第31話 相談
「さて、帰るか」
今日も仮面を被ったまま授業を受けて、1日が終わった。もう日常となっている、俺の仮面。学校で仮面を被っていても、誰にも指摘されることなく過ごせていた。
帰り支度を始める。放課後になった直後の教室には、これから部活に向かう生徒、アルバイトに向かう生徒、そのまま家に帰る生徒たちが居た。
普段は俺も、学校が終わってアルバイト先へ自転車に乗って向かう。けど今日は、アルバイトのシフトが入っていないので、スーパーに寄って家に帰るだけ。放課後の予定は無かった。
最近、バイト先の人間関係が煩わしくなってきていた。距離を保ちつつ、なんとか働いている。だが、親切にされると心苦しくなるから邪険には出来なくて、このままバイト先で働いていると関係が深まってしまいそうだった。
彼らが親切にしてくるのは、この超美形のお陰だということが分かっているから、なんとか今は耐えている。けれど、このままだと親切な彼らを断ち切れなくなりそうで困っていた。今までのバイト先では、あんなに同僚と絡んで働けたことはなかったから。いつも冷たくあしらわれることの方が多いから。
もう、アルバイト先を変えてしまおうかと迷ってしまうほど悩んでいた。
でも今のバイト先は時給が良くて、働いている人たちも良い人たちばかりだった。働くのに何の問題もない。むしろ、良い職場過ぎて困っているぐらい。こんな職場で働きたいと思う人は多いだろう。それが問題だった。
元の顔が戻った時に俺は、あの場所から去ることが出来るだろうか。かといって、超ブサイクな顔に戻った後も辞めないでいたら、手の平を返さるれことは間違いないだろうし。今すぐアルバイトを辞めて、別のアルバイトに切り替えるべきなのか。
苦しむことになる道は、早めに引き返しておいたほうが良いだろう。新しく入ったばかりのバイト先だが、辞めてしまおうかな。
「祐一」
「ん?」
そんなとこを考えていると、声をかけられた。
声をかけてきたのは、華梨。あのデート以来、気まずくなったのか会話することも無かった相手である。仲良くすると約束したが、あれから特に交流がなかった彼女。それがいきなり教室で近付いてきて、親しげに名前を呼ばれた。
「ちょっと来て」
「は? 今からか?」
「そう。ちょっと、相談があるの」
「あ、おい」
俺は、華梨に腕を引っ張られる。教室がざわついているのを肌で感じながら廊下に出てくる。今まで関わりの全く無かった2人だ。急な展開にクラスメートたちは困惑しているのだろう。俺も困惑している。
俺が連れてこられたのは、校舎裏。俺が素顔を見られて口止めするために、華梨を連れてきたあの場所だった。
「おい。どうしたんだ?」
「相談があるの」
問いかけると、いきなり話を始める華梨。フザケているような感じじゃない。
「何だ?」
「祐一の仮面の下の秘密について、話したい人がいるの」
「ハァ? 俺の秘密について、話すだって?」
素顔については誰にも話さないと約束したはずなのに。その約束を破って、誰かに話そうとしている華梨。話していいかどうか、それを俺に確認しているのか。
「そんなの」
「これは、祐一のためになる筈だから! 信じて」
他の人に話すなんてダメだ、とすぐに断ろうとした。だけど、彼女の真剣な表情を見てみると、何か理由があるということを察した。彼女の目的が何なのか、何をするつもりなのか、まずは話を聞く必要がありそうだ。
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