第33話 少しの希望と決断

 今まで考えもしなかったが、この顔の変化について医者に診てもらうというのは、かなり有効な手段ではないだろうか。


 一晩で顔が変わるだなんて、今まで聞いたこともないような事象。だから、正直に言ってあまり期待は出来ないと思う。だが、何も行動しないよりもマシな気がした。それに俺は、人体に詳しいわけではない。専門家に相談してみると何か分かることもあるかもしれない。


 今までずっと、元のブサイクな顔に戻ってしまう恐怖と不安を抱いて耐えるだけの日々だった。いつか、元の顔に戻ってしまうだろうと予測して毎日を過ごしていた。


 だけど医者に相談してみると、俺が抱いているネガティブな感情を取り除くためのヒントを少しでも得られるかもしれない。やってみる価値がありそうだと思えた。


「多分、普通に病院へ行ってお医者さんに診てもらおうとしても、ダメだと思うの」


 華梨が言いたいことは、理解できる。ある朝、目が覚めると別人のような超美形に変化していた。こんな荒唐無稽な話は、なかなか信じてはもらえないだろう。普通に病院に行って事情を話して診てもらおうとすると、頭がおかしい人だと思われる。


「だけど、身近にいる人なら少しは話しを聞いてもらえるかもしれない」

「それで頼ろうと考えたのが桜場美卯と、医者をしているらしい桜場の姉、なのか」

「うん」


 俺の身近には、医者の知り合いなんて探しても居なかったと思う。だけど、華梨は運良く友達の姉が医者をしている。彼女は親切なことに、その伝手を俺にも隠さずに教えてくれた。その伝手を頼っていけば、顔のことについての相談を聞いてもらえるかもしれない。


「そう。そのためにも、まず美卯ちゃんに現状を知ってもらわないといけない」

「わかった。この俺の素顔を、桜場美卯さんに見せよう」

「彼女は、少し前の祐一の顔も知っているから。今と比べて、違いも分かるはず」


 好都合だった。その違いを、身内である妹からお姉さんに伝えてもらい、どう変化したのか説明してもらう。知り合いより、身内の方がさらに信用できるだろうから。まずは桜場美卯さんに、この素顔を晒すことを決断した。顔見知りになって、彼女の姉に診てもらうために関係を築く。


「ありがとう、華梨。かなり気分が楽になったように思う。この顔のことについては何も出来ずに、ずっと不安を抱いて耐えるしか無いと思っていた。医者に診てもらうなんて、考えつかなかったよ」

「ううん。少しでも助けになれたら良かった。でも、まだ安心はしないで。まだ何も分かっていないんだから」


 俺は、華梨に感謝の気持ちを伝えた。彼女は大したことない、と言って謙遜をしている。だけど本当に俺は、彼女に助けられた気分だった。


 新たな道を、華梨に示してもらえた。

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