第35話 事情説明
「だ、誰だ、お前は?」
「中井祐一ですよ」
「……はぁ? どういう事?」
奇しくも、俺が初めて今の顔を見た時と同じような言葉を放った桜場さん。仮面を外して晒した素顔を指さされて、誰だと問われたので俺は改めて自己紹介をした。
「お前、以前と顔が違うじゃないか。整形でもしたのか」
「いいえ、違いますよ。寝て起きたら、こんな事になってました」
過去に一度、美容整形も考えたことはある。だけど、ちょっと手を加えただけでは徒労に終わりそうで、手術するお金も無かったから断念した。まさか、そんなこともせずに一晩寝て起きたら、この顔になっていたのだから驚きだが。
「はぁ? 寝て起きたら? どういうことだ?」
疑問に思っている桜場さんに、詳しく事情を説明する。話を聞いている間、彼女は理解に苦しむというような表情を浮かべている。やはり、実際に体験した本人以外は話を聞いても納得できないだろうな。それが、よく分かった。それでも強引に理解をしてもらう。
「だから最近、そんな変な仮面なんて被って授業を受けてたのか」
「この顔で教室に行ったら、俺が中井本人だって誰も思わないでしょう」
「確かに」
もう1つの理由として、急な変化によって今まで保ってきた均衡を崩したくないと思ったから。目をつけられて、イジメられたくない。
「うちのクラスでも、少し前に話題になってたよ。中井が妙な仮面を被ったままで、普通に学校に来て、普通に授業を受けてたって」
「ずっと仮面を被ったまま、外してませんからね」
学校では、ずっと仮面を外さずに過ごしていた。多くの生徒たちに目撃されていたから、噂にもなっているだろう。
「まるで別人だな。ちょっと前まで、視界に入れたくないような顔をしていたのに、今では超絶イケメンになってる。アレを整形して、こうするまでにはかなりの時間が掛かるだろうし、辻褄が合わないのか」
ボロクソに言われるが、言われて仕方ないような顔をしていたから。桜場さんは色々と考えて、ようやく理解してくれたようだ。
「まぁ分かった。中井が普通に寝て起きたらイケメンになっていた、ということか。理解は出来ないが、納得した」
「美卯のお姉さんに相談したいのは、祐一は今後どうなるのか。前の顔に戻るのか、それとも今のままで一生を過ごすことになるのか」
「うーん。いや、まぁ。一応言ってみるけど、姉さんでも分かるかどうか……」
「ありがとう。祐一の話を、ちょっとだけ聞いてもらうだけでも良いから」
「俺からも礼を言うよ。ありがとう」
「ッ! 別にアンタのためじゃなくて、華梨のために姉さんへ伝えるだけだから」
「それでも、ありがとう」
ということで、医者である桜場さんのお姉さんに俺の事情を伝えてもらえることになった。
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