第45話 見送って

「本日は、ありがとうございました」


 頭を下げてお礼を言う。色々と相談に乗ってもらって、美味しい夕食までご馳走になったから。


「夜は危ないから、気を付けて帰りなさい」

「困ったことがあったら、また相談に来ても大丈夫だから」

「まぁ、姉さんに相談するつもりなら事前に私に言ってよね」

「これからも、娘たちと仲良くしてくれ」

「はい。失礼します」


 桜場家の皆さんに玄関で見送られながら、俺と華梨は住宅街の道に出た。ここから最寄り駅までの道のりは、ちゃんと覚えている。


「そういえば、華梨の家はこの近くなんだよな」

「うん、そう。歩いて10分ぐらいかな」

「なら、家まで送っていくよ」

「え!? い、いいの」

「もちろん。女の子が夜道で1人は危ないから」

「そ、そぅ……、ありがとう」


 今日は、彼女にもお世話になった。少しでも華梨に恩返しができるように、家まで送っていくことにした。恩が無かったとしても、女の子に夜道を1人だけで歩かせるのは心配だから、ここで別れるという選択肢はあり得ない。


「ごめんね。あんまり私は、役に立てなかったけど……」

「いやいや、そんな事ないよ。華梨が居なかったら、桜場家の人たちと俺との関係が繋がることは無かったから」

「そ、そうかな……」

「そりゃあ、そうでしょ。華梨の手助けが無ければ、俺は今も変わらずにモヤモヤとした気持ちを胸に秘めたまま過ごしてたと思う」

「モヤモヤは、晴れた?」

「完全に消え去ったわけじゃないけど、多少は薄れた。華梨のおかげだよ」

「うん。良かった!」


 話しながら暗い夜道を2人で歩いていた。街灯に照らされて、華梨の明るい笑顔が見えたので俺は安心する。心の底から彼女に助けてもらったと思っているからこそ、言葉を重ねる。何度でも、助かったと華梨に言う。


「あ、着いた。ここが私の住んでいる家」

「そうか」


 もう着いたのか、と思った。歩きながら話に夢中になっていたから、到着を残念に思ってしまった。もう少し話していたかった。だが夜も遅いし、サッと別れよう。


「じゃあ、俺は行くよ」

「うん。祐一も、気を付けて帰ってね」

「あぁ。じゃあ、バイバイ」

「バイバイ」


 短めの会話で別れを告げると、俺はすぐ駅がある方面へ向かって歩き始めた。




「……」


 今までは、夜道を1人きりで歩くなんて当たり前のことだった。けれども今日は、少し物足りなさを感じる。そんな気持ちを抱きながら目的地に向かって住宅街の道を黙々と歩いていた。


 最寄りの駅に到着した。電車に乗ると、車内は空いていた。帰宅ラッシュと終電で混む時間帯の、ちょうど境目に乗れたようだ。


 俺は空いていた席に座り、ボーッと窓の外を眺めながら目的地の駅に到着するのを待っていた。夜だったから、流れていく風景が明るく見えた。

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