第40話 簡易診断
「ちょっと、近くで顔を見せてくれるかな」
「はい。お願いします」
楓美さんが席を立ち上がり、俺に近寄ってきた。真剣な表情で、顔を見せてくれとお願いされる。もちろんと、俺は頷いて許可した。
「あ、座ってて。顔に、触れても大丈夫かな?」
「どうぞ」
椅子に座っている俺に、立ったまま顔に触れてくる楓美さん。色々と確認される。彼女のほっそりとして冷たい指が、俺の顔に触れた。
顎をクイッと上げられて、お互いの顔が触れ合ってしまうような距離で、俺の顔が見られていた。目の下や鼻、頬、首のラインと次々に確認されていく。
「ここ、触っている感触はある?」
「はい。楓美さんの指の感触があります」
「じゃあ、ここは?」
「はい。ありますよ」
顔や首のあちこちを軽く指で圧されて、感触があるかどうか質問を繰り返される。一つ一つ、ちゃんと答えていく。
「うーん」
顔から指が離れて、確認が終わったのが分かる。楓美さんは唸っていた。彼女は、結論を出した。
「ごめん、分からない」
「そうですか」
予想はしていたが、残念な気持ちがあった。何か分かればよかったんだけど。医者である楓美さんに診てもらってもダメだったか。
申し訳無さそうに謝る楓美さんの顔を見て俺も、申し訳なく思った。こんな意味の分からない話の検証に付き合わせてしまって、本当にごめんなさい。
「顔のどこにも手術した跡は見つからないし、顔に何か注射したような感触も無い。触診した限り、筋肉や骨に何の異常も見当たらない。簡単に診てみただけだから、MRIで検査すると、もっと何か分かるのかもしれないけど……。顔が変わったなんて信じられないわね」
診てもらった結果、やはり何も分からないという。
「肌は年齢の割にキレイ。筋肉も健康そのものだし、骨や神経とかに異常は一切無いように思える。ものすごく自然。むしろ、優秀なぐらい」
「それは嬉しいです。でも、うーん」
診断結果を聞いて、俺も唸る。健康だということが分かって嬉しいけれど、喜んで良い結果なのかな。
「実は、私の専門って整形外科っていう分野なの。骨や筋肉、神経系の病気や怪我を治療することを主な目的としているのね。おそらく祐一君が診てもらうべきなのは、形成外科っていうのを専門にしている人だと思うけれど……」
顎に手を当てて、ものすごく悩んでいる楓美さん。
「そっちで診てもらっても、やっぱり何も分からないと思うかな。一応、私の友人に形成外科医が居るから相談できるけど。うーん……」
結局、無駄に終わるんじゃないかと心配しているのだろう。俺もそう思う。
医者に相談をしてみてもダメそうだ、という事が分かった。何も分からないまま、再び暗礁に乗り上げてしまう。
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