第44話 ご馳走の夕食

「どうぞ、召し上がれ」

「いただきます」


 結局、夕食を御馳走になることとなった俺は桜場家の家族と華梨の中に混じって、彼女たちと一緒に食事をする。テーブルの上には、各自それぞれに配膳された料理の皿が目の前に置かれていた。


 キレイに盛り付けされた白身魚の料理。炒めた野菜と輪切りにしたレモンが添えてある。レストランで出されても違和感ないぐらいに、ちゃんとした盛り付けをされていた。これを家庭の夕飯に出すとは、手間がかかり過ぎじゃないだろうか。恐る恐る食べてみる。


「ッ! 美味しい」

「そう? 良かった」


 思わず言葉が漏れ出た。久しぶりに家族の温かみを感じるような、美味しいご飯を食べられたような気がする。美卯さんの母親は、俺なんかの言葉で喜んでいた。


 美卯さんの母親が料理上手というのもあるだろう。だけど、いつも俺が食べている味気ない食事と、これほどまでに違うとは驚いた。


 どんどん食事の手が進む。次々と、肉や魚が盛りつけされたお皿を出してくれた。


「どうぞ。遠慮なくおかわりも言って頂戴ね」

「母さん、おかわり。この子も一緒に」

「あ、いや。俺は」


 美卯さんの父親がおかわりをするついでに、一緒におかわりすると言ってくれた。でも流石に他所様の家で遠慮なく、ご飯をおかわりするだなんて迷惑ではないか。


「ん? もうお腹いっぱい? 食べられない?」

「あー、えっと……。いただきます」

「うん!」


 美卯さんの母親に、キラキラとした視線を向けられた。これは、断れないだろう。俺が、いただきますと言うと言うと美卯さんの母親は、満面の笑みを浮かべていた。正直まだまだ余裕だったので、おかわりはありがたい。




 食事の時間は過ぎていき、たらふく美味しい料理を食べさせてもらった。食べすぎてしまったかもしれないと、焦ってしまうほど。


「ごめんね。もう、おかわりは無くなっちゃった」

「あ、いえ。俺も、もうお腹いっぱいで」

「あら、そうなの。なら良かった!」


 美卯さんの母親に謝られてしまったが、これだけ食べさせてもらったら大満足だ。本当に丁度いい具合で、お腹が満たされていた。


「でも、本当によく食べたわね。高校生の男の子って、こんなに食べるのねぇ」

「うちには、息子が居ないからな」

「そうね。もし居たら、食費代が大変なことになりそう」


 やはり、ちょっと食べすぎたかな。彼らにそういうつもりも無いんだろうけれど、遠回しに食べすぎたことを指摘されているような気がして、申し訳なく思う。


「すみません、食べすぎて」

「え!? あ、違うの。いっぱい食べてもらって嬉しいぐらいよ。実は今日、料理をちょっと多めに作っちゃったから余るかもしれない、って心配してたの。でも全部、食べきってくれて助かったわ」

「あー、それは。良かったです」


 満腹で幸福感に包まれる。このまま家に泊まっていけと言われたら、従ってしまいそうになる。いくらなんでも、それはダメだろう。ちゃんと自分の家に帰らないと。

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