第32話 提案

「それで、誰に話そうと考えているんだ?」

「隣のクラスの美卯みうちゃんに」

「みうちゃん?」

「そう。頭がとても良くて優等生な、桜場美卯さくらばみう。私の友達」


 誰に話すつもりなのか尋ねると、華梨は真っ直ぐな目をして即答した。あらかじめ決めていたらしい、とある女性の名前を挙げる。名前は聞いたことがあるような気がするけれど、隣のクラスの女子らしいので俺は彼女に関して何も知らない。知り合いではないし、顔も知らないような人だった。


 わざわざ、どうして隣のクラスの女子の名を挙げたのか。


 桜場美卯と俺。一体、どんな関係があるのだろうか。それとも、華梨が何か関係があって、その娘の名前を口に出したのか。俺の素顔について、初対面になるであろう彼女に打ち明ける、そうする理由が何かあるはずだと思う。


 しばらく考えてみたけれど、何も考えつかなかった。なので、華梨に聞いてみる。なぜ桜場美卯なのか、と。


「どうして、その娘に俺の素顔のことについて話したいんだ?」

「彼女の姉が、女医だから」

「女医? 桜場の姉は、医者なのか」

「そう」


 美卯さん本人だけではなく、美卯さんのお姉さんも関係してくるらしい。そして、医者ということが今回、大きく関係することなのだろう。けがや病気に苦しんでいる人を治療し、回復を促す医者という仕事をしている人。なんとなく話が見えてきた。


「今まで祐一は、目が覚めると顔が超美形になっていた出来事について、他の誰かに話したり、相談したことは一度も無いんじゃないの?」

「あぁ、たしかに。この顔について、誰にも相談したことは無かった。まぁ、こんな事を相談できるような相手も居なかったからな」


 普通なら、一番身近に居るであろう親とは関わり合いにならないように、別居までしている関係だったから、相談なんて無理だった。現在も、俺の状況について彼らは何も知らないだろう。今後も知ることは無いと思う。そんな、冷えた関係。


 この悩みについて相談できるような、深い関係の友達も居なかった。学校で仲良く見せているのは、上辺だけの付き合い。下手に話してしまうと、イジメに繋がるような危険なネタ。なるべく秘密にしておきたかった。だから、仮面を被っていた。


 俺の現状を知っているのは、今のところ皆瀬華梨ぐらいだろう。他に誰も知らないような事実。俺が今まで、誰にも話してないから当然のこと。


「その顔について、他の人に相談してみるべきだと思う」

「医者にか?」

「うん、そう。一度、医者に診てもらうのが良いと思うんだ」

「なるほどな」


 華梨は俺に、この顔について医者に診てもらうのが良いだろうと提案してきた。

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