一緒に家へ帰ることにする。


 桜場家の家族に玄関先で別れを告げて見送られながら、私と祐一の2人で住宅街の夜道を歩く。


 街灯と各家から漏れ出る明かりで、意外と通りは明るいように見える。だが所々、光が届かずに暗くなっている場所もある。そこから何か飛び出してくるかもしれないという、ちょっとした怖さがあった。家に帰るまで、しばらくの辛抱だ。


 私は自宅に、彼は駅に向かう。だから今日は、ここでお別れかな。そう思ったのでさよならを言おうとした時、祐一から質問された。


「そういえば、華梨の家はこの近くなんだよな」


 さっき話した事を、彼はちゃんと覚えていたのか。それから、話が進み私の家まで送ってもらうことになった。申し訳ないと思ったけど、夜道を1人で歩くのも怖いと感じていたので彼を頼ることにした。

 

 久しぶりに、彼と2人きりで歩く。前回、バナナジュースを飲みに行ったデートを思い出していた。その時は、最後に少し気まずい雰囲気になってしまって、気まずいまま別れることになった。


 今回は楽しい気持ちのままお別れしたいと思っていたのに、私の口からは謝罪する言葉が出てしまった。止められなかった。


「ごめんね。あんまり私は、役に立てなかったけど……」

「いやいや、そんな事ないよ。華梨が居なかったら、桜場家の人たちと俺との関係が繋がることは無かったから」


 そんな私に対して優しくしてくれる祐一。気遣うような言葉で、励ましてくれた。それに、気が楽になったとも言ってくれた。彼の気持ちが楽になってくれて、本当に良かったと思う。私も嬉しくなって、先程までのネガティブな気持ちは消えていた。今日は、楽しい気持ちのまま別れることが出来そうだ。


 楽しく会話しているうちに、家についてしまった。もうちょっと話したいと思ったけれど、遅い時間に彼を引き止めるわけにはいかないだろう。祐一も家に帰らないといけないから。




「じゃあ、俺は行くよ」

「うん。祐一も、気を付けて帰ってね」

「あぁ。じゃあ、バイバイ」

「バイバイ」


 本当に見送りだけして、祐一は帰るようだった。互いに手を振って、私は家の前で彼の背中が遠ざかっていくのを眺めていた。


「お帰り」

「わっ!? い、居たの?」


 突然、背後から声を掛けられ驚いてしまった。振り向くと、ママがニヤリと笑って立っていた。


「遅かったわね。桜場さんに夕食をご馳走になってたんでしょ?」

「え? あ、うん。さっきまで、美卯ちゃんの家にお邪魔してた」

「それで、今のカッコいい男の子は?」

「えーっと……」


 彼について、どう答えるべきなのか。一瞬悩んでしまう。普通に友達だと答えればよかった。言い淀んでしまったことで、なんとなく紹介しにくくなった。


「ふーん」

「え。いや、違うからね」

「まだ”違う”ってことね」

「だから、違うって! 祐一とは、そんなんじゃ」

「ほうほう、祐一くんていう子なのか。良い名前ね」

「もう! だから!」


 自分で勝手に納得して、家の中に戻っていくママを追いかける。何か勝手に勘違いしているようだから、ちゃんと私と祐一との関係について説明しないと。

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