第50話 理解不能な出来事

「だ、誰だ、お前は?」

「中井祐一ですよ」

「……はぁ? どういう事?」


 私の目の前に居るキラキラしている超絶イケメンな人物が、中井祐一であるという事実を受け入れるのは非常に困難だった。いや、整形で別人のように顔を作り変える手術をしたとか。


「お前、以前と顔が違うじゃないか。整形でもしたのか」

「いいえ、違いますよ。寝て起きたら、こんな事になってました」


 どういうこと? 寝て起きたら、とは一体? 華梨の方を見てみると、ウンウンと頷いている。私の聞き間違えかもしれないと思って、もう一度説明してもらう。




 説明を求めると彼は、そうなった状況について順番に詳しく教えてくれた。前日は特に何もせず、ベッドに入って寝たということ。目が覚めて、顔を洗っている時には顔が別人のように変化していた。それから今まで、ずっと変化している顔のまま。


「まるで別人だな。ちょっと前まで、視界に入れたくないような顔をしていたのに、今では超絶イケメンになってる。アレを整形して、こうするまでにはかなりの時間が掛かるだろうし、辻褄が合わないのか」


 もう一度話を聞いても、理解不能な出来事だった。そんな事あり得るのだろうか。私には、彼が言っている事が本当かどうか判断は出来ない。けれど顔は別人のように変わっているということは事実。だから、本当にあった事なのだろうと思う。


 嘘をついて私を騙そうとしているのなら、もう少しマシな嘘話を用意するだろう。それに騙そうとする目的が、意味不明だったから。


 ということで、私は無理やり納得することにした。考えたって、仕方がないだろうから。そういう出来事が実際にあったんだろう、と思うだけにしておく。




「美卯のお姉さんに相談したいのは、祐一は今後どうなるのか。前の顔に戻るのか、それとも今のままで一生を過ごすことになるのか」


 なるほど。そういう理由で、姉さんに相談したいと伝えていたのか。ならばすぐ、伝えたほうが良さそうかな。


「うーん。いや、まぁ。一応言ってみるけど、姉さんでも分かるかどうか……」


 もう私は、考えるのが億劫になってきたから姉さんに後を任せることにする。

 姉さんに後始末を押し付けるようで申し訳なく思う。だけど私は、彼らと姉さんを繋ぐ役割だけに徹することにした。深く考えるのは止めた。


「ありがとう。祐一の話を、ちょっとだけ聞いてもらうだけでも良いから」

「俺からも礼を言うよ。ありがとう」

「ッ! 別にアンタのためじゃなくて、華梨のために姉さんへ伝えるだけだから」

「それでも、ありがとう」

「……」


 イケメンに感謝されて何故か恥ずかしくなって、咄嗟の反応で悪態をついていた。華梨のためだから、という理由で彼の感謝を受け取ろうとしなかった。それでも彼は強引に、感謝の言葉を伝えてきたから無視する。話してみると意外と良い奴そうだと感じてしまうのも、癪だった。


 顔が熱くなっている。今までライバル視していた相手なのに、ほんの少しだけだが好意を持ってしまった。われながら、ちょろい女だと思う。でも彼は成績優秀で頭が良く、運動神経が抜群で、顔もカッコよくなってしまった。なのに、ちゃんと感謝もしてくれる。クラスメートの女子たちが知ったら、ものすごくモテるだろうな。


 私は、彼に対して……。これも、あまり深くは考えないようにしておこう。

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