第34話 二人目
「ちょっと待ってて。美卯ちゃん、連れてくるね」
「あぁ、わかった」
スマートフォンで桜場美卯に連絡を取ったのだろう。色々と操作をした後、華梨は校舎に戻っていった。1人で待たされることに。腕を組んで、壁に背をもたれさせて帰りを待つ。校舎の影で薄暗くなっている場所に、部活で練習をしている生徒たちの元気な声が響いてくる。あと、どれくらい待てばいいのか。
「オイ。一体、どこに連れて行く気だ華梨!」
「お待たせ」
「ん? 誰か居るのか」
怒りを帯びたような女子の声が聞こえてきた。そして、華梨の声。ちゃんと、桜場美卯を連れてきたらしい。
「……ッ! お前は」
「どうも。中井祐一です」
仮面を被った俺の顔を見た瞬間、華梨が連れてきた女子生徒は驚いたような表情を浮かべていた。彼女が、桜場美卯なのだろう。黒髪でメガネを掛けた知的な女性だ。華梨は、彼女のことを優等生と言っていたか。そのイメージする通りの女性だった。
ただし、見た目とは裏腹に口が少々悪いようだ。
「なんで、コイツがココにいる? 何が目的だ?」
俺と華梨を交互に見ながら、目的を問いただそうとする桜場さん。何故か俺は憎むような視線を向けられる。彼女に何かしてしまったのだろうか。覚えが無いが。
「この前、相談したいことがあるって言ってたの覚えてる?」
「ん? あぁ。確か、姉さんに友達のことで聞きたい事があるって。……コイツが、その友達?」
「そう」
とりあえず、華梨に任せて俺は黙っておく。事前に色々と手回しをしてくれていたようなので。
「は? なんで、私がコイツの!」
「あれ? 祐一のこと嫌いなの?」
すごく拒絶されている。何故か俺は桜場さんに、ものすごく嫌われているようだ。でも何故だろう。彼女に嫌われるようなことをした覚えは無いんだけど。関わりも、特に無かったはずだし。
「お、おい。ゆ、祐一、ってコイツのこと下の名前で呼んでんのか」
「うん、そうだよ。って、待って。もしかして、美卯は彼の名前を知ってた……?」
「クウッ……」
華梨に指摘されて、変な声を漏らして面倒くさそうに眉をひそめていた。どうやら図星を突かれたような反応で、不快そうな表情を浮かべている桜場さん。
「ねぇ、なんで?」
「な、なにが……」
「なんで彼の下の名前、知ってたの?」
「う……」
華梨に圧をかけられて居心地が悪そうな桜場さん。俺も蚊帳の外にされて、何だか疎外感を抱いて居心地が悪かった。ちょっと話がズレているような。
「ッ! ……テスト結果の順位表で名前を見てたんだよ」
「テスト? 順位表?」
「そう。コイツが毎回、私の上にランクインするから。めちゃくちゃ嫌な記憶として残ってたんだよ」
「へぇ。そうだったの」
あぁ、そう言えば俺も桜場美卯という名前に見覚えがあったのを、今思い出した。テスト結果の順位表だったのか。
「それで?」
「え?」
「どうして、コイツと仲良くなってんだ?」
「あー、えっと。実は、その事が今回の相談と関係していて……」
「は? どういうことだ」
どう説明するべきだろうか華梨は悩んでいた。なので俺は自分の被っている仮面をトントンと叩いてみせた。これ、外そうか?
「うん、そうだね祐一。彼女に一回、見せてもらえるかな」
「あぁ。分かった」
「あ? 何だ?」
ようやく出番を振られる。もう既に覚悟を決めていた。俺は被っていた仮面に手を添えて、ゆっくりと外した。ちょっと勿体ぶって、素顔を晒す。
「は?」
桜場さんが、口をあんぐりと開けて驚いている。先程の知的な表情から一転して、ものすごく馬鹿っぽい表情だった。
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