第30話 避けられてる?
ホールについての研修をさらっと済ませた中井くんは、すぐに働き始めた。実際にホールに出て、お客様を相手に接客してもらう。しばらく様子を見ていたが、問題は無かった。後は任せて大丈夫だと思えるレベルにまで、すぐ到達してしまった。
「お疲れさま、中井くん」
「あ、はい。お疲れさまです」
「接客をやってみて、どうだった? 何か困ったことはなかった?」
「いいえ、特に困るようなことは無かったです。中本さんから見て、俺の仕事に何か問題はありませんでしたか?」
「うーん。指摘するような問題は、見当たらなかったかな」
「そうですか。ありがとうございます」
一定の距離を保つような会話が続く。研修のトレーナーと、新人アルバイトという関係から変化が無い。
「ところで今日はもうアルバイトが終わりだけど、この後に用事とかはある?」
「はい。早く家に帰らないといけないので」
「あ、そ、そうなのね。分かった。また今度、暇な時があれば」
「お疲れさまです。それでは、お先に失礼します」
「あっ……。はい、お疲れさま。気をつけて帰って」
踏み込もうとすると、バチッと弾かれるように距離を取られた。無理矢理は、ダメそうだった。じっくり時間をかけて、彼とは親しくなっていく必要があるだろう。
そう思って、じっくり仲良くなっていこうとした。けれど、あれから数日経ったが特に進展はしなかった。
最初に出会った頃より、もっと距離を置かれているような気がした。どうやら私は彼に、避けられているような気さえする。これは私だけに限らず、ファミレスの女性スタッフ全員が感じていることだった。彼とは、全然仲良くなれない。仕事に慣れてからは、さらに避けられるようになった気がする。
今日は、中井くんとシフトの時間帯が被っていた。彼と、少しだけ会話することが出来るような時間があったので、スタッフルームで待ち構えていた。
「おはようございます!」
「ッ!? あ、あぁ。おはようございます、中本さん」
バイトしに来た中井くんを捕まえて、まず挨拶する。声のボリュームを間違えて、ちょっと驚かせてしまったようだ。
彼の醸し出す雰囲気から、あまり話したくないなぁ、という拒否するような気配を感じていた。だけど、それじゃあ彼と会話できないから、なんとか強引に話しかけていく。
「もう、ホールでの仕事には慣れた?」
「まだ慣れていませんが、仕事は出来るようになったと思います」
彼の様子はちゃんと確認しているので、ホールの仕事が出来るようになったことは知っている。すぐ接客に慣れたようで、新人だったが実力は十分。ホールスタッフの即戦力として、ちゃんと働けていた。来店客数が増えている現状で、彼は頼りになる人材の1人だった。
知っていたが、会話するための話題として聞いてみただけ。
「それは良かった。分からないことがあれば、私に聞いてね。教えるから」
「大丈夫です。知識は身につけたので、後はちゃんと実践できるかどうか、なんで」
大丈夫だと返される。最初に一度だけ教えると、教えたことをちゃんと覚えていて動くことが出来ていた。仕事に関する質問もされなくて、トレーナーとしてはあまり役に立った実感がない。何か、彼を手助けできることは無いだろうか。
「なるほど! じゃあ、今日も頑張ってね。困ったことがあれば、いつでも」
「ありがとうございます。準備しないといけないので、それじゃ」
「あ、はい」
もうちょっと会話を続けたかったが、彼にスパッと終わらせられた。無理やり話を続けようにも、しつこくて嫌われるかもしれないから諦める。しかし、これでは彼と仲を深めるのは非常に困難だった。どうにかして、もう少し、仲良くなれないかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます